今回の記事は特別編!2025年度の新入社員が2回にわたり訪問。計15名が社長室にやってきました。参加者すべての質問を掲載することはできませんが、ユニークな質問をいくつかピックアップしてお届けします。
今回社長室のドアをたたいた新入社員たちと中村さん
1回目の参加者。後列左から:川名さん(味の素フィナンシャル・ソリューションズ㈱)、佐藤さん(グリーン事業推進部)、西村さん(サステナビリティ推進部兼グローバル財務部)、滝谷さん(バイオ・ファイン研究所)
前列左から:木口さん(バイオ・ファイン研究所)、中村さん、向さん(東京支社)、竹内さん(バイオ・ファイン研究所)
2回目の参加者。後列左から:堀さん(食品研究所)、内田さん(東京支社)、藤田さん(サステナビリティ推進部兼グローバル財務部)、榎田さん(味の素フィナンシャル・ソリューションズ㈱)
前列左から:山木さん(中四国支店)、須藤さん(関東支店)、中村さん、高橋さん(食品研究所)、森さん(関東支店)
「サステナビリティの取り組み」をどうやって財務価値につなげる?
新入社員
私の業務上での課題なんですが、「味の素グループのサステナビリティの取り組みをどうやって財務価値につなげるか」ということに苦戦しています。信頼性を高めるために第三者保証を取得するとか、実績とその根拠をレポートで発信するなどの方法はあると思うんですが・・・中村さんご自身の考えを聞かせていただけますか?
中村社長
いきなり投資家のようなご質問で(笑)
新入社員
(笑)
中村社長
そうですね、サステナビリティを企業価値に結びつけるのは、まだ難しいかも知れませんね。たとえばブラジル味の素社にいたときの実感なんですが、ブラジルにはアマゾンがありますよね。アマゾンがあるということはサステナビリティに対する感度がとても高い。森林を傷つけるようなことに対して非常に厳しい規制があるんです。
アマゾンは世界最大の熱帯雨林。その面積の6割はブラジル国内にあります
中村社長
2025年(令和7年)11月のCOP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)は、ブラジルのアマゾン地域にあるベレンという街で開催されます。味の素グループはそこでサステナビリティの取り組みに関する財務情報やさまざまな情報を発信したいと考えています。
中村さんは2024年(令和6年)11月にアゼルバイジャン共和国で開催されたCOP29にも参加。写真は首都バクーにある会場にて
中村社長
こういう国際会議の場で味の素グループのサステナビリティの取り組みをしっかりと発信することは、企業の信用にもつながって格付けもよくなるでしょう。格付けがよくなると社債を発行する際などに比較的低いコストで資金調達ができるなど、企業価値向上に大きな役割を果たします。
中村社長
味の素グループではさまざまな取り組みを行っていますが、とくにアミノサイエンス®の技術を使ってGHG(温室効果ガス)の排出を減らす方向で考えていきたい。カーボン固定(大気中や排気ガスに含まれるCO2を固体の炭素化合物に変換させる技術)とか、畜産業においては味の素グループの「AjiPro®-L」を使うと、GHGの削減につながります。
中村社長
サステナブルな食べ物を食べればGHG排出が抑えられるというポジティブインパクトが創出されます。これはスコープ4ともいわれますが、事業活動や製品を通じたGHG削減への貢献ができることで財務価値は上がってくるでしょうし、EUの取り組みであるETS(Emissions Trading System:GHGの排出量に応じた取引制度)は、まもなく日本でも始まります。最初はエネルギーや科学分野から始まりますが、10年もすれば必ず食品分野も対象となるでしょう。そういった制度の活用によってマネタイズができてくる。
スコープ4ってなに?
中村さんが発言した「スコープ4(Scope 4)」を紹介するためには、まず、企業のサプライチェーン排出量について紹介しなくてはなりません。
国際的なGHG(温室効果ガス)排出量の算定・報告の基準である「GHGプロトコル」の中で定義されるサプライチェーン排出量とは、自社の自らのGHG排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指しています。原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生するGHG排出量をサプライチェーン排出量といいます。また、サプライチェーン排出量はその段階によってスコープ1、スコープ2、スコープ3と区分されています。
サプライチェーン排出量=「スコープ1排出量」+「スコープ2排出量」+「スコープ3排出量」
スコープ1(Scope1):事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス、車両等)
スコープ2(Scope2):他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
スコープ3(Scope3):その他の排出(製品の使用・廃棄、輸送、従業員の出張・通勤、投資等)
これに加え、スコープ4とは「GHGの削減」にどれだけ貢献できたかを示す指標です。使⽤されていた製品やサービスを⾃社の製品やサービスに置き換えることにより、サプライチェーン上の温室効果ガス排出量ではなく「削減量」を評価しようという考え方です。
スコープ4は現在のところ「GHGプロトコル」には含まれていませんが、GHG削減量による貢献価値は高く評価されています。
中村社長
企業にとって一番大事なのは「継続的成長」です。その根幹を支えるっていうのは持続性ですよね。サステナビリティは味の素グループの根幹にある概念です。ぜひ、一生懸命やってください。
新入社員
はい。しっかりとポジティブインパクトを創出できるように努めます!ありがとうございます。
海外で働くうえでの心構えとは?
新入社員
私は近いうちに海外で仕事をする機会があります。海外で働くということで、やはり日本との文化のちがいがあると思うんですけど、中村さんご自身のブラジル味の素社での経験から、海外で働くうえでの心構えについて教えていただけますか?
中村社長
ブラジルに行く前に歴史と風土の本を読んで勉強しましたが、非常に複雑な歴史を背景にダイバーシティ(多様性)のある国だと思いました。日本人同士のコミュニケーションでは、暗黙の了解で空気を読むことが求められることが多い。こういうのをハイコンテクストカルチャーといいますが、全部説明しないとわからないローコンテクストカルチャーの国もある。それ以外にもさまざまなちがいがありますが、こういうことをあらかじめ理解しておくと仕事がしやすくなると思います。
中村社長
でも、一番大事なのは、自分自身がそのダイバーシティを受け入れるっていう気持ちですね。日本人の常識や感覚を当たり前だと思って海外に行くのでは学べるものが少ない。
中村社長
たとえば、日本のギョーザを押し付けてもダメ。ローカライズ(製品やサービスを特定の国や地域の言語・文化・商習慣に適応させること)をして販売しています。ギョーザでいえば、ヨーロッパでは「アップルギョーザ」や豚肉ではなく鶏肉のギョーザを販売しています。
中村社長
現地でローカライズしないと食品が売れないということは、マインドセットもローカライズしなくてはならない。いろんなことを勉強したうえで、日本とはちがう常識を勉強しながら、ローカルにきちんと合わせていくことが大事です。
とはいえ、グローバルガバナンスも必要。日本人としてこれまで培ってきた部分とローカルを勉強していく部分との両方をバランスをとって行動するのがいいと思います。
中村さんがブラジル味の素社で手がけた「冷凍ギョーザ」。「高速開発システム」を用いて、わずか6か月でテストマーケティングにこぎつけたという逸話もあります
中村社長
あと、言葉ですね。楽しみ方が全然ちがいます。行く前にポルトガル語を学んで(ブラジルの公用語はポルトガル語)、ブラジルでも週に一回ポルトガル語を習っていました。上の人から「君の仕事はポルトガル語を勉強することではない」と言われましたが(笑)でもね、現地の従業員やお客さん、パートナーにも「歴代のブラジル味の素社社長の中でもポルトガル語が話せる人だ」と言われたんです。その国の言葉を学ぶことは、仕事にもいい影響があると思います。
新入社員
ありがとうございます。文化と言葉をしっかり学ぼうと思います。あと、アップルギョーザを食べたくなりました(笑)
CEOという立場で、モチベーションとなっているものは?
新入社員
私たち新入社員は目下与えられた業務に取り組んで、日々学んで成長するというのが大きなモチベーションになっているんですけど、中村さんのように、CEOといういまの立場での仕事のモチベーションとなっているものを教えてください。
中村社長
やっぱりこういう立場になるとひとつのモチベーションというわけではないですね。マイクロソフト社のCEO兼会長であるサティア・ナデラさんの本によると、常に4つを考えるようにしていると書いてあります。
まずひとつめが「お客様」そして「従業員」、「自社の製品・サービス」と「パートナー」。やっぱりこの4つは常に考えていて、それらを良くしていくというモチベーションがあります。
中村社長
また「三方良し」という近江商人の言葉があります。「売り手」「買い手」「世間」の三方ですが、ひとつめが「売り手良し」なんですね。基本的に従業員が幸せじゃないとお客様を幸せにできないし、社会を幸せにするってできないですよね。
まず、従業員がちゃんと幸せであること。いきいきと働くことができて、ちゃんとやりがいのある給料とボーナスがもらえている、というのがやっぱり第一優先です。
中村社長
私自身も味の素社で働いていることで不満を感じたことはなかったですね。好きな実験ができて、論文も書いて、学会にも出させてもらって、海外出張も、海外留学もさせてもらって、MBA(経営学修士)も取らせてもらって。本当にありがたい会社です。それは私も継続していきたい。
中村社長
いろんな挑戦をする人を会社できっちりサポートしたいです。ちょっと背伸びしたところの仕事ができて、それがうれしくて、一人一人がどんどん成長して、さらに会社が成長するっていうこの形を一番のモチベーションとしています。
中村社長
あとはやっぱり製品をつくるのが好きだし、お客さんと話すのも好きですし。いまだにお客さんに「あなたがつくってくれたもののおかげで、いまの会社があります」って言われたのはもうずっとうれしいし、そういう経験がやっぱりモチベーションになっていますね。だから、よりいい会社にしていきたいです。
新入社員
ありがとうございます。良い環境をいただいているということ、改めて感じました。
中村社長
はい、集中してがんばってください。
新入社員
はい!
生まれ変わったとしたら・・・
新入社員
もし、中村さんがいまの意識がある状態で生まれ変わったとします。また味の素社に入りたいですか?
中村社長
入りますね!
そうでなければ、医者になりたい。とくに家族で海外に住んでいるとき、医療の知識があるとすごくいいなと思いましたから。
命を救うという意味では、薬をつくる仕事もいいですね。でも、やっぱり人とのコミュニケーションを通じて救ってあげられるという点で、やっぱり医者っていい仕事だなって思うことがありますね。味の素社に入るか、医者になるか、ですね。
新入社員
なぜ、また味の素社に入りたいと思うのですか?
中村社長
新しいことをやりたいと思います。また電子材料をやりたいわけではなくて(笑)、何か 新しいことをやってみたい。
先ほども申し上げたとおり、好きな研究もできるし、挑戦したいことを全力で応援してくれる文化がある。そして、何より自分自身の成長が会社の成長につながることも実感できると思います。「アミノサイエンス®」は「食」だけでなく幅広い分野の研究や活動となって、世界中の人々の幸せにコミットすることができる。自分の努力が世界の幸せにつながる可能性に満ちている。こんないい会社ですから、来世もお世話になりたいです。
中村社長
もちろん、みなさんもこれから仕事していくうえで嫌な時もあるでしょうし、ちょっと我慢することもあるでしょう。そういうのがあったら教えてください。
新入社員
ありがとうございます。
中村社長
もし離職したとしても、また帰ってくればいいんです。生まれ変わらなくてもね。
いかがでしたでしょうか?今回は、中村さんから新入社員への「逆質問」もあり、合計2時間以上にわたる濃密な対話セッションはおおいに盛り上がり、その後は延長戦ということでランチ会も実施されました。「Knock Knock 社長室」では、今後も中村さんへの直撃質問を行っていきます。お楽しみに!
2025年10月の情報をもとに掲載しています。
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