その始まりは明治時代。日本の学校給食
小学校や中学校で、大好きだった給食メニューはなんですか?人それぞれ思い出のメニューがありますよね。
日本の学校給食の目的は、栄養バランスのとれた食事によって、子どもたちの健やかな成長を支えることです。日本では、2023年(令和5年)現在、小学校の99.1%、中学校の91.5%で学校給食が提供されています。
育ち盛りの子どもに必要な栄養素が盛り込まれたメニュー、食事を安全に子どもたちのもとへ届けるための徹底した衛生管理。日本の給食は、その質の高さから海外からの視察がくるほどです。
日本の学校給食の歴史は古く、130年以上前までさかのぼります。1889年(明治22年)、山形県鶴岡町(現・鶴岡市)の大督寺境内にあった私立忠愛小学校で、寺の僧侶たちが寄付を募り、生活が苦しい家庭の子どもに食事を無償提供したのが、学校給食の始まりとされています。
その後、給食を取り入れる学校が少しずつ増えていきました。1923年(大正12年)には、子どもの栄養状態を改善するために、国が学校給食を奨励し、全国へと広がっていきました。
1941年(昭和16年)、太平洋戦争が勃発。戦時下の食糧難などを理由に、学校給食は一旦中止せざるを得なくなります。しかし戦後まもなく、米国の民間団体からの支援物資を受けて再開するのです。長期にわたる食糧難で子どもの栄養状態が悪化したことで、国民の要望が高まったためでした。
1954年(昭和29年)には「学校給食法」が成立。この法律によって、給食で1日に必要な栄養素の3分の1がとれるよう、バランスを考えたメニューが考えられるようになりました。
2008年(平成20年)に同法の一部が改正され、学校給食は「食育」に重要な教材として、見直されます。
現代の日本の子どもたちは、毎日の学校給食を通して食事のマナーや正しい食習慣、衛生面での知識を身につけていきます。さらに、体をつくる栄養素や地域の伝統的な食文化、食料の生産・流通・消費なども学べる教材として、学校給食は広く活用されているのです。
海外にも学校給食はあるの?
子どもの栄養を補う観点から、学校給食を取り入れる国は増えています。しかし、日本のように子供たちが配膳をして、同じメニューを全校で一斉に食べる国はほとんどありません。学校給食がある多くの国では、食堂があり、専門スタッフが給食の準備をします。そして、子どもたちは自分の好きな席につき、思い思いに食事をするというスタイルです。
また、日本の学校給食の基本が一汁一菜であるように、給食のメニューにはその国の食文化や生活様式が反映されます。各国の学校給食の風景をのぞいてみましょう。
●世界が注目!無償のオーガニック給食/韓国
韓国の給食は、トレーの上にお皿を載せるのではなく、「シッパン」というくぼみのあるプレートに盛り付けます。ごはん、汁物、おかずがあり、キムチは必ずつきます。
韓国では、地道な市民運動によって、2011年(平成23年)に給食の無償化が実現。その後、2022年(令和4年)には、有機栽培や無農薬で育てられた農産物だけを使用した給食が、韓国全土の小・中・高等学校、幼稚園で提供されるようになりました。この無償のオーガニック給食は、日本はもちろんのこと、世界中から注目を浴びています。
●始まったばかりの学校給食。好きなおかずを選ぶところも/中国
中国の都市部の学校給食は、まるで日本の社員食堂のようです。校内にある食堂で複数のおかずのレーンに並び、好きな料理を2〜3種類とスープ、ごはんを容器に入れます。メニューは麻婆豆腐などの中華料理が定番で、ごはんの代わりにマントゥ(中国式蒸しパン)を食べることもあります。北京市の小学校の給食費は、1食12元(250円)ほどです。
中国の学校給食は、2001年(平成13年)に政府が法令を制定し、国の教育事業として推進したことで本格的に普及していきました。
2016年(平成28年)には、日本の「食育基本法」を手本として「健康中国2030規則綱要」と呼ばれる法令を制定。学校給食によって子どもの栄養をサポートすること、肥満を増やさないこと、健康的な生活をするための教育を行うことなどが記されています。国も地方政府も貧困地域の子どもの学校給食に力を入れ、2019年(令和元年)4月現在で、地方政府は905箇所(1576万人)、国は726箇所(2137万人)に援助を行いました。
●給食か弁当か、選択は自由。週一でヴィーガン給食も/アメリカ
アメリカでは、給食か弁当持参かを自分で選べます。給食の場合、いくつかのメニューから好きなものを選ぶことができます。チキンやフライドポテト、ハンバーガー、ホットドッグなどが人気のようです。サラダも一緒に食べなくてはなりません。
アメリカでは1910年代になって、貧困家庭の子どもを対象とした学校給食が各地で急速に広まっていきました。1946年(昭和21年)に「連邦学校給食法」が制定されたことにより、給食は学校教育の一環として認められました。
ニューヨークやボストンなどでは、すでに給食が無償化されています。また、ニューヨークの公立小学校では2022年(令和4年)から、毎週金曜日に肉や魚、乳製品を使わない完全菜食のヴィーガンメニューが提供されています(一例として、野菜を使ったタコスやサルサソース付きのトルティーヤチップス、味付けされたブロッコリーなど)。アメリカでは2割の子どもが「肥満」。給食によって、改めて自分の食生活を見直してもらうことが期待されています。
●コース料理のラインナップ。ナイフとフォークを使って食べる/フランス
フランスの学校給食は、前菜、主菜、副菜、デザート(またはヨーグルト)、パンというコース料理と同じラインナップで、ナイフとフォークを使って食べます。
子どもたちは、食堂で自由に席を選び、友だちとの会話を楽しみながら食べます。「食事は落ち着いた静かな環境のなかでリラックスして食べるもの」という感覚・文化が息づくフランスでは、食堂の天井や壁に吸音盤を設置している小学校もあります。給食は選択制で、帰宅して昼食をとる子もいます。
フランスは、2018年(平成30年)に、学校給食の食材を持続可能な食材(オーガニック食材など)へと変えていくための法律をつくりました(エガリム法)。各学校でベジタリアンメニューも取り入れられています。
これまでご紹介したように、給食によって子どもたちにバランスのよい食事を提供する国々がある一方で、いまださまざまな栄養課題を抱える国々があります。東南アジアにおける子どもたちの栄養課題と味の素グループの取り組みについてご紹介いたします。
ベトナムの子どもたちを取りまく栄養課題
味の素グループでは、世界各国の子どもの栄養課題の解決に積極的に取り組んでいます。それらの活動を行っている国のひとつが、ベトナムです。
ベトナムでは、農村部を中心に低身長・低体重となっている子どもが少なくありません。一方、都市部では肥満・高体重の子どもが増加しています。
小学校の給食は各学校の教員や調理スタッフに任されているものの、学校給食法がなく、栄養バランスのガイドラインもないため、健全な発育に役立つ給食が実施できているとはいえませんでした。
ベトナム味の素社が、こうした課題を解決するために着目したのが日本の学校給食システムです。
ベトナム味の素社の学校給食プロジェクト
2012年(平成24年)当時、ベトナム味の素社は地方行政とともに、日本の学校給食システムを応用した学校給食プロジェクトを開始し、栄養バランスがとれた献立メニューブックや食育教材などの提供を行いました。
その後、2014年(平成26年)9月からは給食運営と衛生管理を総合的に向上させるため、小学校のモデルキッチンの開発・設置も開始しました。2016年(平成28年)には、メニューブックに替えて、調理スタッフの知識がなくても栄養バランスがとれた献立を作成できるソフトウェアを開発・公開し、現在まで多くの小学校で利用されています。
モデルキッチン
2025年(令和7年)3月時点では、ベトナム北部に1校、中部に1校、南部に2校の合計4校のモデルキッチンが設置されており、学校給食プロジェクトの活動は62の自治体の4,367の小学校に広がっています。
課題の根本的解決を目指して――栄養士の育成をスタート
ベトナムにおいて栄養不足と肥満の問題が同時に起きているのは、栄養に対する正しい知識や認識が十分でないことも理由のひとつ。
この状況を解決する手段として、正しい栄養情報を伝達できる人材を養成、活用することを目的に、2011年(平成23年)、ベトナム国立栄養研究所(NIN)と味の素社で「ベトナム栄養関連制度創設プロジェクト(Vietnam Nutrition-system Establishment Project)」を創設しました。
その成果として、2012年(平成24年)に教育訓練省が4年制の栄養学課程設置を承認し、翌年にはハノイ医科大学に栄養コースが開講。2017年(平成29年)には同国初の「栄養士」が43名誕生しました。
「ベトナム栄養関連制度創設プロジェクト」は同年4月に(公財)味の素ファンデーションへ移管。正しい栄養知識の普及に向けた制度の確立を目指して、現在も進められています。
ベトナムだけじゃない!
インドネシアでも「学校給食」を
インドネシアでは、低体重、発育阻害、貧血の子どもの割合が高く、深刻な社会課題となっています。
インドネシア味の素社(PTA)は、2018年(平成30年)度よりボゴール農科大学の栄養学科と協働して、学校給食プログラム(SLP)を実施しています。10カ月のプログラムで10代の生徒を対象に、栄養バランスの良い給食の提供と栄養教育を実施し、行動変容や貧血状態の改善につなげています。
PTAは2020年(令和2年)度から、実施校の拡大を目指し、本プログラムの自主導入を推進するガイダンスブックを作成、インドネシア宗教省(MOR)との協働を開始しました。
MORの管轄するイスラム寄宿学校で栄養と健康の改善にSLPが貢献することが証明されたため、PTAはMORからのサポートを受けています。
2023年(令和5年)度までに、PTAは本プログラムを通じて32校16,506人の生徒、676人の教員、339人の学校調理スタッフに栄養教育を実施しました。そこで習得された知見と実習は今後も継承されることが期待されます。
また、同じく2023年(令和5年)度には、外食事業部を介して、SLPに参加した学校にPTAの調味料を提供することで、PTAが考えるコンセプトを経済的価値の創造にもつなげています。
味の素グループは、創業以来一貫して事業を通じた社会課題の解決に取り組み、 社会・地域と共有する価値を創造することで経済価値を向上し、成長につなげてきました。 この取り組みをCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)にちなんでASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)と呼んでいます。
このベトナムの学校給食プロジェクトとベトナム栄養関連制度創設プロジェクト、そして、インドネシアでの取り組みもASVの一環として、さらなる課題解決に向けて取り組みを進めていきます。
グローバルな栄養課題には複雑な問題が絡み合っていて、企業単体で解決を目指すには多くの難しさを伴います。そのため、味の素グループは、これまでにさまざまな活動を通して培ってきたネットワークを活かしながら、社会全体での課題解決への貢献を目指しています。
ベトナムのインフルエンサーも「学校給食」を発信
味の素社のグローバルメッセージ広告動画 「Sustainability Field Trip篇」では、ベトナムのZ世代に支持されているインフルエンサーの視点で、サステナビリティに貢献する食の課題解決の取り組みとしてベトナム学校給食の取り組みを紹介しています。ぜひご覧ください。
グローバルメッセージ広告動画 「Sustainability Field Trip篇」
2025年5月の情報をもとに掲載しています。