活動レポート

味の素グループの人的資本経営を推進する取り組み「マイパーパス・ワークショップ」とは?

味の素グループは、2023年(令和5年)に「志(パーパス)」を進化させました。
これまでの「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」から「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へ。

味の素グループは、従業員の「志(パーパス)」への理解を深め、共感を高めるため、2024年(令和6年)に「Our Philosophy共感推進グループ(OPG)」を設立しました。

そのOPGのメンバーが、筧 雅博さんとアン ティ ホアイ ティウさんです。OPGの活動内容や、グローバル組織で活動することのむずかしさ、そしてOPGが従業員へ与える影響などについてお話をうかがいました。

筧 雅博
人事部Our Philosophy共感推進グループ(OPG)長

日本国内外でのOPGの活動計画、実行をマネージ


Anh Thi Hoai Thieu
(アン ティ ホアイ ティウ)

人事部Our Philosophy共感推進グループ(OPG)

海外でOPGの取り組みを実施

すべての従業員に「志(パーパス)」を理解してもらうために

ーーー現在、筧さんは「Our Philosophy共感推進グループ(以下OPG)」のリーダーを務めていらっしゃいます。OPGは、味の素グループのパーパスを含むOur Philosophyへの理解を深め、共感を高めることを目指しているとのことですが、具体的にはどのような活動を行っているのですか?

筧さん

メインとなる活動は、味の素グループの全35,000人の従業員を対象にした「マイパーパス・ワークショップ」の企画・運営です。ワークショップでは、参加者に自分のモチベーションや強み、価値観を明確にしていただき、味の素グループの従業員としてではなく個人としてのパーパスの言語化をサポートします。そのうえで、マイパーパスが味の素グループのパーパスとどのように重なっているかを認識してもらいます。

さらに、すぐれた取り組みを表彰する「ASVアワード*」の企画・開催も行っています。

*ASVアワードとは、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value:事業を通じた社会価値と経済価値の共創)を体現した取り組みのうち、味の素グループ全体でとくに秀逸な事例を表彰する制度です

筧さん

また、CEOや経営陣と従業員の対話の場を定期的に設けています。様々なトピックについて、経営層と現場とでそれぞれどのように感じているかを対話を通じてお互いに把握し、部門ミスコミュニケーションが生じないようにしたり、従業員の経営方針やパーパスへの理解浸透につなげたりしています。

アンさん

私たちの活動は、他の多くのチームや部門と連携してすすめています。とくに味の素社の広報部門であるグローバルコミュニケーション部と密接に連携し、従業員に味の素グループのさまざまな取り組みに対する理解を深めていただけるよう働きかけています。

自分自身を振り返り、個人の価値観や強みを確認する

ーーーOPGの活動は、どのように進められているのでしょうか?

筧さん

味の素グループ独自の仕組みである「ASVマネジメントサイクル」に沿って進めています。
「ASVマネジメントサイクル」は、ASVを実現するために作られた仕組みです。

ASVマネジメントサイクルとは

ASVとは、企業が自社の売上や利益を追求するだけではなく、自社の事業を通じて社会が抱える課題や問題に取り組むことで、社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味します。

ASVを実現するためには、経営層だけではなく、世界中の味の素グループの「従業員一人ひとりの行動」が不可欠です。そのためには、従業員が会社のパーパスに共感し、それを「自分ごと化」することが出発点となります。

ASV実現までの流れを、段階的に示したものが「ASVマネジメントサイクル」です。味の素グループではこの仕組みを、人的資本経営を実現するためのプロセスとして重視しています。

「ASVマネジメントサイクル」には次の4つのステップがあります。
1・理解/納得
2・共感/共鳴
3・実行/実現
4・モニタリング/改善

筧さん

OPGの活動のメインである「マイパーパス・ワークショップ」は、最初の「理解/納得」のステップにあたります。
このワークショップの目的は、まず自分自身を振り返り、個人の価値観や強みを確認すること。そして自分自身の志(パーパス)を言語化すること。そのうえで、参加者にはマイパーパスと味の素グループや自組織のパーパスとの重なりの言語化に挑戦していただきます。

筧さん

従業員が自分自身を理解し、会社のパーパスと自分のパーパスに重なりを発見できれば、仕事に対する当事者意識ややりがいが高まり、より自律的・主体的に取り組めるようになるでしょう。そのことが、必然的に会社のパーパスの実現につながるのです。

自分の強みや価値観を見つめる「マイパーパス・ワークショップ」

ーーー「マイパーパス・ワークショップ」では、どのようなことをするのでしょうか?

筧さん

「マイパーパス・ワークショップ」はまず、参加者が、自分の中核となる強みや価値観を振り返り、それをもとにグループディスカッションを通じてマイパーパスを言語化します。

そして、マイパーパスと会社のパーパスの重なりの言語化に努め、マイパーパスを職務につなげるためのアクションプランを作ります。

ワークショップの流れ

●ライフチャートの作成

自分の人生経験を振り返り、「ライフチャート」を作成する。

●「強み」の認識

一般的な強みのアセスメントツールを用い、自分の強みのトップ5を認識する。その強みが仕事や私生活で、いつ、どのように活かされたかを書き出す。

●「価値観」のリストアップ

自分にとってもっとも大切な5つの価値観を挙げる。与えられた選択肢の中から選ぶのみならず、自分で作ることもできる。

●「マイパーパス」の作成

グループディスカッションを通じて自身の強みと価値観への理解を深め、自分のパーパスを短く覚えやすく言語化する。

●味の素グループのパーパスとの比較

自分のパーパスが、味の素グループや自組織のパーパスとどのように重なるかを考え、言語化する。

「マイパーパス・ワークショップ」で大切にしていること

ーーー「マイパーパス・ワークショップ」を行う時に、とくに気をつけていることはありますか?

アンさん

はい。1つ目は、会社のパーパスよりも個人のパーパスを重視すること。

ワークショップでもっとも重要なのは、会社ではなく、自分自身に焦点をあててもらうことです。味の素グループのパーパスではなく、個人のパーパスを心おきなく考えることができるように、私たちは参加者に繰り返しそのことを伝えています。

自分の行動の原動力について考え、強みや価値観を言語化してもらいたい。ワークショップで作成する「マイパーパス」は、参加者がどのような人生を送りたいかを示してくれるものなのです。

ーーー個人の「マイパーパス」を重視するのですね。

アンさん

その通りです。そしてもう1つの重要なポイントは、参加者の考えや回答を決して否定しないことです。
多様な一人ひとりの価値観や考え方がマイパーパスとして言語化されます。「マイパーパス・ワークショップ」は、まさに多様性を尊重する場なのです。

アンさん

しかし、参加者の中には自分の強みや価値観をうまく言語化できず、一般的な表現にとどまる人や、味の素グループのパーパスに似かよったものを作成する人もいます。

こうした場合でも、私たちは参加者に別の答えを求めるのではなく、まず参加者が出した答えを理解することに努めます。その上で、さらに本人が思考を広げられるような質問をして、参加者を自然に導きます。あらかじめ決められた方向性を押し付けたりするようなことは絶対にしません。

筧さん

私はそんなとき、参加者にこのような質問をすることにしています。
「これは本当にあなた自身がやりたいことですか?会社のパーパスに寄せていませんか?」
「このパーパスは味の素グループから離れても成立しますか?」

筧さん

「マイパーパス」の重要なポイントの1つは、会社が従業員に何を求めるかではなく、従業員自身が何に価値を見出し、何を実現したいかを考えることです。

すべての参加者が自分の価値観を安心して探求できるように、オープンな雰囲気をつくるんです。そうすることが、参加者が自分のパーパスを、より有意義に、真に理解することにつながります。

グローバルで取り組むための具体的な活動方法

ーーー味の素グループは、日本を含め30か国以上で事業を展開しており、100を超える主要グループ会社で構成され、約35,000人の従業員を抱えています。そのような中で、どのようにOPGの活動を進めていますか?

アンさん

はい、そこには2つの代表的な活動があります。1つ目は、各地域本部のリーダー向けワークショップの開催です。

まず、OPGより日本および各地域本部(北米、南米、ASEAN、欧州・アフリカ)のトップマネジメント層に「マイパーパス」のコンセプトを説明して実際に参加してもらいます。そこでの感想や意見を共有して、地域のさまざまなビジネスモデルや文化的背景などに合わせてワークショップをカスタマイズしてもらうのです。

アンさん

そして2つ目は「マイパーパス・アンバサダー」の育成です。
異なる国や地域ごとに、ワークショップをファシリテーションするためのトレーニングを受けた従業員「マイパーパス・アンバサダー」を育成します。

「マイパーパス・アンバサダー」のトレーニング内容

ステップ1:「マイパーパスワーク・ショップ」の基本構造を学ぶ。

ステップ2:外部ファシリテーターの監督下でワークショップを実施しフィードバックを得る。

ステップ3:現地のニーズに合わせて、独自にワークショップを実施する。

アンさん

言うまでもないことですが、コミュニケーション方法は世界各国で異なります。言語だけでなく、その行動様式もさまざまです。現地のアンバサダーの重要なメリットの一つは、ワークショップを現地の従業員の心に響くようにカスタマイズできることです。

バングラデシュ味の素社でのマイパーパス・ワークショップの様子

アンさん

現地の文化にもっとも精通しているアンバサダーが「マイパーパス・ワークショップ」の構成を、フレキシブルに修正できるため、多様な職場環境でも魅力的で効果的なワークショップを維持することができるのです。

ワンタイフーズ社でのワークショップ後の集合写真

アンさん

また、アンバサダーは日本のOPGチームと日々連絡を取り合い、ワークショップの進捗状況や成果、反省点などを共有しています。そうしてアンバサダーが抱える問題を一緒に考え、さまざまな意見を積極的に受け入れています。

「マイパーパス・ワークショップ」の成果とは

ーーー「マイパーパス・ワークショップ」を行って、どのような成果がありましたか?

筧さん

従業員がより主体的に仕事に取り組むようになり、自分のキャリアに意義を感じるようになったと聞いています。これはとても大きな成果です。

また、この取り組みによる予想外の成果の1つは、部門間の連携が深まったことです。以前はほとんど交流がなかった他組織のメンバー同士が、より多くのコミュニケーションをとるようになり、協力関係も強まっています。

筧さん

私たちはワークショップの後にアンケートを実施していて、参加者の声を聞くことで、どのくらい成果があったかを確認しています。

また、年1回のエンゲージメントサーベイを通じ、会社のパーパスへの共感や仕事へのチャレンジのスコアの変化をモニターしています。

すべての従業員が参加するための仕組みづくり

ーーー現状ではどんな反響がありますか?

アンさん

「マイパーパス・ワークショップ」は、ほぼすべての参加者から支持を受けています。

多くの人が「自分に強い価値観があることに気づかされた」「自分のモチベーションについて気づかせてくれてありがとう」「こんなこと今まで考えたことがなかった!」といった肯定的な感想を寄せてくれています。とはいえ、参加者の中に満足度が低い人がいることも確かです。

私たちは、これらの声を真摯に受け止め、ワークショップの内容を調整し改善するように努めています。

ーーーすべての従業員が、「マイパーパス・ワークショップ」に参加できるのでしょうか?

筧さん

原則としてすべての従業員に参加いただくよう案内しています。ただし、グループ会社によっては、ワークショップへの参加以前に、業務を優先せざるを得ないケースもあるようです。

また、もう1つの懸念は、工場のオペレーターや営業スタッフなど、簡単にデジタルツールへのアクセスができない従業員へのアプローチです。

現在、グローバルにおけるグループ会社のアンバサダーや人事部と協力して、さまざまな従業員が「マイパーパス・ワークショップ」に参加できるような方法を開発中です。それが私たちの次なるステップです。

「マイパーパス・ワークショップ」の活動が企業文化に根付くことを目指して

ーーーOPGの展望について教えてください。

筧さん

次の4点を計画しています。

●参加者の拡大

2025年(令和7年)度末までに、グループの約35,000人の従業員がマイパーパスを言語化できている状態を目指す。

●行動変容を促すワークショップの開始

「マイパーパス」に基づき、実際の行動変容につなげることを目指し、新たなワークショップを開発し展開する。「マイパーパス・ワークショップ」と同様、アンバサダーを通じた展開を予定。

●Our Philosophyの理解促進、共感推進

Our Philosophy(AGW、ASV、アミノサイエンス®)の理解を促すためのe-learning等を制作、展開。

●個人目標やキャリア開発計画(CDP)に「マイパーパス」を組み込む

2025年(令和7年)度は、個人目標発表会において、個人目標と「マイパーパス」とのつながりを発表するよう奨励した。さらにCDPとも連動させるようCDPガイドを作成中。

筧さん

私たちは、「マイパーパス・ワークショップ」で明確になった従業員一人ひとりのマイパーパスが、味の素グループのパーパスとどんなつながりがあるかを見出してほしいと願っています。

そしてそのつながりを、チームや会社全体で、そして「ASVマネジメントサイクル」によって、年間を通してサポートしていく。それによって次々と挑戦が生み出され、味の素グループが人・社会・地球のWell-beingに貢献し続ける。これが最終的に私たちが目指している姿です。

個人のパーパスが企業のパーパスに

アンさん

「マイパーパス・ワークショップ」は、単なる人事研修ではなく、従業員が自分自身の可能性を認識し、企業や社会に対してより大きな貢献ができるようにするためのものです。

すでに数千人もの従業員が「マイパーパス」を言語化し、業務に取り入れています。

味の素グループ全体のパーパスは、もはや単なる「企業の志」ではなく、組織内の一人ひとりの実践とつながっているのです。

筧さんとアンさんにお話をうかがい、OPGの活動が企業の形式的なものではなく、目的意識を持って業務に励む従業員を育てるための、真の取り組みだということがわかりました。

味の素グループは、これからもOPGの活動を通じて、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」という企業の「志(パーパス)」と、個人パーパスの重なりを従業員一人ひとりが見つけ、「ありたい姿」の実現に挑戦し続けるという企業文化を目指していきます。

筧 雅博

人事部Our Philosophy共感推進グループ(OPG)リーダー
各国の製造拠点での技術担当からCEOサポートまで、ユニークかつ多彩な経歴をもつ。味の素グループの幅広い事業も熟知しており、OPGの目標達成には、まさにうってつけの人物。マイパーパスは「周囲にポジティブな影響を届け、多様性を力に変える」。

Anh Thi Hoai Thieu(アン ティ ホアイ ティウ)

人事部Our Philosophy共感推進グループ(OPG)
2008年(平成20年)にベトナム味の素社に入社し、広報部と人事部で働く。2024年(令和6年)に味の素株式会社に赴任し、OPGのグローバルでの取り組みを推進している。
マイパーパスは「I help others with kindness, empathy and meaningful impact.(親切さ、共感、そして意味のある影響を通じて他者を助ける)」。

<用語解説>


人的資本経営
人的資本経営とは、人の持つスキルや経験は「資本」と捉え、社員を企業の財産と考える経営のあり方のことです。味の素グループでは無形資産の重要なひとつとして捉えています。その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげるこのような経営は、世界的な流れとなっています。とくに日本国内では、2023年(令和5年)3月期から有価証券報告書において「人的資本の情報開示をすること」が義務づけられました。従業員の育成方針、目標、実績に加え、男女の賃金格差、女性管理職比率などのダイバーシティー(多様性)に関する指標の記載が義務とされています。

無形資産
無形資産とは、物理的には存在しない、目に見えない資産のこと。人のスキルや経験、経営手段や技術ノウハウ、情報といった知的財産やブランド価値などのことを表します。企業が所有する土地や建物、機械、設備など物理的に形を持つ「有形資産」と対になる用語です。味の素グループの「無形資産」とは、「技術資産」「人財資産」「顧客資産」「組織資産」の4つで、なかでももっとも重要だと考えているのが「人財資産」です。

パーパス
パーパスとは、「志」のこと。企業や組織が、何のために存在するのかといった社会的意義や存在価値を表します。

2025年7月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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