プラスチックといっても容器やパッケージのことではありません。洗顔料やメイク用品などに含まれている成分の中にマイクロプラスチックが使用されているのです。
近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染は、海洋生物の生態系を破壊するもののひとつとして大きな問題になっています。
その事態を重く受け止め、世界中の化粧品メーカーは、このマイクロプラスチックの問題を大きな課題として取り組んでいます。
2022年(令和4年)、味の素社はこの問題の解決に向け、アミノ酸研究の技術によって生み出した新素材を開発したと発表しました。
食品のイメージが強い味の素社が、アミノ酸によって、化粧品のマイクロプラスチック問題に取り組んでいる?これはいったいどういうことでしょうか。
化粧品にマイクロプラスチックが入っているの?
レジ袋有料化によるエコバッグの使用、紙ストローやマイボトルの活用など、すでに私たちの日常生活には、脱プラスチックの意識や行動が浸透しているといえるでしょう。
プラスチックの海洋汚染については、ビニール袋や発泡スチロール、ペットボトルなどがゴミとして海に流れ込んでいることと、それが破損し砕けて小さくなったマイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下の微細なプラスチック類が、海に流れ出すことが問題となっています。
魚などが海水に混ざったマイクロプラスチックを間違って食べてしまうことで、消化不全や胃潰瘍などを引き起こし死んでしまいます。さらにマイクロプラスチックを食べた魚介類を人間が食べることで人体にもマイクロプラスチックが蓄積されていくといわれています。
このようにマイクロプラスチックは環境問題だけでなく、人間にとっても大きな健康問題をもたらす危険性があると考えられています。
また、マイクロプラスチックには、プラスチックが砕けて小さくなったものだけではなく、あらかじめ製品として活用されているものもあります。
そのマイクロプラスチックが、一部の化粧品にも使われているということをご存じでしょうか。
じつは、スキンケアやメイクアップなどの化粧品には、仕上がりになめらかさを与えたり、しっとり感を与えたりすることができるため、20μmm以下のマイクロプラスチックビーズというプラスチック素材を活用し、使用されているものがあります。
マイクロプラスチックビーズは、もともとの粒子が小さいため、下水処理施設などのフィルターを通り抜けてしまい、海洋へ流れているといいます。
メイク用品にもマイクロプラスチックが使用されている!
化粧品に使用されるマイクロプラスチックビーズは、おもにポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、シリコンなどで作られています。化粧品で使用されている場合は、 商品の成分表に「ポリエチレン末」「ナイロン-12」「コポリマー」「クロスポリマー」などと表記されています。
近年、サステナビリティへの取り組みや環境意識が高まるなかで、化粧品におけるマイクロプラスチックビーズの使用禁止や削減に向けた規制が世界各国で強化されています。
洗顔料などは、代替素材の開発によってマイクロプラスチックビーズのほとんどが、自然由来のものや、環境負荷を軽減する代替品に置き換わっています。
しかし一方で、肌に一定時間塗布される美容液や乳液などのスキンケア用品やメイクアップなどの化粧品に使用されてきたマイクロプラスチックビーズは、肌触りや使用感を実現する代替品の開発が技術的に難しいとされてきました。
味の素社のアミノ酸技術を使って生み出した「AMIHOPE®」
そのような中、味の素社は、世界中の化粧品メーカーが抱える課題を解決するべく、マイクロプラスチックビーズに代わる新しい素材を生み出しました。
これまでに培ったアミノ酸技術を駆使し、ヤシなどに多く含まれる「ラウリン酸」とアミノ酸の一種「リジン」を組み合わせた「ラウロイルリジン」でコーティングする技術を新たに開発したのです!
味の素社は、2022年(令和4年)7月に、この新素材を「AMIHOPE® SBシリーズ」として発売、多くの化粧品メーカーへの提供を目指しています。
「AMIHOPE® SBシリーズ」は、自然由来の成分からつくられた丸みを帯びた粉体で、生分解性に優れており、使い心地のよい優れた感触とソフトフォーカス機能を備えています。
そのため、メイクアップ、スキンケア、ヘアケアなどの製品において、環境にやさしく、かつ高品質な使い心地を実現することが可能です。
プラスチックビーズからサステナブルビーズへ~55か国5,000社以上のメーカーとともに「AMIHOPE®」を未来に届ける
化粧品におけるマイクロプラスチックビーズの問題解決に寄与すると期待されている「AMIHOPE® SBシリーズ」の開発を担当したビスワス・シュヴェンドゥさんによると、この技術は他社の技術よりも優れているといいます。
ビスワス:コーティングの技術は他社でも20年前から開発されていましたが、期待通りの感触と機能を得られるにはより効率的なコーティング技術が必要となっていました。いままで不可能だと思われた技術の開発には、既存の考えにとらわれず、新しい手法の確立が必要でしたが、偶然にも、既存とは逆の方法を採用することで、今回のコーティングに必要な最適な技術開発ができました。
味の素社というと食品のイメージが強いと思われますが、1972年(昭和47年)に植物由来の発酵法で製造したグルタミン酸を原料としたアミノ酸系洗浄剤を世界で初めて発売して以降、アミノ酸に関する豊富な知見を生かし、パイオニアとして世界55カ国、5,000社以上(2019年5月時点)の化粧品メーカーにアミノ酸系香粧品素材を提供しています。また、アミノ酸技術を活用した自社の化粧品ブランド「JINO」の製造・販売もしています。
ビスワス:「AMIHOPE® SBシリーズ」には、当社が40年前に独自開発したアミノ酸をベースとした化粧品原料とその原料に関する技術・知見が活かされています。
「AMIHOPE® SBシリーズ」の機能は高く評価されており、世界中の化粧品メーカーから注目されています。「HOPE=希望」という言葉を称えた「AMIHOPE®」は、いずれ近い将来、みなさんがお使いの化粧品にも含まれるようになるかもしれません。
ビスワス:化粧品には、人々の外見の美しさだけでなく、内面に元気と希望を与える力があると思います。環境負荷の少ない化粧品素材は持続可能な地球環境と人々の美しさを両輪でサポートできます。「AMIHOPE®」という製品名には、人々も環境も美しくし、希望と夢に満ち溢れた未来の実現への思いが込められています。
"プラスチックビーズからサステナブルビーズへ"
「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」を目指す味の素社は、環境負荷の少ない高品質素材「AMIHOPE®」とともに"地球環境への負荷の低減"と"生活者の快適な生活"に貢献していきます。
「あなたのメイクが地球を救う?! ~肌にも地球にも優しい素材とは~」の動画を見る
長年のアミノ酸研究技術を用いた環境負荷軽減への取り組みをアニメーションにまとめました。ぜひご覧ください。
「AMIHOPE® SBシリーズ」の動画を見る
最後に、ビスワスさんのインタビューを中心とした「AMIHOPE® SBシリーズ」についての動画をご紹介します。「AMIHOPE® SBシリーズ」が生まれた背景や、未来への思いが語られています。ぜひご覧ください。
ビスワス シュヴェンドゥ(Shuvendu BISWAS)
化成品部 パーソナルケア・マーケティンググループ
2013年、味の素株式会社に入社。バイオ・ファイン研究所にて、アミノ酸を骨格とする素材には、よりサスティナブルな未来構築の力が秘められていることに気づき、新しい素材の開発、処方研究に没頭。
2019年より、本社化成品部にてサスティナブルな香粧品原料の市場導入・販売戦略構築など担当。
<用語集>
生分解性
生分解性とは、物質が微生物などの生物の作用により、水や二酸化炭素といった無機物まで分解されることをいいます。生分解性素材とは、微生物などによって分解することが可能な素材のことをいいます。
マイクロプラスチックビーズ
マイクロプラスチックビーズは、5㎜以下のビーズ状のプラスチックで、洗顔料や歯磨き粉など洗い流すタイプのパーソナルケア製品や、スキンケアやメイクアップ化粧品などに利用されています。なお、マイクロプラスチックビーズなどマイクロサイズで製造されたプラスチックを「一次的マイクロプラスチック」、大きなサイズで製造されたプラスチックが自然環境中で破砕・細分化されマイクロサイズになったものを「二次的マイクロプラスチック」と分類します。(出典:平成30年 環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」)
2022年11月の情報をもとに掲載しています。
化粧品|製品・サービス|AHS 味の素ヘルシーサプライ株式会社