研究開発

「抗がん剤の副作用」軽減の可能性を広げる最先端医療とは?
世界中から注目される味の素グループの「AJICAP®」

日本国内では、調味料のイメージが強い味の素グループですが、じつは食品事業だけでなく、医薬分野においても多くの最先端技術を開発し、その技術を製薬会社などに提供しています。

その中には、副作用のイメージが強い「抗がん剤」を改良する技術もー。

今回は、現在世界中の医薬品業界から注目されている「AJICAP®」について、プロジェクトメンバーである奥住竜哉さん、今井浩貴さんにお話を伺いました。

なぜ副作用は起きるのか?

そもそも、なぜ治療をするために薬を服用することで、副作用が起きるのでしょうか?

薬は血液によって全身を巡るため、目的とする臓器や細胞以外の場所に薬が作用する可能性があり、同様にがんの治療に用いられる抗がん剤も、正常な細胞に作用した場合に副作用が生じることがあります。

とくに抗がん剤は、細胞の分裂・増殖を阻害することで効果を発揮することが多く、これらの薬剤が一般的に分裂と増殖が盛んな骨髄細胞・消化管粘膜・毛根などの、がんとは関わりない細胞にも作用してしまうことがあります。これによって脱毛や吐き気などの副作用が生じてしまう場合があり、内容によって治療が継続できないこともあるのです。

それを解消するために開発された技術が抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate:以下ADC)です。

抗体薬物複合体(ADC)とは

抗体薬物複合体(Antibody-drug conjugate:以下ADC)とは、バイオ医薬品の一種で、抗体に抗がん剤などの薬を付加したものをいいます。

抗体には特定の細胞に結合する性質があります。その抗体の性質を利用して、直接狙っている細胞まで薬剤を運び、効果を発生させます。2010年代初頭から、世界の医薬品業界では、ADCの創薬が有望視されるようになり、とくに抗がん剤の用途で急速に成長しました。

AJICAP®とは

AJICAP®とは、味の素グループが開発した、高性能な抗体薬物複合体(ADC:Antibody-drug conjugate)の創出を可能にする技術です。

味の素グループは、創業以来培ってきたアミノ酸研究の知見を応用し、2010年代半ばから、ADC合成技術開発に取り組んできました。その取り組みの成果が「AJICAP®」です。従来のADCと比較し、より副作用が少なく、効果が高いことが期待でき、「がん」などの病気の治療につながる高性能なADCの創出を通じて、世界中のがん患者さんに希望を与えることができます。

「AJICAP®」に必要な材料の合成

ADCの分析と精製

AJICAP®が世界から注目される理由

「AJICAP®は、技術的な観点から見て非常に興味深いものであることがすぐにわかりました。当社がこれまで培ってきた技術を活用することで、他社では製造できない薬剤を、私たちのお客さまである製薬企業、ひいては、患者さまにお届けできるチャンスだと思っています」と、このプロジェクトに最初から携わってきた奥住竜哉さんは言います。

では、AJICAP®の何が特徴的なのでしょうか。

従来のADCでは、薬物と抗体がランダムに結合し、標的としている細胞に届く前に薬物の一部が落下し、副作用や効果の低下を引き起こすことがありました。
AJICAP®の技術を用いることで、薬物の結合を精密にコントロールし、それがADCの安定性の向上につながるため、標的としている細胞に到達する前に落下する薬物の量が少なくなり、副作用が少なくなることが期待できます。

また、薬剤がより効率的に標的に到達するため、治療に必要な使用量が少なくなります。さらに抗体の遺伝子改変(※)が不要であるため、第1世代のADCに比べて開発効率が高く、安全性の検証も容易となります。

(※)抗体遺伝子改変
抗体遺伝子改変とは、天然から得られる抗体の産生株の遺伝子改変により、非天然型の抗体を得る技術です。一般に、高度な技術と高額な費用が必要です。

「抗がん剤」以外の用途にも期待されるAJICAP®

「この技術により、優れた医薬品の創出、そして患者さんのウェルビーイング(Well-being)へ貢献できることに関係者一同が使命感を持ち、日頃から精力的に活動しています」と、技術の応用拡大に向けAJICAP®の推進に取り組んでいる今井浩貴さんは言います。

一般的に、ADCは「がん治療」の治療薬として認識されていますが、AJICAP®のテクノロジーは、他の薬剤にも適用できるため、他の分野への拡大も期待されています。

「新薬の開発には10年以上かかることも珍しくなく、成功の可能性は低いです」と奥住さんは言います。

「そのため、開発したい薬がある製薬会社などのお客さまに、当社のAJICAP®を用いてできることを提案すると、お客さまにも喜んでいただき、私たちもとても励みになります。実際に患者さんに届けられる製品の開発を支援できることは、非常にやりがいのあることです」と今井さんは付け加えます。

AJICAP®プロジェクトメンバーである今井浩貴氏(左)と奥住竜哉氏(右)


味の素グループは、AJICAP®を活用した新たな市場への参入を進めています。これからも、味の素グループは、「アミノサイエンス®」をさらに活かし、人・社会・地球のWell-beingに貢献していきます。

2024年1月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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