活動レポート

中村新社長に聞く!
味の素グループをさらに成長させるポイントとは?

2025年(令和7年)2月、味の素株式会社の社長に中村茂雄(なかむら しげお)さんが就任しました。

「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」をパーパスに、2030年までに50%の環境負荷削減、10億人の健康寿命延伸を目標に掲げる味の素グループ。藤江太郎前社長が推進してきたさまざまな取り組みはまだ道半ば、中村社長はそれをどう受け継ぎ、どう進化させていくのかが注目されています。

このたびストーリー編集部のインタビューが実現。今後の取り組みや自身の強み、休日の過ごし方に至るまで、中村社長はサクサク答えてくれました!

中村茂雄社長プロフィール

中村茂雄(なかむら しげお)

座右の銘は「努力に勝る天才なし。一生勉強」

1992年:東京工業大学総合理工学研究科化学環境工学科(修士)卒業
味の素社入社。中央研究所にて、機能性材料の開発に従事

1996年:「味の素ビルドアップフィルム®」(ABF)の開発に従事

2004-2006年:University of California Santa Barbaraに研究留学

2011年:ABFの成果について、日本化学会化学技術賞受賞

2012年:ABFのエコシステムについて、ポーター賞受賞

2016年:味の素社バイオ・ファイン研究所素材・用途開発研究所素材開発研究室長に就任

2019年6月:味の素社執行役員、味の素ファインテクノ社社長に就任

2021年6月:味の素社執行理事、アミノサイエンス事業本部化成品部長

2022年4月:味の素社執行役常務、ラテンアメリカ本部長、ブラジル味の素社社長に就任

2025年2月:味の素社代表執行役社長に就任

発酵といえば味の素社。しかし配属されたのは電子材料の部署だった

ーーーはじめに、中村さんが味の素社に入社を決めた理由を教えてください。

中村社長

私は大学時代に「生分解性プラスチック」を研究していました。その中で植物原料を発酵させる技術があり、発酵の力には高い関心がありました。発酵といえば味の素社!と一番に頭に浮かびました。食品会社でありながらアミノ酸などの研究開発に力を入れ、バイオとケミカルに関する技術はトップレベル。教授からの「味の素社に入って悪く言う先輩はいない」というご助言も背中を押しました。

2004年(平成16年)からアメリカへ2年間研究留学

中村社長

「何か新しいものを開発し、人の役に立ちたい!」という夢を持って入社しました。みなさんの口に入る食品の開発をしたかったのですが、配属されたのは電子材料の部署でした。

ーーー希望した部署ではなくて、ガッカリされましたか?

中村社長

最初はスカ引いたなと(笑)。しかし、入社した1992年(平成4年)当時は、まだバブル期のなごりがあって、職場には新しいことをやろう!という熱気が立ちこめていたので、すぐに切り替えられました。

入社2年目、同期との1枚

中村社長

今、振り返ると、アミノ酸をベースにした機能性材料に関する研究を軸に20年以上、「味の素ビルドアップフィルム®」(ABF/半導体パッケージ基板用の絶縁材料)につながる事業に初期から関われたのはラッキーだったと思います。

ーーーこのたびのCEO指名にはご自身、驚きはありましたか?

中村社長

2022年(令和4年)にラテンアメリカ本部長・ブラジル味の素社社長を拝命した時点で、次期CEO候補の一人になったと自覚しました。

ブラジルにて、フードコンベンションでのスピーチや、ブラジルの家庭料理の味付けが簡単にできる「Sazón®」の販促活動の様子(味の素社が販売す「Sazón®」はブラジルで30年以上愛されている粉末状の万能調味料)

中村社長

CEO指名を意識したのは、2025年(令和7年)1月に指名委員会と面談したときですが、これまで藤江前社長のすぐれたリーダーシップを見て、常に自分だったらどうするか?を考え、日々経営者として成長できるよう努力してきましたので、迷いはありませんでした。

「2030年のありたい姿」をさらに進化させる!

ーーー中村さんの取り組みについてうかがいます。まず、現在の味の素社の状況については、どのように評価していますか?

中村社長

現在の味の素グループは経済価値、社会価値の創出の両面で成長段階にあると考えています。失敗を恐れず挑戦する企業文化が醸成されてきたと思いますし、株価も上がっています。「2030年のありたい姿」に向かっては、藤江前社長がエベレスト登頂にたとえて3合目あたりと表現されていますが、登頂を前倒しできるよう、さらにスピードアップ、スケールアップを図っていきたいと考えています。

ーーー「2030年のありたい姿」に向けて藤江前社長から継承していく点、変えていく点を教えてください。

中村社長

藤江前社長が打ち立てた「ASV*¹経営」と「志(パーパス)」をしっかり引き継ぐことが基本です。具体例として3つ挙げます。

*¹ASVとは、Ajinomoto Group Creating Shared Valueの略。事業を通じて社会価値と企業の経済価値の共創に取り組むこと。味の素グループが「将来ありたい姿」「志(パーパス)」を実現するための基本的な考え方です。

中村社長

まず1つ目は、藤江前社長が打ち出した「中期ASV経営2030ロードマップ」は継続します。「2030年のありたい姿」に向かって1年ごとの計画を立てて遂行していきます。定期的にレビューし、アジャイルに見直しながら、計画のスピードアップ&スケールアップを目指します。

中村社長

2つ目は、志(パーパス)を従業員へ浸透させるだけではなく、AGW*²をベースに実効力を上げていきます。従業員各々がパーパスをしっかり考え、とことん本気でASVを実践できる環境づくりをしていきます。

*²AGW とは、グループ共通の大切な価値観であるAjinomoto Group Wayの略。社員一人ひとりが共有する価値観、仕事をする上での基本的考え方、姿勢を定めたものが、Ajinomoto Group Wayです。味の素グループではASVを実現し続ける原動力は社員一人ひとりの働きがいの向上であると考えています。「新しい価値の創造」、「開拓者精神」、「社会への貢献」、「人を大切にする」の4つの行動指針を重視しています。

中村社長

3つ目の「2030年までに食品事業とバイオ&ファインケミカル事業の事業利益を1対1にする」については、食品とバイオを融合した分野(メディカルフード、サプリメントなど)にも大きなチャンスがあるので、明確に区切らず、4つの成長領域で新製品、新規事業を起こし未来を創っていきます。

ーーー食品事業とバイオ&ファインケミカル事業を明確に区切らず、というのはどういうことですか?

中村社長

2つの事業がそれぞれに成長していくことも重要ですが、私は融合できるところもあると思います。たとえば、栄養サプリやメディカルフードはバイオ&ファインの領域ですが、食品事業の知見も取り入れて開発したほうがいいかもしれない。あまり領域を分けず、融合できるところは融合していく。部門の垣根なく、シガラミなく、意見を出し合っていったほうがいいものが生まれます。融合領域を伸ばせることが、味の素グループの一番の強みです。

新たな取り組み~「高速開発システム」を全社に広めてスピードアップ

ーーー次にスピードアップ、スケールアップの点についてうかがいます。具体的にどのようにアップしていくのですか?

中村社長

真っ先に力を入れたいのは「高速開発システム」の定着です。

ーーー「高速開発システム」とは何でしょうか?

中村社長

私が入社時から20年以上関わってきた電子材料事業の経験で培われた考え方です。どういうことかというと、電子材料のお客様というのは、2年に1度、必ず材料を変更される、それくらい進化の速い業界です。2年ごとにオリンピックがあるようなものですね。常に金メダルを目指して競争する、ある意味、とても健全な業界なのですが、その中で、私たちは毎回金メダルを取るために常に2年先を読み、2年先の材料を考えて作っていかなくてはなりません。

2年先の顧客とニーズを読み、それへ対応し続けること、すなわち高速に開発するシステム(仕組み)が醸成されていきました。

電子材料事業における「高速開発システム」のイメージ

ーーー中村さんの独自カラーになりますか?

中村社長

そうだと思います。2022年(令和4年)にブラジル味の素社社長に着任したとき、さっそく高速開発システムを実践してみました。例を挙げると、ブラジルでも「冷凍ギョーザ」の製造・販売を始めようと思い立ってから、わずか6か月でテストマーケティングにこぎつけました。

ーーーすごい!通常では考えられないですよね。

中村社長

高速開発システムはブラジルでも、食品でも、いろんな業務で展開できると実証できたので、これから味の素グループ全体に伝えて使えるようにしてきたい。このシステムが浸透することで「戦闘力の高いカルチャー」が醸成できると思います。

ーーー戦闘力とはどんな力ですか?

中村社長

何か想定外のことがあったときも、自分で考えてパッと動ける力です。戦闘力の高いカルチャーを醸成し、4つの成長領域をさらに成長させることが私のミッションです。

中村社長

弊社は1909年(明治42年)からうま味調味料「味の素®」を作ってきました。100年以上も売れているのだから、この先もこれでいいじゃないかという現状維持思考にハマってはいけません。「味の素ビルドアップフィルム®」(ABF)がナンバーワンで勝ち続けているのは、常に高速開発システムで、いわば「自己破壊モデル」で自己を乗り越えてきたからです。

心配症の楽観主義です。だからいつも前を向いて、準備はしっかり派

ーーー「自己破壊モデル」というのは、具体的にどういう意味でしょうか?

中村社長

私も常に自分を超えていきたいと思っています。そのため、いつも何か勉強していないと不安になりますね。テレビ番組で、ものすごい元気なベンチャー企業の若いビジネスマンがインタビューで「目標は年商10兆円です」とかって言っているのを見ると、もう興奮して寝られません(笑)。

ーーー負けず嫌いな性格ですか?

中村社長

それもあるかもしれませんが、私の性格を言葉にするなら、
"心配性の楽観主義者"
です。いろいろ心配になるので、しっかり準備します。そうすれば、最後は必ずうまくいく、と考える楽観主義者であります。これが「ちゃんと考えて、ちゃんと実行する」というスローガンにつながっていきます。

ーーー「ちゃんと考えて、ちゃんと実行する」、どういう意味でしょうか?

中村社長

ええ、詳しく説明します。まず、パーパス、ASV*¹、AGW*²をベースに、そこから取り組むべき事業領域(4つの成長領域)と目標を定めます。そして全社戦略から事業戦略、機能戦略を磨きこみ、各組織、各従業員が自分ごと化した目標として落とし込み、情熱を持って達成を目指す。つまり、ちゃんと会社も各組織も個人も考える。そして、PDCAや「高速開発システム」を回し、考えながらちゃんと実行する。これを徹底していけば必ずうまくいきます。

ーーーそこが楽観主義にもつながりますね。

中村社長

幸運は前を向いている人にしか現れないと言います。私は、「自分は運がいい」と信じています。母親からずっと「あんたは運がええんや」と言われて育ちました。運がいいと思い込むことが大事で、幸運の神様に見放されないように、しっかり準備しています。

ーーーしっかりと努力を積み重ねて、さまざまなシミュレーションを繰り返し、慎重に検討した結果に対して「運がいい」ということですね。こういった中村さんの行動指針を従業員に伝えていきたいということでしょうか。

中村社長

自分の仕事に意義と興味を持って、自発的に、また創造的に打ち込んでいただきたいと思っています。失敗を恐れず、どんどん挑戦することを推奨します。チャレンジングな目標を立てて、それを自分の力で達成したとき初めて、本当の意味でエンゲージメントが向上すると思うからです。

ーーーどんなリーダーであろうとお考えですか?

中村社長

自身が努力と挑戦をつづけ、成長していくことでリーダーシップを示していきたいですね。私は常に、ポジティブ・エナジャイザー*³でありたいと思います。

*³ポジティブ・エナジャイザー(positive energizer)とは、周囲にポジティブな(前向きな)エネルギーをもたらす人という意味。近年、企業や組織で求められる資質の文脈で使われることが増えています。ポジティブエナジャイザーの特徴は、「他人の成長を助ける」「好機を見出す」「感謝の念を表し、謙虚である」「他者に自信と自己効力感を与える」「バイタリティと熱意がにじみ出る」。反対語はエナジー・ヴァンパイアで、周囲からエネルギーを吸い取る人。

気になるプライベートも聞いてみた!

ーーー少しプライベートのお話もうかがいます。好きな本や映画は何ですか?

中村社長

何度も読み返しているのは大前研一氏の『企業参謀』(プレジデント社)です。何か転機が訪れたときや、決断を要するときなどに読み直します。もう数え切れないほど読んでいます。

ーーー『企業参謀』は1970年代、大前さんが30代のときに刊行されたベストセラーですよね。

中村社長

ビジネス書以外ではマンガやアニメ、『鬼滅の刃』『スパイファミリー』『Dr.ストーン』『怪獣8号』など、日本のアニメが好きですね。休日のどこかで一気見する時間が最高です。

ーーー最近のアニメが好きとは意外です!では、好きな映画は?

中村社長

映画は『レオン』(1994年公開)と『グラディエーター』(2000年公開)の2本が最高です。私、名前からお察しいただけるかと思いますが、父親が大の野球好きで、私も学生時代まで野球をやっていたものの、個人競技のスポーツが好きです。『レオン』も『グラディエーター』も一人で闘う物語です。個人技のほうに惹かれるみたいです。

ーーー今はどんなスポーツをされていますか?

中村社長

やはり社交も兼ねてゴルフですね。ブラジル味の素社時代から始めました。個人スポーツですが、あまりうまくありませんねえ。言い訳としては、練習する時間があまり取れないものですから(笑)

ブラジル味の素社時代に始めたゴルフ

ーーー休日の過ごし方を教えてください。

中村社長

土日の一日はゴルフに行き、もう一日は仕事か勉強をしています。今も私がMBAを取得したビジネス・ブレークスルー大学(学長・大前研一)のアルムナイ*⁴授業の映像を見て勉強しています。倍速で見ると、より集中できていいですね。

*⁴アルムナイ(alumni)とは、英語で「卒業生」「同窓生」などの意味をもちます。ビジネス上では定年退職者以外の退職者のこと。退職した元社員を再雇用する意味もあります。

ーーー今も勉強なさっているのですか?

中村社長

勉強が好きなんです。学ぶことが大好きです。人生、一生勉強です。

ーーー気分転換にはどんなことをされますか?

中村社長

おいしいものを食べる!これに尽きます。

人気店のため滞在中一度しか行けなかったサンパウロのラーメン屋にて

ーーー料理をされることはありますか?

中村社長

ブラジル味の素社時代は単身赴任でしたので自炊もしました。よく、ひとりで肉を焼いていました(笑)。冷凍ギョーザもですね。

ーーーさすがです!今日はご多忙な中、ありがとうございました。

ハツラツと、まるで取材を楽しむように答えてくれた中村さんは、話しているだけで元気がもらえる、まさにエナジャイザーでした。創業家を除くと、味の素社歴代3番目の若さでCEOに就いた中村さんの、これからの手腕に注目が集まりそうです。

<用語解説>

生分解性プラスチック
生分解性プラスチックとは、微生物の働きにより分子レベルまで分解し、最終的に水と二酸化炭素にまで分解されるプラスチックのこと。

アジャイル
アジャイル(agile)には「素早い、俊敏」といった意味があります。アジャイル開発とは、短いサイクルで要件定義・設計・開発・テストを繰り返し、開発期間中に発生するさまざまな状況に対応しながら進めることをいいます。

2025年4月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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