そのサポートを受けるアスリートの一人が、フィギュアスケーターの羽生結弦選手です。味の素社は、2014年(平成26年)のソチ2014冬季オリンピック以前より、羽生結弦選手のコンディショニングサポートを行ってきました。
今回、羽生結弦選手と、羽生選手の活躍を長年支え続けてきた「ビクトリープロジェクト®」のリーダー栗原秀文さんとの対談が実現。食事を通したからだづくりや、オリンピックの思い出などについて、熱く語っていただきました。
インタビュー動画はこちらのメモリアルサイトからご覧いただけます。
メモリアルサイト
羽生 結弦 選手ソチ2014、平昌2018
オリンピック金メダリスト
プロフィギュアスケーター
栗原 秀文「ビクトリープロジェクト®」
プロジェクトリーダー/
サポートディレクター
「食べるのは好きじゃない」から始まった食事サポート
ーーーお二人の出会いについて教えてください。
栗原さん
ある方から、羽生結弦選手がからだづくりや健康面で悩みがあると聞き、引き合わせていただきました。あれはいくつだったっけ?
羽生選手
ソチオリンピック前なので、17歳くらいですかね。
ーーー当時はフィギュアスケーターとして、食事をどのように捉えていましたか。
羽生選手
どちらかというと、フィギュアスケートは食事制限をする競技で。重くなることがいかに怖いかということを、毎日のように体感しながら練習をしているんですね。食事に対しては、栄養を摂取するというよりは体重制限するためのものみたいなイメージが強くありましたね。
ーーー栗原さんとお会いしてから、食事へのイメージは変わっていきましたか?
羽生選手
それまでは栄養に対する知識やどんなタイミングで何を食べるべきなのかなど、わからないことだらけでした。栗原さんには栄養に関することをたくさん教えていただきましたし、そこから自分でも注意するようになりましたね。
2013-2014シーズン 全日本選手権優勝後に
ーーーそのころの羽生選手は、どんな食べ物がお好きだったんでしょうか?
栗原さん
そうねえ。当時、僕が「好きな食べ物はなに?」って聞いたら、結弦くんは焼き肉とお寿司って言っていたんですよ。
羽生選手
(笑)
栗原さん
なんで?って聞くと、ポーション(サイズ)が小さいからって。ステーキとかだと、ドンって出てきちゃうもんね。基本的には出されたものは全部食べないと気がすまないというか、まあ完璧主義者なんですけど。だからドンって出てくると、全部食べないと気分が悪いし、うーんって思うので。小さなポーションだとすぐに片が付く。だから、そういうものを選んだんだと思います。
羽生選手
そうですね。
栗原さん
「僕、食べるの好きじゃないですから」って、ちゃんと言ってくれたよね(笑)。
羽生選手
はいはい(笑)。
栗原さん
それはそれで、すごくわかりやすくてうれしかった。ただ、食べなきゃダメだよっていうスタンスには、ならなかったんですよね。どのように効率よく、食べやすくしていくかっていうのが、ご本人にとっても大切なことだし。ただ単に栄養を摂取すればいいというのではなくて、栄養摂取する時にポジティブな感情を持ってもらいたいと思ったんです。
羽生選手
あと、好きな食べ物といえば鍋でしたね。
栗原さん
そうそう、17歳、18歳、まさにそのタイミングで栄養バランスをいかに向上していくかっていう時に、やっぱ鍋がいいんじゃないっていう話になっていったんだよね。ちょうどカナダに行ったばかりで、日本の食材を購入するのもむずかしい状況で。鍋だったら、ワッと食べやすいしっていう。そんなスタートでしたよね。
羽生選手
うんうんうん。
栗原さん
鍋だねーくらいからスタートして、そこから食べることに興味を持ってもらいました。アミノ酸の種類とか、食事のタイミングの話から始め、栄養というものをアミノ酸で捉えた場合、自分にとって何が必要なのか、どのタイミングでどれくらい、何を摂るべきなのかっていうことに、彼の意識がどんどん向いていった。やはり結弦くんは探究心が強いので、そこから栄養について自ら掘っていったという感じだと思います。
選手一人ひとりの特性にフォーカスしたサポート
ーーー栗原さんと接して、食事に関する考え方は変わりましたか?
羽生選手
もともとそんなに胃も強くなくて、食べられるときと食べられないときがあり、さらにカナダに行った直後だったので、現地の料理が合う・合わないみたいなものもあって。そんな環境で、こういうものだったら食べやすい、こういう流れだったら食べやすいということをたくさん教えてもらいました。
まずは食べやすさから入って。じゃあそのなかでこういう栄養を摂っていこうと。食べられなかった場合の補食の摂り方も知識として増えていったし、同時に実践もしていきました。
栗原さん
一番最初に結弦くんと話したときに、「食べることが苦手です」っていうところから入ったんです。「お腹空いた。いただきます」って食べ始めるんだけど、場合によってはすぐに「ああ、お腹いっぱいだ」って、休憩しちゃうみたいなことがあると。
羽生選手
はいはいはい(笑)。
栗原さん
もしかしたら、胃が食べ物に反応して動き始めるのがちょっとゆっくり目なんだろうと。だから慌てなくていいんじゃないかなって思ったんです。
ある程度ゆっくり楽しく食べるシーンをどういうふうに結弦くんに提供するかっていうところに、僕がフォーカスしましたね。
ーーー選手一人ひとりの特性を見て感じて、そこにフォーカスした食事指導をする栗原さんの方法論ですね。
栗原さん
まあ、そうですね。これは結弦くんに特化した話ではなくて、それぞれの選手に特徴があって、からだも違うし、それに合わせたお手伝いをするっていうのが、選手のサポートにおいて大切だと思っています。
ーーーその頃のお二人のやりとりの中で、覚えていらっしゃることはありますか?
羽生選手
ソチオリンピックの前だったので、試合当日に向けて食事管理をどうしようっていう話はしていましたね。自分たちに「食事は試合開始の何時間前に摂る」みたいなルーティンがあっても、それが叶わないことがオリンピックでは多くて。そういうときにどうしたらいいかっていう話はいろいろしましたね。
栗原さん
スケジュールの話はすごいしたよね。どういう戦略でいくかというね。
羽生選手
僕らの試合がだいたい夜の9時とか10時に終わって、そこから記者会見があって帰ってきて、ごはんを食べるのが夜中の12時くらいになるときもあって。その次の日の練習がお昼からだと、本当は朝9時くらいには食べなきゃいけないのに、時間通りに食べられない。そういうときは体重測定すると重かったりして。重いから、じゃあこういうふうにしようみたいなことは、計算していましたね。
ソチ2014冬季オリンピック 現地で金メダルと共に
離れていても、二人三脚で最高のコンディションを生み出す
栗原さん
僕は、やっぱりからだの健康と心の健康って両方とも大切だと思っていて。からだの健康をないがしろにしていたら、心の健康って持たないじゃないですか。とくにフィギュアスケートって、滑りながら演技をして、ジャッジのみなさん、お客さまに対して、自分の感情とか世界観をどういうふうに表現するかっていうことだから、絶対的に心が健康じゃないと。
羽生選手
確かに。
栗原さん
結弦くんのお手伝いの最大のテーマは健康でした。
ーーー減量するうえで、白米を食べないようにする人は多いかと思います。ですが栗原さんは白米の大切さを説いている。その考え方に対して、羽生選手はどう思ったのでしょうか?
たとえば、食べることでからだづくりをしていくわけですが、一方でジャンプへの反作用や、それに伴う食べることへの拒否感もあったかと思います。思い返すといかがですか?
羽生選手
まあでも、僕はそもそも体重が軽い方だったので、筋力的にも足りない部分はあると思っていました。技術も上達するし、ジャンプもどんどん跳べるようになっていく、みたいな時期だったので。食べないようにしようというのはなかったですね。ただやっぱり年齢をどんどん重ねるにつれて、23歳か24歳くらいから、体重が増えるのがいやになってきて。
そのときはちょっとずつ制限をしたりとか。ここはそんなに練習量を増やせないから、食事はこれくらいにしておこうかとか。あとは試合のときのごはん全体の量のグラム数を減らしてみようかとか、そういうことはやっていましたね。前日に食べたものが次の日までお腹の中に残っていて、体重が重いことが結構あったので、ジャンプに対しては、意識して気をつけていましたね。
栗原さん
着地のときにものすごいGがかかるからね。そこで内臓がガツンって、やられちゃう。
羽生選手
フィギュアスケートは、いわゆるトレイルランとか登山とかマラソンみたいに、常時揺さぶられ続けることによるダメージが、より大きくかかりやすい競技でもあるので。内臓へのケアみたいなことは、結構していただいたかなとは思います。
ーーーソチ2014までは「健康を」という話でしたが、平昌に向けて、より刃を研いでいくような強化、栄養戦略をされていたと伺いました。どのようなものだったのでしょうか。
栗原さん
体重、体組成を管理して、それと同時にその日のトレーニング量と強度を書いてもらったものを、一日のトレーニングロード*として数値化しました。そのなかでコンディションについても数値化をしていって、それらの変化を経時的に見ていきました。ご本人のパフォーマンスに関しては僕はわからないので、それは結弦くんがそのデータとすり合わせをしていくっていう流れです。
*トレーニングロードとは、トレーニングの負荷を把握するための指標
羽生選手
自分にどこで何を食べさせたいかと、どのくらいの体重管理が必要か、どのくらいの量を滑っているのかっていうのをイメージしながら食べていくっていうのが、僕のなかでのもの(僕にしかわからない感覚)だったのかなとは思いますね。
平昌2018冬季オリンピック 現地での食事提供時に
栗原さん
スケジュールがこうだから、ちょっと多めに食べようとか。
羽生選手
ここはおいしいやつで、とか。
栗原さん
そう(笑)。
羽生選手
結弦くんが好きなメニューでドンといこうみたいな感じのときだったりとかね、ありますね。
栗原さん
そうそうそう(笑)。
ーーー平昌2018へと二人三脚でやられていた過程で、印象的なエピソードはありましたか?
羽生選手
夏場に、今シーズンどういう方針で戦っていこうかっていうミーティングはよく行いました。僕自身も勉強しながら書きながら、栗原さんからもフィードバックをいろいろといただきながらという感じで。そこで自分の体重だったり栄養だったり食事のタイミングだったりとか、そういったことへの知識が深まっていった感じですね。
栗原さん
結弦くんがトロントに行って、離れたところで練習をなさっているわけですけど、離れていてもデータの流れとか数字を見ると、今どんな感じかということがイメージできる。こうなっていきたいんだろうなっていうのが描けるので、作戦が組めましたね。彼の場合は、毎日トレーニングロードや時間や強度とかを書いていくところに、いろいろ書いてくれるんですよ。今日はこうだったああだったとか。いろいろなファクトを書いてくれていて。
羽生選手
日記になっていましたね。
栗原さん
なるほどと思うことは、すごくありました。なかでも平昌に向けて、2017年(平成29年)のヘルシンキでの世界選手権の頃、足腰の筋肉がすごく増えて、実際フォルムも変わってパフォーマンスも出て。こういうことね!ってすごくおもしろかった記憶がありますね。
羽生選手
やっぱり、トロントでの栗原さんとの密なやりとり栄養管理的にもベースになっている感じはありますよね。
健康な心とからだがあるからこそ、自由な戦いができる
ーーー話を聞いてると、羽生選手はアスリートの体内のメカニズムや栄養といった部分で、栗原さんと調和していますよね。
羽生選手
いやあ、洗脳されているんです。
栗原さん
ハハハ(笑)。
羽生選手
言い方悪いけど(笑)。でもやっぱり僕自身が、どうやったらうまくなるかということに対して、かなり貪欲なんですよね。それはどうしても自分の知識だけじゃ足りないんですよ。だから、栗原さんにどうしたらいいのって聞くし、そういえば試合のときこうだったなとか、こういうものを食べていたなって思ったら、実際に同じものを食べてみたり。あとは自分自身でも調べて知識をつけたりして。今こんなものを食べています、こんなことをやっていますみたいなことを栗原さんと共有して、それでまたいろいろブラッシュアップしていって、みたいなことはすごい多いですね。
ーーーお二人の波長の合うやり取りは非常に興味深いなと思うんですが、お二人が話していくなかで、どんな化学反応があったのかなということも気になります。羽生選手は選手としての成長があったかと思いますが、おそらく栗原さん自身も成長させられた部分はあったのではないかと。
羽生選手
でもなんか、それこそ最初に、めんどくせえなあってたぶん思われたと思うんですけど。
栗原さん
(笑)
羽生選手
食事の考え方も含めて、フィギュアのことをめちゃくちゃ勉強されたと思うし。
栗原さん
やっぱり一個体一個体、お一人おひとり全部違うんですよね。育ってきた過程も違うし、食べてきた量も違う。イコール、胃と腸を動かしている量も違う。同じ競技でもからだの違いは当然あるし、ましてや違う競技で体格差もあったら全然違う。ワンバイワンでちゃんと見ていくっていうことなんですね。
だから、「これを何グラムを入れると結弦くん(の体)はこういう反応をするだろうな」というような感度は本当に高まった。サポートしていて、こっちが逆に勉強させていただきましたね。結弦くんのサポートをさせていただくなかで、本当にそんな感覚を得ていました。
ちゃんと心もからだも健康な状態で送り出せば、氷上で自由にいろいろな戦いを繰り広げるわけですよ。それを見るのが、僕は本当に幸せだったというか。本当に、うれしかった。結弦くんのサポートをしていてすごく感じていたこと。やっぱりそこが今でもベースになっている。
最後の最後まで、最高の演技をしたいという思いを胸に
ーーー羽生選手にとって、栗原さんとの出会いはアスリート人生のなかでどういう位置づけなのでしょうか?
羽生選手
僕はもともと食事に対しての興味が薄い人間で。そもそもお茶碗一杯にどれくらいのエネルギー量があるかすらも知らない状況でしたから。栗原さんとの出会いは、栄養とスポーツの掛け算について考えるきっかけになりましたね。
いわゆるコンディショニングの土台となる、食事に関しての考え方が深まったことによって、自分でも工夫ができるようになったし、その工夫が自分のパフォーマンスを上げてくれるものにもなった。栗原さんが土台を作ってくださったというか、土台を作るきっかけになりました。どういう食事をしなきゃいけないのか、どういう体重にしていかなきゃいけないのか、どんな体づくりをしなきゃいけないのかっていうことを、すごく考えるようにはなりましたね。
栗原さん
からだを作っていくプロセスの中で、四回転半目指そうってなったとき、北京オリンピックの前に、ハムストリングとかスクワットとかで結構下肢を鍛えていて。だけどってなったんだよね、結弦くんが。「とりあえず筋力で跳ぶレベルはだいぶいい感じにきてる。あとは腱なんだよ」って言って。僕もちょうど腱反射のことを言おうと思ってたので、まさにドンピシャで腱って言ってくれたのが、すごいおもしろい。おんなじことを考えていたんだっていう。
羽生選手
だからそこ(北京オリンピック)の段階ではもう、健康がどうのこうのということではなく。
栗原さん
もう越えていたよね。
羽生選手
土台ができあがっているから、その上にちゃんと成り立つという感じでしたよね。集大成というか。
北京2022冬季オリンピック 現地にて
栗原さん
ちょうどそういった(腱を健康にしていく)アミノ酸も開発されて、よりハードなところで頑張れる、自分の力を出せるみたいな。そんな栄養をちょうど我々も開発したり、いろいろ考えているときで。それがきっと彼の4A(4回転アクセル)にプラスになるだろうっていう仮説を持ちながら、トレーニングの設計の話をさせてもらったんですけど。まあ食いついてくれて。
羽生選手
「食いつくっ」て...魚かな(笑)。インターバルトレーニングと、あとは加圧トレーニング、ローカーボ(糖質制限)とか、いろいろやってきましたね。
栗原さん
そうだね。で、やっぱり腱や関節にものすごく負担がかかるので、コラーゲンとかたんぱく質を低脂質できっちり摂れるような鍋などのメニューを開発して。トレーニングで必要なエッセンスを与えつつ、栄養はそのための献立にしていくみたいなことで、一糸乱れたくないっていう感覚でいろんなものを組み立てていきました。
羽生選手
結局、土台が食事なんですよ。食事で自分の体になにを摂らせるべきなのか、どういうバランスで摂らせるべきなのかっていうのが土台にあるんですよね。
栗原さん
そうだよね~。そうそう、一個ね、僕のなかでこれは個人的な話ですごく聞きたいことなんですけど。北京オリンピックで、4A(4回転アクセル)をチャレンジして認められました。とはいえくやしい結果です。で、それはそれで仕方がないんですが、その後のエキシビジョンに向けて、「栗さん、俺もう一回(エネルギー源となるグリーコーゲンを)溜めるから。やるよ!」って連絡をくれて。試合の5日後くらいかな。あのときの気持ちを教えてほしくて......。
羽生選手
正直自分の演技に対してめちゃくちゃくやしかったから、いわゆる選手の素質が見えるエキシビションで、どれだけ魅せられるかですべての印象が決まると思っていたので。最後の最後の演技まで最高にしようっていうのは、ずっと思っていたことなんです。
栗原さん
僕はあれを、宿舎の食堂のテレビで見ていたんです。号泣ですよ。
羽生選手
(笑)
栗原さん
もうおかげさまで。最高の演技を見せていただいたなあっていう記憶は、もう忘れらんなくて。あれはもう僕の人生で絶対忘れられない瞬間だった。
羽生選手
今も、ずっとその気持ちの延長線上でやっているって感じですかね。どれだけ最高のものを最後の最後まで届けられるかみたいなことを、今やっている感じですね。
栗原さん
むちゃくちゃよかった。
羽生選手
ああいうの得意だから(笑)。人泣かせるの得意なんだ。
栗原さん
いやあもうまんまとハマりました。まんまとハマりましたよ。
羽生選手
いやまあでも、そこまでの過程をすごく知ってくださっているから、余計にね。ありがとうございます。
栗原さん
ありがとうございます!
羽生選手
変わらないよ、あのまんまよ。
栗原さん
そっかあ。うれしいです、とっても。
ーーー北京2022のエキシビジョンのときは、ケガをされていたんですよね?
羽生選手
もう右足首がガンガンに痛くて、でもなんかそれ以上に、とにかくいいものを見せたいっていうか。栗原さん含めホントにいろいろな方々にサポートされて、アスリートっていうのは競技に出ていくので。そのサポートをすべてちゃんと、この舞台で昇華したいみたいなことをつねに思っていて。
フリーの本番で、それが出されるべきだったんだけど、僕はそれを出しきれなくてすごく申し訳なくて、くやしくて。もうほんとわーってなっちゃっていたんで。それを全部、エキシビションのときに出せたらいいなっていうのは思っていましたね。
食事のサポート一つとっても、僕だけに対してどれだけの考え方があって、どれだけの研究がその過程にあって、どんな知識があって、それをどれだけつぎ込んでくださっているかっていうのを、毎回毎回感じていたんで。恩返しがしたい、結果を出してあげたいって言うのはずっと思っていましたね。
栗原さん
そんな結弦くんのその思考に、自分も高められてたっていう部分はすごくありますね。
ーーーすごく対等な感じがいいですね。
羽生選手
対等!?
栗原さん
対等? いやいや。
羽生選手
対等ではない、どう考えても栗原さんが上ですから。僕は教えてもらっている立場なんで。
栗原さん
まあそれは年齢だから、年齢。
羽生選手
僕は教えてもらっている立場。でもやっぱりそれは、栗原さんがアスリートとスポーツをやっている人間に対しての食事、栄養面のプロなんで。なんか、やっぱりそこは対等であるというか、わざわざ栗原さんが同じ目線に降りてきてくれて、すごく本気でしゃべってくださっているので。僕らも本気になれるっていうのはつねにありますよね。なにせ本気の人間なんで。
栗原さん
(笑)すいやせん。人生本気ですから。
羽生選手
いろんな現場でうるせえって言われちゃうタイプだからね(笑)。
栗原さん
(笑)
選手時代もプロ転向後も、つねに上を目指す
ーーー現在はプロのフィギュアスケーターとして、ショーの期間中は「ショー・お休み・ショー」っていうときもあると思うんですが、どういう食事内容なんですか?
羽生選手
一般の方々が考えるようなアスリートの食事、いわゆる肉ばっかりとか、米を丼一杯とか......そういう考え方は一切なく。どちらかというと一般家庭で出るようなバランスの良い食事をさらに突き詰めていっている感じです。どのタイミングで、どういうものを自分に食べさせてやるべきかっていうのを考えているだけですかね。
栗原さん
そうそうそうそう。
羽生選手
まあちょっと普通の人たちよりは、脂質が少ないというくらいですかね。
栗原さん
脂質はかなり少ないです。脂質をほぼカットして、塩分もそこそこ低塩分にして、むくまないようにして。でも、うま味の働きを使っておいしく食べていただくっていう。メニューこそ、そんな特別なものはないけど、調理法でものすごく配慮しているって感じですかね。
プロ転向発表後に、ご挨拶に来ていただいた際
ーーープロとしての、これからの目標を教えていただけますか?
羽生選手
プロってやっぱり順位で測れるものでもないし。ここまでの演技をしたら100%で優勝できますよっていうものでもない。結果として見えていないけど、そのやるべきことというか、つねにうまくならなきゃいけないということは変わらない。そこに関しては優勝し続ける感覚と変わらないっていうふうには思っていますね。だから毎試合毎試合を頑張ってきたのと同じように、毎回の本番をつねに10、10いったら次11、12ってどんどんうまくなっていけるようにはしたいなと思いますね。それが当分の目標かなと思います。
栗原さん
さすがですねえ。やっぱりだから、それを支えるのは健康ですよ。本当に。思考も健康じゃなかったら、勝負できないもんね。
羽生選手
そうですね。
ーーー本日は貴重なお話ありがとうございました。
羽生選手
ありがとうございました。
栗原さん
いやあホントありがとうございました。
羽生 結弦(はにゅうゆづる)
1994年12月7日、宮城県生まれ。4歳からスケートを始め、2008年全日本ジュニア選手権で優勝。09-10シーズンのジュニアGPファイナル、全日本ジュニア選手権、世界ジュニア選手権すべてで優勝を果たす。10年にシニアデビューし、12年世界選手権において日本男子史上最年少で銅メダルを獲得。12-13シーズンからカナダに練習拠点を移し、ブライアン・オーサーに師事。ソチ2014冬季オリンピック・平昌2018冬季オリンピックにて男子シングル金メダル、男子としては66年ぶりとなる連覇を果たす。3回目の出場となる北京2022冬季オリンピックではISU公認大会で初めて「4回転アクセル」として認定された。2018年7月、冬の競技としては初めて個人として最年少で国民栄誉賞受賞。
その他の主要な戦績として、全日本選手権優勝6回(12-15年、20-21年)。世界選手権優勝2回(14年、17年)。グランプリファイナル4連覇(13-16年)。
2022年よりプロ転向。フィギュアスケーターとしては異例の単独公演に挑戦、多くの観客を魅了し続けている。
栗原 秀文
「ビクトリープロジェクト®」プロジェクトリーダー/サポートディレクター
1999年、味の素株式会社入社。名古屋支社にて家庭用の営業職に従事。2004年から「アミノバイタル®」部(現スポーツ&ヘルスニュートリション部)にて「アミノバイタル®」の開発・販売マーケティングと共に、「ビクトリープロジェクト®」を担当。2016年からは、プロジェクト専任に。羽生結弦選手、阿部一二三選手、阿部詩選手をはじめ、数多くのアスリートたちをサポート。選手と本気でぶつかり、向き合い、現在の「ビクトリープロジェクト®」の基盤を作るとともに、進化させている。
※味の素㈱は、TEAM JAPANゴールドパートナー(調味料、乾燥スープ、栄養補助食品、冷凍食品、コーヒー豆)です。
2025年5月の情報をもとに掲載しています。