しかし、視覚に障がいのある方はWEBサイトにたどり着いても必要な情報が得られないということが少なくありません。
お客様相談センターに届いた一通のメールをきっかけにWEBアクセシビリティの取り組みを推進した、味の素社の小原直子さんにお話をうかがいました。

小原 直子
味の素株式会社
食品事業本部 グループお客様相談センター
「視覚障がいのある方はパッケージに書かれている情報がわからない」ーーお客様からのメールが課題を照らす
ーーーまず「お客様相談センター」について教えてください。
小原
「お客様相談センター」は、味の素グループの国内家庭用商品を中心に、お客様からのお問い合わせをお受けする窓口です。商品に関する疑問やお困りごとに寄り添い、お客様と同じ目線で問題解決を行います。

小原
近年では、お電話やお問い合わせフォームによる問い合わせに加え、お客様相談センター公式サイトの「商品別QA」や、AIチャットボットをご利用される方も増えています。そのため、お客様相談センターのWEBサイトでは、お客様がインターネットで検索した際に必要な情報を見つけやすいよう、さまざまな工夫を行っています。
ーーーなるほど、ちょっとしたことなら自分で調べた方が早いですからね。実際、どのようなお問い合わせが多いのでしょうか?
小原
商品の取扱店、商品をお使いいただく上での疑問、お褒めの言葉、その他にもご提案やご不満などの貴重なご意見をいただきます。また、企業活動や事業活動に関するご質問やご意見なども多く寄せられます。
ーーーお客様相談センターはWEBアクセシビリティにも取り組んでいるそうですね。
小原
はい。きっかけは、2024年(令和6年)1月に視覚に障がいのあるお客様からいただいた一通のメールでした。
その方は「Cook Do®」シリーズを長年ご愛用くださっていました。パッケージに記載されている作り方などの情報が見えないためスクリーンリーダー(音声読み上げソフト)でWEBサイトから情報を得られるように対応してほしいというものでした。
このメールをきっかけに、すべてのお客様に安心して商品をお使いいただくための第一歩として、お客様相談センターのWEBサイトにあるQ&Aページにおけるアクセシビリティの取り組みを開始しました。
お客様と真摯に向き合う姿勢
ーーースクリーンリーダー対応へのご要望は、これまでも寄せられていたのでしょうか?
小原
このようなお問い合わせが多かったわけではありません。しかし、今回お寄せいただいた1件のお声は氷山の一角と認識しています。そして我々にとっては新たな気づきとなりました。私たちはお客様一人ひとりのお声に真摯に向き合うことを基本姿勢としております。
ーーー味の素グループが推進するDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の一環でしょうか。
小原
はい。味の素社全体としては、すでにWEBアクセシビリティに着手しています。お客様にもっとも近い存在のひとつである私たちも進んで取り組もうと考えました。
小原
2024年(令和6年)4月1日から、障がい者に対する合理的配慮の提供が義務化されました。当社も障がいのある人の行動を制限するバリアを取り除く義務が生じています。障がいの有無にかかわらず、すべての人が健やかに、安心して暮らせる社会を目指したいと思います。
小原
お客様のお声をきっかけに「合理的配慮の提供」の考え方のもと、スクリーンリーダーへの対応に取り組みました。それは健常者の方も含めた、すべての方にとっても使いやすいWEBサイトの構築につながりました。
お客様相談センターは、味の素社にとってお客様と直接対話できる数少ない部門のひとつ。お客様との関係を築き、商品と会社に対する信頼を育む役割を担っています。その積み重ねが売上やブランド価値の向上にもつながると考えます。
誰にとっても使いやすく!WEBアクセシビリティとは
アクセシビリティ(Accessibility)とは、製品やサービスが「誰にとっても使いやすい」状態を指します。これをインターネットの世界にあてはめたのが「WEBアクセシビリティ」。障がいの有無や年齢、使う環境にかかわらず、すべての人がWEBサイトを快適に利用できることが目的です。
また2024年(令和6年)の法改正により「合理的配慮の提供」が企業に義務づけられました。情報への平等なアクセスは、今や企業の責任とされているのです。
視覚に困難を伴う方にとってのWEBアクセシビリティとは、たとえば「キーボードだけで操作できること」「一部の色が区別できなくても得られる情報が欠けないこと」「音声が聞こえなくても動画コンテンツの内容が分かること」など。これらを意識してWEBサイトをつくらなければいけません。
また、WEBアクセシビリティには、指標とすべきガイドラインが制定されています。おもに、国際規格であるWCAGと日本向け規格のJIS X 8341-3があります。
WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、国際的なWEBアクセシビリティの標準化を目指すためのガイドラインです。WCAGは世界各国においてWEBアクセシビリティを定めるための基準になっています。
JIS X 8341-3は、日本国内の企業や組織がWEBアクセシビリティを実現するための指標となる国家規格です。
視覚に障がいのある方々とともにWEBサイトを体験し、課題を抽出
ーーープロジェクトが走り出して、最初に着手したことを教えてください。
小原
全盲や弱視の方々とスクリーンリーダーを用いたWEBサイトの体験会を実施し、現在のWEBサイトの課題を抽出していきました。

ーーー体験会に参加された方とは、どんなお話をされましたか?
小原
体験会には、日ごろから料理をされる一人暮らしの方にも参加していただきました。一人暮らしで自炊と聞き、驚きました。しかし、それは不思議なことではないんですよね。もしかしたら、「目が見えなければ一人では調理はできない」という先入観があったのかもしれません。体験会は自分の思いこみや視野の狭さに気づく、よいきっかけになりました。
ーーー実際にWEBサイト改善のためにどのような課題が抽出されましたか?
小原
体験会ではハッとするような鋭いご指摘もいただき、これまで気づけなかった多くの課題を整理することができました。たとえばここに挙げた3つは、音声読み上げソフト未対応の場合散見される、課題の例です。
小原
1つ目の課題は、スクリーンリーダーは前後の文脈で漢字の音読み・訓読みを区別できないことがあり、正しく音読がされないことがあります。たとえば「和風だしの素」であれば「わふうだしのす」と読み上げられ、これでは意味が伝わりません。
ーーー和風だしの「す」⁉ それではまったく別の意味になってしまいますね。
小原
2つ目の課題は、テキストの配置に問題があると文章が途切れ内容が理解できなくなります。視覚情報として文字を読んだ際には問題がなくとも、音声で文章を聞くと正しい情報が伝わらなくなることがあります。
ーーー見た目には問題なくても、音声にすると違和感が生じる場合があるんですね。
小原
3つ目は「商品別QA」へのご意見です。

旧サイトのQAコーナー
小原
たとえば「Cook Do®」は「中華合わせ調味料」のカテゴリーに分類されていました。目が見える人は「中華合わせ調味料」と記載されていてもそこに表示されている「Cook Do®」の画像で必要な情報にたどり着くことが可能でした。しかし、視覚に障がいのある方は「中華合わせ調味料」=「Cook Do®」と結びつかず、ページが探せません。
ーーーたしかに「中華合わせ調味料」から探さないですね。
WEBアクセシビリティ向上の結果、誰にとってもわかりやすいサイトに
ーーー1つ目の課題「スクリーンリーダーが正しい音声で読み上げない」に対する改善策を教えてください。
小原
1つ目の課題については、スクリーンリーダーが読み間違えやすい箇所を洗い出し、スクリーンリーダー用にルビ(読み仮名)を設定します。画面上にルビが表示されるわけではないので、見た目の表記やデザインなどに大きな変化はありません。
ーーー2つ目の課題「スクリーンリーダーでテキストを読み上げた際に文章が途切れる」はいかがでしょうか。
小原
2つ目の課題に関しては、ページ内のレイアウトを見直し、スクリーンリーダーでも正しく読み上げられるように調整していきます。目で見たときの読みやすさと、音声での読み上げやすさの両立がポイントになります。
ーーー3つ目の課題「こちらで設定している商品カテゴリーが伝わりにくい」はいかがでしょうか。
小原
3つ目の課題である「商品別QA」は、現行の「商品カテゴリー」と「商品ブランド」の分類を両立させました。商品カテゴリーからも、「Cook Do®」のようにブランドからも情報を探せるようにしました。視覚に障がいがある方にとっても分かりやすいサイトは、健常者にとっても分かりやすいサイトとなります。
ーーーということは、今回の取り組みは障がいのない方にとっても意義があるんですね。
デジタルの活用で障がいがある方のバリアを解消
ーーー今後、WEBサイトはどのように進化していきますか?
小原
お客様相談センターのWEBサイトは2025年(令和7年)10月1日にリニューアルしました。視覚障がいがある方々にも継続的にご協力いただきながら改善を行い、さらにお客様にとってお使いいただきやすいサイトを目指していきたいと思います。

ーーーWEBアクセシビリティの改善は、味の素グループが推進しているまさにDE&Iの取り組みですね。
小原
お客様相談センターはお客様と会社の懸け橋として、いただいたお声を商品やサービス、企業活動などに反映する役割を担っています。いただいたお声は社内の様々な部門と共有し、複数の部門が連携し、すべてのお客様にやさしい企業であるために、できることから取り組んでいきたいと思います。

ーーー今後の展望について教えてください。
小原
近年、デジタルツールの活用により、障がいをお持ちの方の生活が各段に便利になっているとのお話をうかがいました。
たとえばネットバンキングやネットショッピングの出現により、これまでは必要であった第三者のサポートがなくとも、一人で行動ができるようになり、生活が便利になったとのことです。
ーーー物理的な障壁を取り除き、音声や視覚情報を得らえる多様なコミュニケーションが普及しています。
小原
今回のアクセシビリティ向上の取り組みもWEBサイトを進化させたことで、視覚に障がいをお持ちのお客様が少しでも便利に当社商品の情報収集をしていただけるようになれば幸いです。
将来は当社商品をご利用いただくさまざな場面で、これまで不便と感じてた点が解消されることを目指せると良いと思います。障がいをお持ちの方もお持ちでない方も、すべての方にとって暮らしやすい社会に進化していけるとすばらしいと考えます。
お客様からのメールがきっかけとなったお客様相談センターサイトの改善。WEBアクセシビリティの改善に取り組むなかで、お客様に真摯に向きあい信頼される企業を目指す、お客様相談センターの姿がよりはっきりと見えてきました。
味の素グループは今回の活動にとどまらず、これからも人・社会・地球のWell-beingへの貢献を目指してまいります。
2026年1月の情報をもとに掲載しています。
①スクリーンリーダーが正しい音声で読み上げないため、意味が正しく伝わらない。
②スクリーンリーダーでテキストを読み上げた際に文章が途切れ、内容が正しく伝わらない。
③画像情報が伝わらない。