活動レポート

フードテックってなに?味の素社の取り組むフードテック革命とは

“フードテック”と聞いて、まず何を思い浮かべますか?

「よく知らないなぁ…初めて聞いたかも」、「食べ物?テックってどういうこと?」、という方も多いのではないでしょうか。

フードテックとは、ここ数年、世界中の食品業界を中心に注目されている言葉です。最先端のIT分野を活用して、食の可能性を広げ、食を取り巻くさまざまな課題を解決するための取り組みのことです。

フードテックという言葉自体、まだまだ一般的には耳なじみがあまりないかもしれませんが、「フードテック革命」(日経BP社)という書籍によると、2025年には、世界で700兆円という超巨大市場に成長する分野といわれています。

そして、それは私たちの毎日の食卓や健康にも大きく関係しているのです。

そこで今回は、そんな「フードテック」についてご紹介するとともに、味の素社のフードテックへの取り組みについてご紹介しましょう。

そもそも「フードテック」ってなに?

「フードテック(FoodTech)」とは、「フード(Food)」×「テクノロジー(Technology)」から生まれた言葉です。

農業、漁業、食品製造、流通、保存、調理、配送など、食にかかわる多くの分野で多角的にテクノロジーを活用することで、食の可能性を広げ、かつ、さまざまな食の課題を解決しようという世界規模の取り組みのことです。

みなさんは、金融を最新のテクノロジーで進化させる「フィンテック(FinTech=Finance×Technology)」や、教育現場にテクノロジーを取り入れる「エドテック(EdTech=Education×Technology)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。いま、こうしたさまざまな分野でテクノロジーを融合させる取り組み、そして新たな言葉が生まれています。

このように既存の分野にテクノロジーを融合させることで、既存の課題を解決し、さらなる進化や広がりを生み出すことを「クロステック(x-Tech)」と呼びます。そしてもちろん、フードテックもその中の一つと言えるのです。

たとえば、ここ数年で多くの食品会社が参入している植物由来の代替肉製品や培養肉といった人工肉、少しずつ認知されつつある昆虫食は、食の可能性を広げる取り組みのひとつ。これらは、ベジタリアン・ヴィーガン食に限らず、アレルギーなどの疾患で食に制限がある方などの食生活を豊かにするための試みでもあります。

また、コロナ禍において利用する方が増えているアプリを使ったフードデリバリーや、スマートフォンで操作・管理が可能なスマート家電など、家電のICT化による調理の自動化なども、じつはフードテックの領域です 。

私たちの身近なことから世界規模の問題まで、さまざまな課題を解決するために、フードテックが重要な役割を担っているのです。

フードテックが目指す5つの課題解決と私たちの生活

では、具体的にフードテックが解決を目指す5つの課題と、それらがどのように私たちの生活に影響しているのかを見ていきましょう。

1. 人口増加による食糧不足

国際連合広報センター(UNIC)の発表では、2050年には世界の人口が現在の3割増にあたる、97億人に達すると予測されています。これによる食糧不足は、世界的に深刻な問題とされています。とくに畜産による食品生産は人口増加のスピードに追いついておらず、たんぱく質食品不足が懸念されているのです。

そこでフードテックの解決法として、人工肉や昆虫食といった代替食品の開発が活発化しています。少しずつスーパーマーケットでも人工肉を見かけるようになりましたが、今後ますます、食材の選択肢が増えていくでしょう。

2. 飢餓問題とフードロス

現在すでに食糧不足で飢餓に苦しむ国や地域があります。しかし、先進国では日々大量の食糧廃棄が繰り返されているのも事実です。

この「フードロス」は、日本でも大きな問題となっており、その廃棄量は年間約600万トン(農林水産省:平成30年度推計値)にも及んでいます。

この食糧バランスを世界規模で均等にしていくため、廃棄になりそうな食品と生活者をマッチさせるフードシェアリングをはじめ、さまざまな試みが行われています。また、食材の長期保存のためのテクノロジーも目覚ましい進化を遂げています。近い未来、各家庭でも廃棄を少なくすることができる長期保存が可能な食材や、保存システムが活用されるかもしれません。

3. 菜食主義

世界には、宗教上の理由だけでなく、健康に気遣って意識的にベジタリアンになる方や、ヴィーガン食を取り入れている方々がいます。こうした肉や魚などの動物性食品を避けた食生活をされている菜食主義の方々から注目されているのが、植物性たんぱく質を活用した人工肉。

以前は小規模だった人工肉市場も現在では多くの食品会社が参入し、日本でもフードテックの観点から"おいしい人工肉"の生産を競い合っています。菜食主義者ではない人にとっても人工肉という選択肢が「あたりまえ」になるような時代が、すぐそこまで来ているのです。

4. 食品の安全性

自分が食べる食品の安全性は、私たちにとってとても重要なことの一つです。とくに今、コロナ禍において、さらに注目度が高まっていると考えられます。

清潔で安全・安心であることはもちろん、食品の傷みを感知するツールや、長期保存ができる梱包材料の開発、異物混入の防止システムなど。フードテックの技術革新によって、食品の安全性の確保がますます期待され、普段の食事がもっと安心なものになり、食中毒などの心配も軽減されると考えられます。

5. 人材不足

農業や漁業などの第一次産業だけでなく、食品製造業や外食産業においても、人材不足が深刻な問題となっています。

フードテックでは、ロボットやAIの開発によって、作業の自動化をはかり、省人化や無人化を目指すことで、人材不足の解消につながる取り組みを急ピッチで進めています。これにより生産の効率化も期待でき、①の食糧不足の改善へも繋がると考えられます。

こうしたフードテックは、すでに私たちの生活の一部となりつつあります。フードロスの問題や安全性の見直し、新しい食の広がりなど、少し視点を変えるだけで、もっとフードテックを身近に感じることができるはずです。

今後、食の分野で最も問題視されている食糧不足、その大きな要因はたんぱく質不足です。つまり、将来的に人工肉は、菜食主義の方のためだけのものではなくなることでしょう。そのために今、フードテックが進化している欧米だけでなく、日本でも多くの大手食肉加工会社や大豆製品を扱う企業、外食産業が次々と参入し、本物の肉に近い食感や味を求めて研究を重ね、新たな代替食品を打ち出しているのです。

また、参入しているのは食品会社だけではありません。家電メーカーによる調理ロボットや、自動調理システムの開発も進んでいます。ロボット先進国でもある日本では、すでに食品工場や飲食店などで、実際に調理ロボットが活躍しています。近い将来、家庭でロボットが調理するシーンを、普通に見られるようになるのかもしれません。

"おいしさ"を追求してきた「味の素社のフードテック革命」とは?

「食と健康の課題解決」を目指している味の素社も、フードテックにおける取り組みを開始しています。すでにさまざまな取り組みを行っていますが、そのうちのいくつかをご紹介します。

アミノ酸を軸とした「おいしさ設計技術」

前項でもご紹介したように、ここ数年、大豆などの植物性たんぱく質原料とした「代替肉」が発売されており、その技術がフードテックの代表格といわれています。じつはその一部にはすでに味の素社の技術が活用されています。

味の素社はこれまで、アミノ酸の一種であるグルタミン酸の「うま味」にかかわる味覚だけに限らず、嗅覚、食感も含め、「おいしさ」をトータルで構成する重要な技術の蓄積を膨大に持っています。これを「おいしさ設計技術」と呼び、代替肉をはじめとしたさまざまなニーズと組み合わせたソリューションを生み出してきたのです。

これから新たに登場する「培養肉」など、食資源の課題解決のために生み出される食材の開発においても、味の素社の「おいしさ設計技術」がおおいに役立つと考えられています。

異業種やスタートアップとの協業で新たな価値を生み出す

味の素社は、食と健康の課題解決のために、自社だけで完結するのではなく、優れた取り組みを行っているフードテック企業やスタートアップベンチャーと対等に協業することが必要だと考えています。

ただおいしいものをつくり、販売するだけではなく、お客さまに「食を通じて感じる感動や印象」や「使い勝手も含めた体験」といったユーザーエクスペリエンス(UX)までをもお届けしたい。

そのために、2020年からスタートさせたのが「事業モデル変革タスクフォース」。これは、味の素社だけでは実現が難しい課題を他社と協力し合って解決しながら、よりお客さまにとって価値のあるモノづくりを実現していくためのプロジェクトチームです。

そのなかで2030年の社会課題解決や生活者ニーズを起点に、味の素社がどういう価値を創造すべきか、何が必要かを考え、事業を策定していく「未来創造プロジェクト(PoF:Picture of the Future)」という取り組みも進めています。フードテックを推進している方々とイノベーティブな事業モデルを作りながらアミノ酸の世界を拡張し、世界中の人たちの健康寿命を伸ばすことに貢献していきたいと考えています。

イスラエルのベンチャー企業とのパートナーシップで生まれた商品
2021年8月、味の素社は世界最小の葉野菜マンカイ(ウォルフィア)を主成分とする新商品「Mankai®[マンカイ]」を発売しました。

「Mankai®[マンカイ]」は、ビタミンやミネラル、食物繊維のほか、筋肉や血液などの素になる良質な植物性たんぱく質(プロテイン)など、60種類もの栄養素が詰まった次世代ベジタブルドリンク。
味の素社は2017年に葉野菜マンカイの開発に取り組むイスラエルのベンチャー企業ヒノマン社とパートナー契約を結び、日本における独占販売権を取得しました。

※Mankai®はHinoman Ltd.の登録商標です。

アミノ酸の知見を生かした「パーソナル栄養」という新たな取り組み、そして革命へ

味の素社は、2011年より、血液中のアミノ酸濃度バランスから、がんや脳卒中、心筋梗塞などさまざまな疾病リスクを1回の採血で評価する「アミノインデックス」に取り組んでいますが、加えて、認知機能低下のリスクを事前に防ぐ食生活の改善指導や、神経伝達物質のもととなるアミノ酸を提供するなどの「パーソナル栄養」というソリューションも打ち出しています。これにおいても、世界にターゲットを広げるため、テック企業と協力関係などによって、革新を図ろうとしています。

また、外部パートナーと連携する新しいビジネスへの取り組みや、社内ベンチャー制度を立ち上げ、新しい事業への挑戦も続けています。さらに、それらのプロジェクトをすばやく事業化できる仕組みとしてコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を立ち上げています。

味の素社のフードテックの取り組みは多岐に渡ります。食と健康、そして食を通じた幸福感というウェルビーイングを目指し、アミノ酸の研究をさらに進め、異業種のプレーヤーと積極的に協力し合うことでフードテックの課題解決力を大きく前進させ、革命を起こす力へとなっていくと考えています。

今回ご紹介した内容は、すでに実現しているものもありますが、まだ構想段階のものもあります。社会の潮流の変化などの影響を受け、将来的な形が変化していく可能性があります。しかしその根本にあるものは「食と健康の課題解決」。すべてはこのビジョンを実現するために味の素社はフードテックへの取り組みを強化していきます。

今後の味の素社のフードテックやDXに関する情報は、「味の素ストーリー」で紹介していく予定です。味の素グループの食と健康への取組みについて、ぜひご注目ください。

<用語集>

ヴィーガン食
ヴィーガン食とは、動物性由来食品を全て避ける「完全菜食」を呼称するものです。
ヴィーガン(Vegan)とは「完全菜食主義者」と訳され、肉類、魚介類、卵、牛乳、はちみつなどの動物性由来の食品を避け、野菜や植物性の食品しか口にしかしない主義を持った人たちのこと、またはその食生活を実践するライフスタイルを指します。近年では海外セレブがヴィーガンであることを公言するなど注目を集めており、世界的にヴィーガン製品の数も増えています。

ユーザーエクスペリエンス
ユーザーエクスペリエンス(UX: User eXperience)とは、商品やサービスなどを利用して得られる「ユーザーの体験」のことをいいます。商品やサービスはこれまで価格や性能、機能などによって購入されてきましたが、その商品やサービスを使用する体験が重要視されるようになってきました。この「ユーザーの体験」を最近では「ユーザーエクスペリエンス」という言葉で表現するようになっています。

コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)
コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC:Corporate Venture Capital)とは、投資が本業ではない事業会社が、自社の事業分野との相乗効果を生む可能性のある未上場のベンチャー企業に対して投資を行うことを指します。

2021年9月の情報をもとに掲載しています。