今回の記事では「IT事業」、しかも「半導体」の製造に深く関わっていることをご紹介します。
「味の素グループ」と「半導体」……なかなかイメージができない人も多いと思いますが、じつは、味の素グループが製造する半導体材料は高いシェアを誇っており、業界でもおなじみの存在なのだとか。
それにしても、なぜ味の素社が半導体材料を製造することになったのでしょうか? その真相を探るべく、「非料理系男子」のライターのMさんが味の素ファインテクノ社にインタビュー。意外と知らない「半導体」についてもざっくり解説します。
いまさら聞けない!「半導体」ってなに?
こんにちは、ライターのMです。いやあ、にわかには信じがたい情報が編集部より舞いこんできました。
なんと、味の素グループが「半導体材料」の開発に関わっている!というものです。味の素グループと半導体材料の関連性が見えてこず、なんのことやら見当がつきません。
「半導体」といえば、パソコンやスマートフォン、家電、自動車などの電子機器に入っている重要なものらしい、ということはなんとなく知っているとしても、味の素グループがどのように関係しているか見当もつきませんし、そもそも「半導体」ってどういうものなのでしょうか。
「半導体」とは、「導体」と「絶縁体」の中間の性質をもつものです。
「導体」とは、電気を流せるもののことをいいます。金、銀、銅、アルミなどの金属類が原料になります。
電気を流せないものを「絶縁体」といいます。ガラス、ゴム、プラスチックなどが当てはまります。
そして、「導体」と「絶縁体」の中間の性質をもつものがあります。「電気を通す/通さない」という性質を持つものですね。
これらは「半分は導体」だから「半導体」といいます。半導体の素材としてはシリコンやゲルマニウムを使うのが主流です。
半導体は、その「電気を通す/通さない」という性質をいかし、用途や仕様によってさまざまな形のものがありますが、そのサイズは非常に小さい集積回路に凝縮されており、パソコンやスマートフォンなどの内部にある緑の基板の上に固定されています。
パソコンから家電まで!誰もがお世話になっている半導体
半導体の「電気を通す/通さない」という性質は、電子機器の複雑な動作に活かされます。
そのため、半導体はあらゆる電子機器に利用されており、パソコン、スマートフォン、自動車、家電製品、音響設備、ゲーム機......と、例を挙げたらきりがありません。
さあ、ここまで書いたら賢明な読者の方々はお気づきですね? いまこうして「味の素ストーリー」の記事が読めているのも、半導体の恩恵だといえるのです。もし、この世に半導体がなかったら、どうなっていたことか。きっと、便利で豊かな暮らしは成り立たっていないでしょう。
昨今は、AI(人工知能)の開発競争も激しさを増し、半導体の重要性は今後ますます高まっていくと見こまれています。なぜなら、AIの頭脳ともいえるGPU(画像処理装置)には、半導体が欠かせないからです。
すぐれたAIの実現は、高性能な半導体があってこそ。国内外のメーカーが半導体の開発競争を繰り広げており、いまや経済の発展を支える重要な資源になっています。
世界シェア95%超え! 味の素グループと半導体の意外な関係とは
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題!
噂の半導体材料とは、味の素ファインテクノ社が製造している「味の素ビルドアップフィルム®」(ABF)です。
「ABF」は電気を通さない絶縁材料で、その多くが複雑で高度な処理を必要とされる高性能パソコンやデータセンターのサーバーなどに導入されています。世界シェアはなんと、100%に届こうかという勢い!
さらに驚くことに、開発の背景にはみんながよく知るあの「うま味調味料」が関係しているのだとか。「ABF」の開発秘話から世界シェアトップに立つ理由まで、味の素ファインテクノ社の電子材料事業部の高橋武史さん、北野彰杜さんに話を聞いてきました。
高橋 武史
味の素ファインテクノ株式会社
電子材料事業部 CSグループ
北野 彰杜
味の素ファインテクノ株式会社
電子材料事業部 ABFグループ
ーーー半導体の絶縁材料「ABF」について教えてください。
高橋
絶縁材料は、電子機器の性能を担保するうえで必要不可欠な素材です。パソコンを例に挙げるなら、半導体は基板という土台に載せてから内部の電子部品に接続されます。基板の内部には配線が層状に張り巡らされており、それらを覆うかたちで「ABF」が組み込まれています。もし、絶縁材料がなければ、意図しない部品に電気が流れてショートしてしまう恐れもあるんですよ。
ーーーえっ! ショート!? ということは、電子機器の安全面を担保するうえでも絶縁材料が必要なんですね。
北野
「ABF」はその名のとおりフィルム状をしており、薄いものだと一層あたり10マイクロメートルほどの厚みになります。「髪の毛の直径は約80マイクロメートル」といえば、「ABF」の薄さが伝わるでしょうか。
SOP、QFP、LGA......など、半導体パッケージにはさまざまな種類があります。なかでも、FC-BGAは電子機器の高速化、多機能化などに貢献する半導体パッケージで、高性能なパソコンやデータセンターのサーバーの必需品です。このFC-BGAの絶縁材料として、「ABF」は世界的に高いシェアを誇っているんです。
ーーー高いシェアとはいっても、全体の3割くらいでしょうか? もうちょっと甘めに見積もって5割くらい?
北野
シェア率は約95%です(きっぱり)。
ーーーすごい、ほぼ100%じゃないですか!?
北野
はい、「ABF」は世界中で使われている高性能なパソコンやサーバーのほとんどに採用されていると考えて差し支えありません。
うま味調味料「味の素®」の存在なくして、「ABF」の誕生はなかった!?
ーーーシェア率もさることながら、味の素グループが半導体材料をつくっていることも驚きでした。どのような経緯で「ABF」の製造がスタートしたのでしょうか?
高橋
「ABF」の源流を辿ると、うま味調味料「味の素®」に辿り着きます。まず、「味の素®」の主成分であるグルタミン酸ナトリウムを製造する過程で、塩素化パラフィンという副産物が生まれます。塩素化パラフィンは樹脂に柔らかくする機能を付与します。その後、塩素化パラフィンをはじめ、難燃剤やエポキシ樹脂の硬化剤などさまざまな樹脂に機能を付与する素材開発を行ってきました。そこから、各素材を混ぜ合わせた接着剤などのエポキシ樹脂関連製品を事業化。これらの素材技術・配合技術で培った経験を活かして絶縁材料の「ABF」が誕生しました。長い時間をかけて研究が進められ、1999年(平成11年)に販売にこぎつけました。
ーーーここで、「アミノサイエンス®」につながるとは! 「味の素®」なくして、「ABF」は語れないわけですね。
高橋
折しもインターネットの普及が加速しはじめたタイミングで、半導体の需要も急拡大。時代のニーズをいち早くつかんだ「ABF」は、着々とシェアを広げていきました。当時の状況を直接目にしたわけではありませんが、半導体市場の過渡期に参入できたことが現在のポジションにつながっているのではないでしょうか。
ーーーいやいや、ちょっと待ってください。たしかにパイオニアではありますが、それだけで約95%のシェア率を達成できるものではありませんよね。世界中のメーカーから選ばれる理由がほかにもあるのでは?
北野
我々としては、なにか特別なことをしている感覚はないんです。重視しているのは、お客さまが求めている要望に向き合うこと。パソコンに組み込むのか、それともサーバーに組み込むのか。それだけでも「ABF」の仕様は大きく異なります。そこにお客さまの製品に特化した性能を盛り込むと、カスタマイズがより複雑に。2010年(平成22年)頃から要望も多様化しており、「ABF」の定番シリーズも7、8種類にまで増えました。
ーーー多品種展開は、お客さまの要望に応えてきた何よりの証ですね。
北野
御用聞きだけにとどまらず、お客さまに技術的なサポートを行うことも少なくありません。半導体の設計段階から関わることも多いため、お客さまの事業に深く食いこんだ提案ができます。
ーーーコンサルタントさながらの活躍ぶり! お客さまにとっては、絶好のビジネスパートナーですね。
北野
お客さまを交えたミーティングを定期的に実施しているので、だんだん勘所がわかってくるんです。だから「きっと、こういう『ABF』が欲しいのだろう」と、お客さまの課題に先回りしてサポートできるわけです。
製造工程を大幅削減! 「ABF」が起こしたイノベーションとは
絶縁材料「ABF」の登場によって、パッケージ基板の製造現場はがらりと変化しました。
かつては液体インクの絶縁材料が主流でしたが、インクは塗りムラが起こりやすく、気泡が入ってしまうことも少なくありませんでした。
また、人体に有害なガスを発生することも問題視されていました。そして最大の課題は、塗ったインクが乾くまでに時間がかかること。
基板の両面に絶縁材料を塗布するとなると①インクを塗る②乾かす③もう片方にインクを塗る④乾かすの4工程が必要になります。
一方のABFは「貼る」だけだから、インクよりも効率的。問題視されていた、ガスの発生も最小限に抑えられます。パッケージ基板の複雑化にともなって細かな加工が求められるようになると、「ABF」が徐々に台頭していきました。
「アミノサイエンス®」事業の成長をリードする「ABF」
絶縁材料のパイオニアとして、トップ街道をひた走る味の素ファインテクノ社。「『ABF』の出番は今後ますます増えていく」と、意気込みます。
北野
AI開発や5Gの普及などが半導体需要の起爆剤になることは間違いないでしょう。テクノロジーは日進月歩で進化していきますが、私たちが徹底してきた「信頼向上」「顧客満足度向上」の二本柱はいつの時代も変わりません。
高橋
味の素グループは、食品系事業と「アミノサイエンス®」系事業の利益が1対1になることを目指しています。私たちとしてもその方針に貢献できている自負があります。「ABF」の製造は、社会価値と経済価値を育むことができ、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を地で行く取り組みと考えています。
味の素グループと半導体材料。一見異色の組み合わせに映りますが、「ABF」はうま味調味料「味の素®」同様に「アミノサイエンス®」から生まれた製品であることがわかりました。味の素社のパーパス「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」にも重なっており、社員の方々のやりがいにも直結しているようです。
高橋
「縁の下の力持ち」ながら、ITインフラの一端を支えていることに喜びを感じます。データセンターのサーバーに導入されていることからもわかるように、「ABF」によってだれでもタイムリーに情報をキャッチできます。世界中の人々にスマートな暮らしを提供していることを思うと、業務にも身が入りますね。
北野
電子機器の製造において、「ABF」は無数にある材料のひとつに過ぎません。半導体メーカー、基板メーカー、材料メーカーなどが連携することで、はじめて電子機器は完成します。同じサプライチェーンに関わる企業として、「ABF」を取りまいている各企業の利益向上にも貢献し、ともに成長していきたいです。
現在、味の素グループはNTTが標榜するIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想に参画。NTTのデジタルテクノロジーと味の素グループの「アミノサイエンス®」を融合させた「生活者のWell-beingの向上と健康寿命の延伸を実現させる仕組み」づくりを進めています。
味の素ファインテクノ社も技術提供しており、プロジェクトの成功を全力で後押し。既存製品にはない、次世代の技術開発を目指し、グループ一丸となってイノベーションの「芽」を育んでいます。
高橋 武史
味の素ファインテクノ株式会社 電子材料事業部 CSグループ
2004年入社。活性炭事業部を経て2021年から電子材料事業部のCS(カスタマーサポート)としてお客様の注文対応、在庫管理、納期調整、出荷手配を担当。デリバリーのプロフェッショナルとしてお客様への安定供給の達成に向けて日々がんばっています。そしてお客様の協力やグループ内外の力を集めて業務のDX化、スマート化を進め、多様なデリバリー手段を提案・提供することによる新しい価値創造を目指しています。仕事では多くの人が関わります。会社の仲間を大切に、お客様を大切に、出荷に関わる各社関係者との関わり合いを大切にと思っています。
趣味は旅行で、休みの日を利用して夫婦で日本全国2周目を進めています。
北野 彰杜
味の素ファインテクノ株式会社 電子材料事業部 ABFグループ
2019年11月に中途入社。2年ほどCSグループにてABFの在庫管理や輸出関連業務に従事。その後営業に移り現在まで顧客対応業務を担当。現在の業務の大半は社内外の方との打ち合わせのため、相手が理解しやすい説明を何より心掛けています。そのためにまずは自分自身が正しく理解し、十分に準備をすることが重要であると考えています。
休日はサブスクでお笑いやアニメ、映画鑑賞などを楽しむ。日々、半導体の進化に支えられています。ラグビー観戦も好きで、1歳の娘を連れて日本代表戦を観戦するのが小さな夢です。
2024年12月の情報をもとに掲載しています。
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