味の素グループの国内最大の拠点である川崎事業所(神奈川県)では、2022年(令和4年)から、とてもユニークな「環境意識向上活動」を行っています。
3年目となる今年は、「エコ活キャンペーン」と題した取り組みの1つである食品ロス削減として、なんと青いバナナを使ったメニューが社員食堂に初登場。いったいどんな取り組みだったのでしょうか?そしてその味は?
川崎事業所の環境担当・森久子さんにお話をうかがいました。
味の素グループの国内最大拠点に求められる高い環境意識
京急川崎駅から、厄除けで有名な川崎大師に向かう赤い電車の京急大師線。2つめの駅「鈴木町」を降りると、改札の目の前が川崎事業所です。
1914年(大正3年)から、この場所でうま味調味料「味の素®」の製造が開始されました。じつは「鈴木町」という町名も味の素社の創業者・鈴木三郎助の名前に由来しており、川崎事業所は、まさに味の素社の重要な拠点であるといえます。
味の素社の川崎事業所はグループにとって国内最大の工場でもあり、約35万㎡(東京ドーム約7.5個分)の敷地にて「ほんだし®」「クノール®スープ」「Cook Do ®」「アミノバイタル®」など、味の素社の人気商品を数多く製造しています。
さらにこれらの製造工場では、商品の製造工程や調理体験を通して、食と健康、自然環境についてなど、幅広い知識を学べる工場見学も人気です。
4つのアクションまた、川崎事業所は研究開発やサービスサポートの拠点でもあり、関係会社が集まり、従業員約4,000名が働いています。
そんな川崎事業所では、以前から従業員に向けて環境教育を行ってきました。
工場の運営には、製造工程で発生する環境負荷(排水、廃ガス、騒音など)を管理するシステムと厳しい規準が求められます。それらを理解し、遵守するための知識やリテラシーを高める一環として、定期的に学びの時間が設けられているのです。
この取り組みは、従業員一人ひとりが環境に関する社会課題への意識を高め、もっと興味を持って参加できるように、2022年(令和4年)からは机上の教育だけでなく「環境意識向上活動」として実施されるようになりました。そして、2024年(令和6年)には名称を「エコ活キャンペーン」と改めました。
この「エコ活キャンペーン」の企画運営を担当するのは、安全・環境グループの森久子さんです。環境教育でSDGsを取り上げたことが、エコ活キャンペーンの取り組みにつながったと話します。
食堂で食品ロス削減メニューを提供!川崎事業所の「エコ活キャンペーン」
ーーー環境意識向上活動は、どのように始まったのでしょうか。
森:きっかけは、2021年度(令和3年度)の環境教育でSDGsを取り上げたことでした。テーマは温室効果ガス削減、水資源保全、プラスチック廃棄物削減などで、当時はコロナ禍ということもあり、eラーニングによる机上教育のみでした。しかしこれに予想以上の好評をいただきました。受講率は98%、理解度はほぼ100%、従業員からも「家庭でもゴミ削減を始めました」「スーパーで手に取るものが変わりました」など、数々の肯定的なコメントが寄せられました。
ーーーそこから体験型のキャンペーンを企画されたのですね。
森:はい、翌年の2022年度(令和4年度)には、「プラスチック廃棄物と食品ロスの削減」を重点テーマに、さらに2023年度(令和5年度)は「温室効果ガス削減」を重点テーマとして体験型を取り入れた「環境意識向上キャンペーン」を実施しました。
「SDGsを含む環境意識向上につながる情報発信」や「専門家を招いての環境講演会」のほか、食堂では環境負荷の低い材料や地産地消につながる素材を取り入れたメニューの提供を始めました。
さらに「フードロス削減」「省エネ」「ゴミ削減」などをテーマに「アイデアコンテンスト」を行い、従業員の自主的なアクションを促してきました。
ーーー川崎事業所ならではの特色というと何が挙げられますか?
森:味の素グループの原点は「おいしく食べて健康づくり」です。健康だけでなく、環境意識向上の取り組みの中でも食を通じたアプローチに力を入れてきました。たとえば味の素食品株式会社から、包装工程終了時にダンボール梱包に必要な個数を満たせずに残ってしまった製品を譲り受け、社員食堂で食品ロス削減メニューとして提供できるようにしました。これは、敷地内に多くのグループ会社が在籍する川崎事業所だからこそできる取り組みだと思います。
森:2023年度(令和5年度)に、味の素食品株式会社から廃棄される製品「業務用Cook Do®麻婆豆腐」を活用し、事業所の食堂で食品ロス削減メニューを提供しました。2024年度(令和6年度)には、廃棄される「オイスターソース」「業務用Cook Do®回鍋肉」「業務用Cook Do®麻婆豆腐」を活用し食品ロス削減メニューを増やしました。
このように、廃棄製品を食べることで、CO2削減といった環境面、廃棄に係るコスト面でもメリットがあります。
また、アレンジレシピとして提供することで、「こういう食べ方ができるんだ」「今度作ってみよう」というファン層獲得にもつながったと思っています。
ーーー2024年度(令和6年度)のエコ活キャンペーンのポイントは?
森:今年度は国や自治体、他企業など外部との連携を強化しています。他者と連携することで、環境問題への取り組みが社会的に活発化していることが、より具体的に認識できます。これを起点に、自分でできることを考えて行動に移すきっかけになればと思います。
2024年度(令和6年度)「エコ活キャンペーン」の4つのアクション
川崎事業所の2024年度(令和6年度)の「エコ活キャンペーン」の4つのアクションについて紹介します。情報発信だけでなく、従業員が気軽に参加、コミットしていける工夫を凝らしています。
①環境情報の発信・環境展示会
「循環型社会の実現」をテーマに、ゴミ削減・アップサイクルの情報をメール配信のほか、事業所内の厚生センターで展示。
②海ごみゼロ活動
近年、プラスチックごみによる海洋汚染は海洋生物の生態系を破壊するもののひとつとして大きな問題になっています。2050年にはプラごみの量が魚の量より多くなると懸念されています。プラごみ課題解決に向け、味の素社東海事業所と連携し、川崎事業所は日本財団と環境省が主催する「海ごみゼロウィーク2024」に参加。 事業所周辺の清掃活動を行いました。
③環境講演会
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の中嶋亮太氏による講演会。テーマは「プラなし博士が語る 深海に広がるプラスチック汚染と未来への行動」です。
④食堂メニューでの食品ロス削減体験
6月〜10月の第2・4木曜に食品ロス削減メニューの提供。そのひとつがDoleの「もったいないバナナ」とのコラボメニュー。
Dole「もったいないバナナ」を利用した日本初の社員食堂メニュー
2024年度(令和6年度)の「エコ活キャンペーン」の中でひときわ光るアクションが、Doleの「もったいないバナナ」を使用した食堂メニューです。8月8日に「青バナナとチキンのスリランカカリー」、22日に「青バナナとエビの特製天丼」が登場しました。
ーーーDole「もったいないバナナプロジェクト」とのコラボについて教えてください。
森:Doleは、バナナやパイナップルなどのフルーツを提供してくれる、私たちに身近な会社です。規格外で廃棄されるバナナを有効利用した「もったいないバナナ」の取り組みには、以前から興味がありました。人々のためにおいしさを追求するというDoleの志には、味の素グループの志に近いものを感じます。また、「もったいないバナナ」の楽しくポップなイメージが、「エコ活キャンペーン」における「環境課題の入り口を楽しく」というモットーとも重なります。
森:SDGsや環境活動というと、ちょっと重たい、お勉強っぽい話になりがちですが、それでは効果が限定的です。身近なもので楽しみながら、"気がつけば環境対策になっていた"と思えるアクションがいちばんです。その点でも「もったいないバナナ」が発信するメッセージはピッタリ。ぜひコラボさせていただきたいと以前から希望していました。そして今年、Doleさんに直接コンタクトを取ったところ、ご快諾いただけたのです。
ーーーフルーツの青果流通大手Doleとの連携によって、どんな成果が生まれると考えられたのでしょうか?
森:バナナは日本でいちばん多く売れているフルーツだそうです。そのバナナが、規格外を理由に大量に廃棄されているという事実に、みなさん驚かれると思います。こんな"もったいない"ことを続けていいわけがないと気づくと思うのです。身近なバナナだからこそインパクトが大きく、また、バナナ以外の食品のロスにも関心が広がるきっかけにもなると思います。
ーーーバナナといえばデザートやドリンクのイメージですが、なぜ食事メニューにしたのですか?
森:当初はキッチンカーを呼んで、ドリンクやスイーツを提供する案もありました。でも、せっかく食品会社がコラボするのですから食事メニューを作りたいとの思いがありました。Doleさんに聞いたところ、まだ「もったいないバナナ」を使った食事メニューはないとのことでしたので、どう提供しようかと。
ーーー実際のメニューはどのように決めたのでしょうか?
森:Doleさんから青バナナが1箱届きまして、食堂(エームサービス株式会社)の料理長と、さあ、どうしようかと。青いバナナは日本ではなじみのない食材だと思います。私も初めて食べたのですが、煮込むと芋のようなホクホクした食感になります。家で鶏の手羽元と甘辛く煮付けてみたらとてもおいしくて、醤油に合う、和食に合うことがわかりました。
森:8月に提供する2種類のメニューを決める際、1つは和食系にするとして、もうひとつはどうしようかと。すると料理長が「和食とは反対の方向がいいから、カレーにしよう」と提案してくださいました。
和食メニューを「天丼」にしたのは、"映え"を意識したためです。「海老なら赤が入って映える」という料理長のおすすめで「海老天丼」になりました。
「青バナナとチキンのスリランカカリー」を編集部が食べてみた
2024年(令和6年)8月8日、Doleの「もったいないバナナ」を利用した初の食事メニューが、味の素グループ川崎事業所の食堂に登場しました。
「青バナナとチキンのスリランカカリー」は、まだ熟す前の青いバナナを使用し、ココナッツミルクをベースにしたスリランカカリーです。
ここからは、味の素ストーリー編集部の無津呂沙季より食レポをお届けします!
無津呂
バナナということで甘口のカレーを想像していたのですが、まろやかな風味と、しっかりスパイシーな、大人のカレーでした!バナナはサトイモのようなサツマイモのような、ホクホクした食感で、はじめにバナナと聞いていなければイモだと思って食べたと思います。カレーとよくからみ、本格的なエスニックのおいしさでした。
青いバナナを食べたのは初めてで、こんなにおいしくなるなんてびっくりです!
地球の恵みをムダにしない!Dole「もったいないバナナプロジェクト」とは
Doleの「もったいないバナナプロジェクト」とは、まだおいしく食べられるのに、形や皮のキズなどが"規格外"であるために捨てられてしまうバナナを救う、食品ロス削減の取り組みです。2021年(令和3年)から始まりました。
Doleのバナナは、おもにフィリピンで生産されています。収穫されたバナナは日本に運ばれる前に、大きさや形、キズなどが厳しくチェックされ、選別されます。そこで"規格外"とされたバナナは、その場で廃棄されてきました。
この廃棄されていたバナナを活用するのが「もったいないバナナプロジェクト」です。現在、約50の企業が「もったいないバナナ」を採用し、廃棄されるはずだったバナナがドリンクやスイーツ、菓子に加工されています。製品はコンビニや飲食店で売られています。上のロゴマークが目印です。
Dole中島小織さんは、プロジェクトの立ち上げを次のように話します。
中島
世界的にも食品ロス削減の動きが高まるなか、食品を扱う会社として、せっかく収穫できた地球の恵みをムダにしたくないという思いから取り組みを開始しました。
味の素社さんとのコラボは、「もったいないバナナ」を料理の材料として使っていただき、しかも社員食堂で提供するという初めての試みです。こうしてたくさんの従業員の方に食事を通して知っていただけるのは、大変ありがたいと思っています。お昼休みのひととき、規格外の食品について少しでも考えるきっかけになってくれたらうれしいです。
「もったいないバナナプロジェクト」がスタートしたのが2021年(令和3年)の9月。昨年「救出」した規格外のバナナは、約600万本になります。(2023年の年間実績より推計)。
Dole広報担当の中島小織さんは、川崎事業所の食堂で「青いバナナとチキンのスリランカカリー」を食べて、「さすが食を預かる味の素さんならでは!」と感激していました。
「エコ活キャンペーン」が育むASV
味の素グループの従業員たちは、会社の志を実現するためにASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)*を実践しています。
ーーー森さんにとって「エコ活キャンペーン」を通じたASVとは?
森:エコ活キャンペーンによって、従業員の環境に対する知識や経験値は確実に高まっていると感じます。工場を適切に安定的に稼動させるためには、従業員一人ひとりの環境への高い意識と知識が欠かせません。環境配慮の欠如から引き起こされるトラブルを未然に防ぐことで、工場のラインが止まるような事態を避けることができます。それは製品を安定して供給することで、生活者のみなさまにいつもと変わらない暮らしを安心して維持していただくと同時に、味の素社の経済活動を継続し、ひいてはブランドイメージを守ることにも直結します。
森:また、味の素グループが掲げる「2030年までに環境負荷50%削減」の実現に向け、川崎エリア全組織が一体感を持って取り組むことも実践できています。
私は、エコ活キャンペーンは食品メーカーである味の素グループの経済価値と社会価値の向上に寄与する重要な取り組みだと思っています。
森:SDGsの視点から見ますと、私たちは味の素社の従業員である一方で、一般生活者でもあります。エコ活キャンペーンの内容を家に持ち帰って、「今日、会社でこんな話を聞いたよ」と家族に話して聞かせたくなるような、それを聞いた子どもが学校に行って友だちに話したくなるような、そんな広がりが生まれるコンテンツづくりを工夫していきたい。会社の中の活動ではありますが、ひとりの消費者として発信し、実践し、どんどん周りの人に伝えていければ、最終的に社会がいい方向に向かうのではないかと思っています。
ーーー3年目になりますが、これまでの成果や反響についてはいかがですか?
森:従業員の方から、たくさんのレスポンスをいただいています。たとえば、ゴミ削減の話を家に帰って子どもに話したら、子どもが夏休みの課題で取り上げ、一緒に調べましたとか、スーパーで買い物をするときに賞味期限の早いものから取る「てまえどり」をするようになりました、とか。着実に環境意識は高まっていると感じます。こうしたメールをいただくと、続けてきてよかったと、本当にうれしく思います。
「もったいないバナナ」を使用したメニューや、製造工程から出るロス食材を使用したメニューなど、おいしい取り組みが目を引く川崎事業所でした。今後の取り組みにも注目です。
味の素社川崎事業所が「かわさきSDGs大賞2024」で経営部門「最優秀賞」を受賞!
2024年(令和6年)10月16日、「かわさきSDGs大賞2024」(主催:川崎市SDGsプラットフォーム事務局)において、本記事で紹介した味の素社・川崎事業所での「エコ活キャンペーン」の取り組みが、経営部門の「最優秀賞」を受賞しました!
- 川崎市 : かわさきSDGs大賞2024 最優秀賞及び優秀賞が決定しました!
「かわさきSDGs大賞」とは、川崎市SDGsプラットフォーム事務局(川崎市・川崎信用金庫)が主催し、SDGsの取り組み普及と推進を目的に、SDGs達成に資する優れた取り組みを表彰する制度で、今年で3回目の開催となります。
①従業員食堂での「もったいないバナナオリジナルメニュー」や、グループ会社と連携した「廃棄品等活用メニュー」提供によるフードロス削減、②東海事業所と連携した「海ごみゼロ活動」の実施、③「プラスチック廃棄物のマテリアル・ケミカルリサイクル」の推進など、製造業としての「つくる責任・つかう責任」、地域社会との共生・共創による循環型社会の実現の取り組みが評価されての受賞となりました。
森久子
川崎事業所 環境担当
1990年入社。川崎工場総務・製造課を経て、品質保証グループにて医薬用アミノ酸の原薬GMP ICHQ7Aに適合した製造管理にすべくプロジェクト担当として従事。2012年より現在の川崎事業所 安全・環境グループにて環境法令の行政対応を担当。
「全ての成功は行動を起こすところから始まる」新しいことを始めるってスゴく勇気がいることですが、やってみてダメなら戻ればいい。でも始めなければ何も変わらないどころか、時代の流れに取り残されてしまう。最初の一歩を踏み出す時に頭をよぎる一言です。
休日は犬と遊んだり、家族とお酒を飲みながら食事をするのが至福のひと時です。
2024年10月の情報をもとに掲載しています。
<用語解説>
*ASV
ASVとは、「Ajinomoto Group Creating Shared Value」を略した言葉です。企業が自社の売上や利益を追求するだけでなく、自社の事業を通じて社会が抱える課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味します。
このように経済価値と社会価値の2つをともにつくる取り組みがASVであり、ASVを進化させていくことが、味の素グループのビジョンの実現につながると考えています。