活動レポート

モーダルシフトってなに?環境負荷を減らしドライバー不足も解消する物流ソリューションとは

便利で快適な私たちの暮らしを支えてくれている物流業界が、いま危機に直面しています。2024年(令和6年)に施行される「働き方改革関連法」により、トラックドライバーの労働時間の上限が設定され、「このままでは、私たちの手元にモノが届かなくなる」と言われているからです。

こうした物流危機を見据え、味の素社では、早くからさまざまな物流における課題解決に挑んできました。本サイトのこちらの記事でもご紹介しています。

モーダルシフト?FーLINE?2024年問題?業界も大注目する味の素社の物流ソリューションとは

その中で、とくに力を入れてきたのが、輸送手段をトラックから鉄道や船舶に切り替える「モーダルシフト」です。

モーダルシフトとはなにか?どのように進められている取り組みなのかをくわしくご紹介するため、物流企画部の隈元尚之さんにお話を聞きました。

モーダルシフトとは?

モーダルシフト(modal shift)とは、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶に転換することを言います。

モーダルシフトは、1991年(平成3年)に運輸省(現国土交通省)から物流業界の労働力不足対策として推進が提言されました。1997年(平成9年)、地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議において、2010年(平成22年)までにモーダルシフト率を40%から50%に引き上げる方針が決定されてからは、業界でも重要な取り組みの一つとなっています。

味の素社では、トラックと鉄道、船舶による輸送を機動的に組み合わせ、時代の流れに合わせた物流改革に取り組んできました。

では、モーダルシフト化を推し進める意義はどこにあるのでしょうか。

隈元:大きな目的の1つに「CO2の削減」が挙げられます。船舶や鉄道による輸送は、環境負荷を抑えるうえで非常に有効な手段。たとえば重さ1tの貨物をトラックで1km運んだ時のCO2排出量を100とした場合、船舶は20、鉄道は10と大幅に削減することが可能です。

また、輸送手段を複線化することで、自然災害がもたらすリスクを軽減させ、輸送の安定化を図るという目的も。

隈元:近年、大規模な災害が増えてきており、輸配送ができないリスクが増加しています。でも、複数の輸送ルートを持っていれば、たとえば道路が不通でトラック輸送ができない場合は鉄道で、土砂崩れなどで鉄道が不通の場合は船舶で運ぶことができる。非常時にも安定した供給をかなえることができるのです。

モーダルシフト化を推し進めるもう1つの目的は、トラックドライバー不足への対応。来る「2024年問題」に備え、トラック輸送に依存しすぎない物流体制の構築に取り組んできました。

隈元:モーダルシフトは「強くてしなやかな物流」を実現する有用な手段。持続可能な加工食品の物流体制の構築を目指し、関連部署と一丸となって全力で取り組んでいます。

味の素社におけるモーダルシフトの歴史

味の素社のモーダルシフト化への取り組みを、時系列でご紹介します。

1995年(平成7年) 初めてモーダルシフトを導入

味の素社におけるモーダルシフトの始まりは、1995年(平成7年)までさかのぼります。SDGsの意識が浸透するずっと前の時代ですが、当時から今と同じCO2の削減、輸送の多様化・安定化を図るという目的を掲げてモーダルシフト化に乗り出しました。

隈元:当社では1950年代に「味液(みえき)」という醤油の原料などとして活用いただいているアミノ酸製品を、鉄道によるタンク輸送していたことがありました。鉄道輸送を取り入れたことで流通コストを低減させ、納入価格も抑えることができましたし、販売網を拡充させることにも成功したという実績があります。当時から帰り便には別の製品を積むことで往復輸送が行われていたと聞いています。1995年(平成7年)に始まったモーダルシフトの動きも、こうした歴史を踏まえて始まったのではないかと推測されます。

2011年(平成23年) 東日本大震災を機に、船舶による輸送を開始

さらなるモーダルシフト化を進めるきっかけとなったのが、2011年(平成23年)の東日本大震災でした。当時、神奈川県川崎市にあった味の素社の物流センターも甚大な被害を受け、お客さまのもとに商品をお届けできない事態に陥ってしまったのです。

自然災害にも強い物流体制の構築を――。

こうした反省から、輸送路の分散化やさまざまな輸送手段を取り入れた複線化に着手。鉄道輸送の強化だけでなく、船舶による輸送が初めて導入されることとなりました。

隈元:鉄道輸送を増やすにあたって大変だったことは、31ft(フィート)コンテナの不足でした。モーダルシフト化を実現させるにあたり、国土交通省の補助金事業を活用し、新たなコンテナを購入しました。「せっかく購入したからには有効的に使おう」と、他社メーカーに共同輸送を提案。たとえば埼玉の工場から大阪の倉庫まで商品を運んだ帰りに、関西の他社工場で作られた商品を関東の倉庫に運ぶといった無駄のない輸送を実現させました。

船舶輸送は初めての試みだったため、経路構築にも苦労が尽きなかったと話す隈元さん。

隈元:当時、物流業務を担っていた「味の素物流株式会社」に任せきりにするのではなく、「味の素社」の担当者が、荷主として大手フェリー会社に直接交渉に行きました。とくに、輸送量の多い関東から関西を結ぶルートの輸送会社がなかなか決まらず、当時の担当者は苦労したとか。船舶は出航時間が決まっていたり、スピードが遅かったりするため、トラック輸送に比べるとリードタイムが長くなることから、社内の各部署との調整も必要でした。

輸送経路の複線化に尽力した結果、味の素社のモーダルシフト率は80%程度まで上昇しました。

2018年(平成30年) 豪雨災害をきっかけに新規の物流体制を構築

モーダルシフト化に拍車をかけるきっかけとなったのが、2018年(平成30年)に西日本で起こった豪雨災害です。各地で道路や鉄道が通行止めになったことで物流経路が見直されました。

また生産工場の再編による新規物流経路の構築が行われました。たとえば、名古屋から仙台まで、トラックを使って2段階で輸送していたものを、船舶で一気に輸送するルートを開拓。九州への輸送は太平洋経路だけでなく、日本海経由のルートも作り、リスク回避に努めました。

隈元:工場の再編の際には、あらかじめモーダルシフトを考慮した輸送経路を取り入れました。こうした取り組みによって、モーダルシフト率は85%程度まで上昇しました。以降も新しい物流経路の構築時にはモーダルシフトを考慮しています。

2022年(令和4年)12月 ダブル連結トラック輸送を開始

隈元:モーダルシフト化を進める上で船舶や鉄道による輸送は欠かせませんが、トラック輸送をゼロにすることはありません。トラックという輸送手段を残すことも複線化となり、リスクヘッジとなるからです。2022年(令和4年)12月からは「あえてトラック輸送を残すのであれば、少しでも効率的な輸送を実現させよう」という考えから、ダブル連結トラックの活用が始まりました。途中、コンテナの1つを切り離し、別の倉庫に向かうことで、トラックドライバーの数を減らすことができるほか、輸送の手間やCO2を削減することが可能です。

ダブル連結トラックの荷室容積は150㎥。大型トラック2.5台分もの容量を誇りますが、通常のトラックに比べて30%程度、CO2を削減することができるといいます。環境にもやさしいダブル連結トラックや鉄道輸送における他社との混載を積極的に採用するなど、継続的にモーダルシフトに取り組むことで、現在の500km以上の輸送距離におけるモーダルシフト率は90%以上を誇ります。

モーダルシフト化の課題と解決策

順調に見える味の素社のモーダルシフトの取り組みですが、モーダルシフトを進める上での課題は、まだまだあります。

<課題1>輸送リードタイムの適正化

隈元:船舶や鉄道は出発時間に制限があります。また船便は輸送スピードも遅いため、時間のフレキシブル性がありません。たとえば関東から関西まで運ぶ場合トラックのリードタイムは1日ですが、船便では2日要します。わたくしたち荷主側の視点で言えば、急な発注などの緊急対応時の遅れや在庫の増加が懸念されますが、輸送の安定化やCO2排出量の低減というメリットも大きいため、状況に合わせてバランスよく輸送方法を決めています。こういった意識を社内の関連部門と共有し、協力体制を築いていくことが今後も不可欠となります。

味の素社は、関連部門からの輸送リードタイムの適正化に対する理解と協力は得られやすい風土になってきているそう。他社の長距離のモーダルシフト率が50~60%と言われる中で、味の素社は90%という驚異的な数字を誇ります。

隈元:当社の社員は環境意識が高く、また震災や災害で物流がストップしてしまった痛い経験があるからこそ、モーダルシフト化によるルートの複線化にも理解が示されているのだと思います。

<課題2>輸送コストの見直しと物量の平準化

船舶は、港まではトラックで運ばなければならないこともあり、比較的短い輸送区間においてはコストが高くついてしまうという課題も。船舶や鉄道は輸送の最大量に比べて物量が少ない時があるため、積載率の向上も課題の一つとなっています。

隈元:積み込み作業の時間を軽減するという意味でも、商品のロットサイズを大きくするなどの改善が必要ですね。しかしこれは在庫量の増加につながるおそれもあるため、メリットとデメリットを考慮しながら関連部門とすり合わせていく必要があります。

<課題3>物流関連施設の拡充

また、物流センターから港や駅までの距離が遠いケースが多い。積み替えや駐車スペースなど、駅や港の物流関連施設の充実も今後の課題となっています。

<課題4>味の素社とFーLINE社のさらなる連携

持続可能な加工食品物流を構築するためには、荷主と物流会社の連携が不可欠です。

隈元:ここまでモーダルシフト化が進められたのは、FーLINE社との連携によるところが大きいですね。当社とFーLINE社が「持続可能な加工食品物流の構築」という同じ方向を目指してきた結果だと自負しています。

「FーLINE社」とは、「競争は商品で、物流は共同で」という理念のもとに、味の素社、ハウス食品グループ本社株式会社、カゴメ株式会社、株式会社日清製粉ウェルナ、日清オイリオグループ株式会社の5社が出資して誕生した物流会社で、現在も物流業界の状況や荷主の状況、問題点の明確化と課題解決に向けた着眼点出しを定期的に行い、ディスカッションを交わしています。

また、「FーLINEプロジェクト」と呼ばれる取り組みでは、参加企業によって長距離輸送・在庫移動の最適化の取り組みがスタートしています。ここでもライバル関係にある同業他社が手を組み、協力していこうという取り組みが広がっています。

物流企画部 隈元尚之氏

日々進化!味の素社はモーダルシフト先進企業へ

味の素社における、モーダルシフトとそのほかの取り組みについてもご紹介しましょう。

マルチモーダルサービスセンターとの連携

FーLINE社の組織のひとつである「マルチモーダルサービスセンター」は、味の素社がモーダルシフトを実現していく上でキーとなっている部門。気象情報や道路の状況を見ながら、中距離の輸送についてさまざまな輸送手段を提案する役割を担っています。

隈元:モーダルシフトのベースとなる輸送の計画を立てたり、トラックや船の手配をしてくれる部門です。たとえば、「台風が近いから早めに船や鉄道を押さえる必要がある」といったことを予測しながら輸送手段を迅速に手配してくれます。
また、モーダルシフトでCO2排出量の削減による環境負荷低減や乗務員不足などの物流問題の解決に向けて一緒になって進めている部門でもあります。

エコレールマーク、エコシップマークの取得

エコレールマークとは鉄道輸送を活用して環境保全に貢献している企業に与えられるもので、一定の基準を満たしていると取得することが可能です。一方、エコシップマークは船舶輸送を使って環境保全に貢献している企業に、与えられるマーク。どちらも鉄道および海洋輸送を通じて環境対策に貢献している企業の証です。

隈元:エコレールマークとエコシップマークの両方を取得している企業は、味の素社も含めてまだ12社しかありません。環境の対策に貢献しているという、大きな指標となっていることは間違いありません。

今後の展望

モーダルシフト率90%以上を誇る味の素社ですが、隈元さんは「数値にはとらわれすぎないようにしている」と話します。

隈元:先ほどもお伝えしましたが、トラック輸送を残すこともまた輸送の安定化につながると考えるからです。トラック、船舶、鉄道、どれか1つの手段に固執するのではなく、時代に応じた物流改革を進めていくことが大切。いろいろな輸送手段を組み合わせることで、環境に良く、効率も良く、安定的な物流をかなえることができるからです。我々の目標は、持続可能な加工食品物流の構築をしていくこと。モーダルシフトはその手段であると、強く意識しています。

味の素グループは、2030年度までに「環境負荷50%削減」のアウトカムを実現するため、これからも持続可能な物流体制を構築していきます。

隈元尚之

物流企画部物流基盤グループ
1998年より生産技術開発センターにて工場を中心にした情報システムのインフラ整備と業務改善などを担当。2006年味の素冷凍食品株式会社関東工場での製造ライン責任者を経て、2010年以降、食品生産技術、物流部門、事業部門にてグループの改善活動推進から物流ネットワーク改善・設計、物流コストマネジメントなどに携わる。
仕事では、具現化、自分の価値観を確認して業務と結びつけることを心がけています。
趣味のランニングは、食べることと同じくらい好きです。週末は、20代から70代までのメンバーと一緒にソフトボールを楽しんでいます。

2023年3月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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