金賞を受賞したのは、タイ味の素社と味の素FDグリーン社の「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクト。うま味調味料「味の素®」の原料「キャッサバ」のサプライチェーンから、農業生産性の向上と農家の自立化支援をするという取り組みです。
いったいどのようなプロジェクトなのでしょうか。
2024年度のASVアワード金賞はタイ味の素社と味の素FDグリーン社が獲得!
ASVアワードとは、味の素グループのASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を体現した取り組みのうち特に秀逸な事例を表彰する制度です。

ASVを中核に据えた事業展開において、革新性・独創性のある事業活動を通じて社会価値と経済価値を共創した取り組みを表彰する「ASVアワード」。画像は2024年度(令和6年度)「ASVアワード授賞式」での中村社長のスピーチ
ASVアワードの対象は世界各国の味の素グループの従業員チーム。本賞は「ASVの自分ごと化」と従業員の能力開発を同期させ、個人と組織の共成長を促進する場として実施されています。
2024年度(令和6年度)の金賞を受賞したのは、タイ味の素社と味の素FDグリーン社の「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクト。授賞式には味の素FDグリーン社のソパ(Sopa Onnum)さんとタイ味の素社のドゥアンジャイ(Duangjai Maleekaew)さんが出席しました。

授賞式の様子。左から中村社長、ソパさん(味の素FDグリーン社)、ドゥアンジャイさん(タイ味の素社)
この「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトは、「タイのキャッサバ農家の幸福を実現するプロジェクト」と表現されます。
うま味調味料「味の素®」の主原料、タピオカスターチ生産の大切なパートナーであるキャッサバ農家が直面する高齢化や教育不足、キャッサバの伝染病、温室効果ガス排出などの解決に対して、従業員が自分ごととして取り組んだプロジェクトです。
タイ政府を動かし、学術機関とも連携するなど、そのアプローチの姿勢も金賞にふさわしいといえます。また今回は「従業員投票賞」との2冠に輝きました。
知ってるようで知らない?キャッサバとは
キャッサバ(Manihot esculenta Crantz)は、芋類の一種です。塊根や根の形はさつまいもに似ています。

キャッサバは、熱帯や亜熱帯地域で栽培されています。根、茎、葉のすべてが有効に利用できることから「無駄のない作物」とも呼ばれています。
ところで、キャッサバを知らないという人でも、タピオカについてはご存知の方が多いのではないでしょうか。
タピオカドリンクに含まれる粒状のタピオカパールは、キャッサバの芋から抽出したでんぷんを加工したタピオカスターチからつくられているんです。つまり、キャッサバは私たちにとって身近な作物だといえます。
キャッサバは、うま味調味料「味の素®」の原料としても利用されています。(くわしくは次の章でご紹介しています)
なぜタイのキャッサバ農家を支援する?
うま味調味料「味の素®」は、サトウキビやキャッサバ、トウモロコシなどの農作物を原料にしています。

原料と発酵菌をタンクに入れて混ぜ合わせ、発酵させることでアミノ酸を作り出します。その発酵液からアミノ酸を取り出し、調味料として使いやすい形にして「味の素®」などの製品をつくります。
キャッサバを原料とする場合、畑で収穫されたキャッサバは、でん粉工場で粉末状のタピオカスターチ(でん粉)に加工されます。タイ味の素社はそれを購入し、うま味調味料「味の素®」を生産します。


さらに、うま味調味料「味の素®」を生産する過程で発生する副生物(Co-Products・コプロ)を、味の素FDグリーン社を通じて農家に販売し、キャッサバ畑に栄養成分として利用していただくという持続可能な「バイオサイクル」の関係を築いています。

こちらの記事でもバイオサイクルやタイ味の素社、味の素FDグリーン社の取り組みを紹介しています。
タイでは都市化が進む中で、農家の高齢化・後継者不足が深刻な課題となっています。加えて、2018年(平成30年)から「キャッサバモザイク病」と呼ばれるウイルス病が蔓延し、キャッサバの収量の減少が続いています。
タイ国内で使用される約100万トンのタピオカスターチのうち、15〜20%をタイ味の素社が購入しており、キャッサバ農家の存在なくしては、タイ味の素社の事業は成り立ちません。さらに持続可能なバイオサイクルの実現も危ぶまれてしまいます。
「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトは、農家が抱える課題に解決策を提示することからスタートしました。
農家のWell-beingに貢献することが最優先
では、タイ味の素社と味の素FDグリーン社が行ったアプローチについてご紹介しましょう。
タイ味の素社の製造拠点と味の素FDグリーン社の拠点があるカンペンペット県はタイ有数の農業県であり、キャッサバの国内生産量が第2位。
この地を起点とし、タイ味の素社と味の素FDグリーン社は、タイ政府や国立大学と連携し、2020年(令和2年)からカンペンペット県のキャッサバ農家の課題解決に向けたさまざまな施策を展開しています。
1. キャッサバモザイク病対策
キャッサバモザイク病は、感染すると葉にモザイク状の白い斑点ができ、最終的には枯れてしまうウイルス病ですが、そもそも農家の皆さんが、キャッサバモザイク病についてよく知らないという問題もありました。
そこで、キャッサバモザイク病に関する理解を深め、目視での判別方法や対処法について教育を行っています。また、抗原抗体反応を用いた科学的な分析方法により感染状況を確認し、分析結果を農家の皆さんへ伝えています。
2. 栽培知識の基礎教育プログラム
タイの農村世帯は都市部の世帯よりも教育水準が低い傾向があり、とくに農業世帯は教育機会が限られているといわれています。
そこで、キャッサバ栽培における基礎知識や土壌診断の読み解き方などの教育プログラムを展開しています。講義だけではなく、ペーパーテストによる理解度確認や、その後のフォローアップにも力を入れています。教育プログラムに参加した農家の総数は8,000人を超えました(2025年3月)。

3. 無償の土壌診断
タイ王国・農業協同組合省土地開発局と共同で、カンペンペット県の農家を対象に無償で土壌診断を提供しています。必要な栄養成分、土壌改良剤の量、施肥時期をわかりやすく可視化し、レポートにまとめて提供しています。2025年(令和7年)3月時点で、累計8,000件以上の診断を行いました。

4. 新しい肥料の開発
タイ王国・農業協同組合省農業普及局から製造技術移管を受け、キャッサバの収量増、減肥を両立させる微生物資材「Amina」の販売を開始しました。
5. 健全なキャッサバの植え付け用茎の提供
タイ国立科学技術開発庁BIOTECとの共同で、キャッサバモザイク病に感染していない植え付け用の茎(健全な種茎)の提供を進めています。キャッサバモザイク病感染の有無は、植え付け用茎を栽培する畑での事前確認、およびLabでの分析により保証され、これまでに15,000本以上の健全な種茎が提供されました(2025年3月)。
「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトが生んだ成果とは?
タイ味の素社では、「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトの施策に参画いただく農家を「トライアル農家」と呼んでいます。2020年(令和2年)にプロジェクトを開始して以降、2025年(令和7年)3月現在、トライアル農家は約4,000農家に増加しています。
そして、キャッサバの収量は平均で30%以上、収入は1haあたり12,500バーツ以上に改善しました。
これらの成果により、行政から後押しをいただく機会や他県からの問い合わせなども増えてきたといいます。
さらに、トライアル農家で生産されたキャッサバを味の素FDグリーン社が直接購入し、タピオカスターチサプライヤーに販売する取り組みが開始され、新たな事業モデルも創出されました。2024年度(令和6年度)は15,000トン以上の販売実績となり、カンペンペット県の生産拠点で使用するタピオカスターチのうち5%以上がこのプロジェクトで生産されたものとなりました。
また、生産量が拡大することで、副生物の量も増え、バイオサイクルの推進が加速します。農家においてバイオサイクルによる有機肥料が多く使われるようになると、化学肥料の使用が抑えられ、化学肥料の製造に伴うGHG(温室効果ガス)排出量の削減へ貢献することにもつながっていくと考えています。
「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトによるキャッサバ農家への惜しみない支援が、社会課題の解決と、経済効果を生み出す成果として大きく注目されています。
「この受賞は、まだ始まりに過ぎません」
授賞式に出席したソパさん(味の素FDグリーン社)とドゥアンジャイさん(タイ味の素社)にコメントをいただきました。
受賞者コメント

味の素FDグリーン社のソパさん(左)と、タイ味の素社のドゥアンジャイさん(右)
ソパさん(味の素FDグリーン社):私たちが目指しているのは、農家と私たちの会社がWin-Winの状況になることを基にしています。いま、私たちはタイの農家を支援するために新製品を発売し、生産性を向上させる計画を立てています。農家のみなさんとともにどのようにビジネスを成長させるかも重要です。将来的には、キャッサバだけでなく、コーヒーなど味の素グループの企業が原料として使用する製品にも範囲を拡大していく予定です。
ドゥアンジャイさん(タイ味の素社):タイの農家は非常に高齢化しており、農業技術をうまく活用することに慣れていません。私たちは農家のみなさんに、新しい技術や知識を伝えることにも努めてきました。また、この課題を解決するため、大学や政府と連携し、多くのプロジェクト、多くの技術を農家に導入しようと努めました。これにより、農家はキャッサバの生産性を向上させることができました。
ソパさん(味の素FDグリーン社):今日の受賞のすべては、私たちのチーム全員の努力と献身によるものです。味の素グループだけでなく、外部機関やパートナー、皆さんが関わってくれたことで、このプロジェクトが成功しました。

プレゼンテーションで紹介された「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトのメンバー
ソパさん(味の素FDグリーン社):この受賞は、まだ始まりに過ぎません。私たちは継続的に発展し続ける必要があります。さまざまな環境変化に対応するため、絶え間ない発展が必要です。これにより、私たちは成長し、より良い未来を手にすることができます。
審査員コメント

夫馬賢治さん(株式会社ニューラル 代表取締役CEO):「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトは、長年、味の素グループ全体にとって大きな課題だった「持続可能なサプライチェーンを構築する」ということに大きな一歩を踏み出しました。サプライチェーンを持続可能にすることは、非常に長い旅路です。それはタイのビジネスだけでなく、味の素グループ全体に関わることです。いつか再び、さらに素晴らしいストーリーを聞かせてくれることを願っています。
「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトのメンバーに見覚えのある顔が......
先ほどご紹介した「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトのメンバーの写真の中央に、以前「ストーリー」で取材した人がいることを発見しました。

じつは、2022年度(令和4年度)のASVアワードでグローバルな連携でGHG(温室効果ガス)大幅削減を目指す「BRIDGE」プロジェクトで金賞を受賞した⽯川浩平さんは、2023年(令和5年)からはタイ味の素社に移り、味の素FDグリーン社の代表取締役を務めています。
就任前のインタビューでは、タイへの赴任を前に、
と語っていました。
石川さんのマネジメントポリシー「Work with Smile」で、このプロジェクトを見守ってきたのかもしれませんね。

2024年度(令和6年度)のASVアワードでは、財務部門の取り組みが「銀賞」と「バイオ&ファインケミカル事業本部長賞」をダブル受賞し、物流部門の取り組みが「食品事業本部長賞」を獲得しました。
金賞を受賞した「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトはもとより、アイルランド、シンガポール、フィリピンといった海外法人のプロジェクトが入賞を果たしました。
ASVアワードは、あらゆる部門、あらゆる国や地域の垣根を超えて、ASVの精神を具現化する取り組みを広く表彰していきます。
2026年2月の情報をもとに掲載しています。
MSGの製造過程で出た副産物を高機能・高付加価値の有機肥料や農業資材にするなど、うま味事業のサーキュラーエコノミーを進化させたいと考えています。タイではキャッサバ農家の生産性・所得拡大と環境負荷を低減する持続可能な農業を確立させることが、ASVの実現につながると思います。BRIDGEもこのサイクルの一環ですが、さらに進化する余地があるはずです。