世の中のデジタル化がさらに加速することによって、私たちの嗜好や行動は今後ますます変化をするでしょう。この変化や人々のニーズをいち早くキャッチするためにも、いま企業は、DXを企業の存続をかけて取り組むべき課題としています。
食品メーカーである味の素社でも、じつはDXに積極的に取り組んでいます。それはなぜか、どんな取り組みなのかを1つずつ紹介していきましょう。
なぜ味の素社はDXに取り組むのか
DX(デジタルトランスフォーメーション※1)とは、お客様に提供できる価値を最大化させるため、デジタルの技術とデータを使い仕事のやり方を含めて会社全体を生まれ変わらせる取り組みです。
この流れは、2020年の新型コロナウイルス禍で大きく加速しました。「テレワーク」の広がりとともに、企業はオンライン上での決済・承認システムの採用など、業務全体を根本的に見直すDXへの取り組みが急務となりました。
さて、味の素社はこれまで、大きく分けて「食品事業本部」および「アミノサイエンス事業本部」の2つの大きな事業の成長と拡大によって「世界トップ10クラスのグローバル食品企業」を目指してきました。
しかし世の中は、世界規模で加速するデジタル化による人々の意識や行動の変化、これによる流通の変化、環境や健康への意識の高まり、さらには新型コロナウイルスの感染拡大状況までもが重なり、大きな変革の時代を迎えたのです。
味の素社は、このような社会全体の変化をポジティブにサポートし、「食と健康の課題解決企業」を目指すために、まずは、味の素社、味の素グループ全体が生まれ変わる必要があると考えました。
具体的な取り組み方を解説
では、味の素社では、DXにどう取り組んでいるのでしょうか。
もともと味の素社は、社会課題を解決し、社会と価値を共創するASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を掲げ、2030年までに「食と健康の課題解決企業」として、社会変革をリードする存在になることを目指しています。
DXも、このASVの実現を目指すうえで重要な位置を占めており、具体的に味の素社では、4つのステージを設け、ステージ1・2・3をそれぞれ強力に推進することで、2030年に社会変革を実現するゴールを目指しています。
味の素社は、これら大きなデジタル変革について、2018年度から準備し、2019年CDO(Chief Digital Officer)、2020年にCXO(Chief Transformation Officer) とCIO(Chief Innovation Officer)という新ポストを創設してDXの推進力を強化、2022年現在は香田隆之・執行役専務がCDOとCXOを兼務し、白神浩・代表執行役副社長がCIOに就任しています。DXを全社最重要任務として捉え、自社変革に取り組んでいます。
「食と健康」は、重大な社会的課題の一つであり、味の素グループのみならず、他企業団体、行政などの重要関心事項でもあります。
味の素グループはASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を掲げ、社会的課題の解決と事業(経済)成長の両立を戦略としてきました。そして、この考え方を「食と健康の課題解決企業」というパーパス(志)のもと、しっかりと外向けに発信しました。
これにより、味の素社は他企業団体・行政・大学などのアカデミア、そして医療機関・栄養士などとの連携を一気に進め、すでに連携効果(コレクティブ・インパクト Collective Impact※2)を発揮できるようになってきています。
味の素社がDXで思い描く未来とは?
では、ここからは味の素社が具体的にどのような未来を思い描き、DXの取り組みを進めていくかを見てみましょう。味の素社のDXには、4つの大きな柱があります。
①生活者ひとりひとりのニーズに合った商品・サービスの提供(パーソナライズドマーケティング※3)
②ロボットやAI(人工知能)を活用した「スマートファクトリー(※4)」の導入
③経営やサプライチェーン(※5)のエコシステム(※6)化
④さまざまなプレイヤーが社会課題の解決に向けて協働するための仕組みづくり(コレクティブインパクトを実現する新事業変革)
順番に見ていきましょう。
①パーソナライズドマーケティング
パーソナライズドマーケティングとは、顧客一人一人に合わせたマーケティングのことです。これまでのマスに向けた商品開発・提供ではなく、生活者の属性や行動履歴に基づき、その人に合った製品やサービスを提供していくことです。
インターネット上には、Webサイトやブログ、SNS上で発信される多くの情報があります。マーケティング調査では、これらの中から話題性の高い情報と生活者の購買履歴などの情報を組み合わせて分析することで、生活者の意識や行動を多面的にとらえることができます。
たとえば広告の担当者は、まず家族について書かれたSNSの投稿から、「親が食を通じて子どもたちに伝えたい本音」を分析します。彼らは大量のSNSの投稿からこの結果を分析することで、生活者の潜在的な欲求に響く広告を企画することが可能になります。
このような、パーソナライズドマーケティングと、インタビューやアンケート調査など従来のマーケティング手法を組み合わせれば、生活者のニーズをより的確にとらえることができます。
多様性の時代、生活者が味の素社の商品やサービスに何を期待しているか、何を求めているかはまさに千差万別。しかし、一方でデジタル化が進んだ時代だからこそ、その手掛かりとなるデータも多種多様です。
②スマートファクトリー
スマートファクトリーとは、AIなどデジタル技術を活用した生産性が高く効率的な工場のことです。
工場では、ロボット・AIの積極的な導入はもちろん、調達・製造から消費者に届くまでのすべての工程において無駄をなくし、地球全体の資源や在庫の無駄をなくします。これは、手段や条件をクリアにすることで製品を効率的に生活者に届けることを目的としています。
味の素グループの製品を生み出す工場の建設・改修を行う味の素エンジニアリング株式会社での取り組み「PLANTAXIS®」をご紹介しましょう。
PLANTAXIS®では、工場の敷地全体をレーザースキャンしてデータ化し、設置された機械類のデータには点検履歴や取扱説明書を紐づけます。管理者は、新規機器導入やレイアウト変更を考える際も、PLANTAXIS®で表示した3Dデータ上で検討できるシステムです。
サプライチェーンのエコシステム化もその1つです。
③サプライチェーンのエコシステム
サプライチェーンとは、製品の製造から販売までの一連の流れのこと。
これは、味の素グループの経営やサプライチェーンをスマートネットワーク化することで、より効率的なエコシステム(相互に影響しながら、有機的につながること)を形成することを指します。デジタルテクノロジーやIT技術の進歩で、社内の各組織の機能が向上しています。
ここでいうエコシステムは、それに加えて社外の協力企業までも含めた大きなネットワークを形成し、社員それぞれがさまざまな働き方と責任を持ってそこに参加するものです。
コーポレートサービス(※7)のJV化(※8)やアウトソース化(※9)なども含め、グループとしてのかたち全体を大きく変えていくことになるでしょう。
④コレクティブインパクトを実現する新事業変革
これまでの①〜③を踏まえて新しい事業モデル変革を目指します。
コレクティブインパクト(Collective Impact)とは、共通の目的のためにそれぞれが社会課題の解決に取り組むことを指します。味の素グループ内だけに留まらず、幅広い外部パートナーと協創・協業を行いながら、新しい事業を生み出すためのエコシステムを構築します。
この新しい事業を生みだすエコシステムを、CDOを務める香田執行役専務やDX推進委員会がバックアップしていきます。
「食と健康の課題解決企業」として社会変革をリードする存在に
ここまで、味の素社と味の素グループが取り組むDXを見てきました。
「食と健康の課題解決企業」になる、という目標を、デジタル技術の力と会社の業務や組織の抜本的な見直しの両輪で進めるDXで実現する、という壮大な構想です。
ビジネスマン自らが「働き方改革」に取り組むように、企業はDXで事業自体の改革に取り組む時代。味の素グループはさらなる新しいアイデアや取り組みに挑んでいきます。
味の素ストーリーでは、味の素グループが変革していく様子や成果、事例をご紹介していきます。味の素グループが拓く新しい未来に、今後ともご注目ください。
2022年4月の情報をもとに掲載しています。
※1:DX
DX(ディー・エックス)とは、デジタルトランスフォーメーションの略です。IT技術やデジタルデータを活用することで、企業活動をよりスマートに、効率的に改革していくことを指します。
※2:コレクティブインパクト
Collective Impactとは、立場の異なる組織(行政、企業、NPO、財団、有志団体など)が、組織の壁を越え互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチ。
※3:パーソナライズドマーケティング
パーソナライズドマーケティングとは、一人一人の顧客に合った商品やサービスの提供を行うマーケティング手法です。
※4:スマートファクトリー
スマートファクトリーとは、AIやIoTなどのデジタル技術を活用した、生産性が高く効率的な工場のことです。
※5:サプライチェーン
サプライチェーンとは、製品の製造から販売までの一連の流れのことです。メーカーが製品をつくる際に、必要な材料や部品などの調達から製造、在庫管理、配送、小売店での販売、そして生活者の手に渡るまでのことをいいます。
※6:エコシステム
エコシステムは、本来「生態系」という意味の言葉です。すべての生き物は、お互いを利用し合う「食物連鎖」の輪でつながっています。それと同様に、ビジネスにおいても、味の素社のようなメーカー、原材料を供給する一次生産者、流通を担当する商社や運輸会社、そして実際に商品を利用する生活者まで、それぞれが有機的につながった関係にある、ということを意味しています。
※7:コーポレートサービス
コーポレートサービスとは、社員に向けたサービスを提供する部署を指します。総務部のような役割を担います。
※8:JV化
JV化は、joint venture=合弁企業のことです。複数の企業が出資し、新しい会社を立ち上げ事業を行います。
※9:アウトソース化
アウトソース(outsource)とは、業務を外部に委託することです。