味の素グループでは、従業員がパーパスを「自分ごと化」するためにさまざまな施策を行っています。そのなかでも今回はユニークなワークショップについてご紹介します。
カードを手に会場を駆け回り、対話を行うこのワークショップでは、会社のパーパスと自分のパーパスが重なる部分を見つけたり、その取り組みをシミュレーションしたりすることで、共創の重要さを学びながらさまざまな気づきを与えられるものだといいます。
いったい、どのようなワークショップなのか。企画した「Our Philosophy共感推進グループ(OPG)」のメンバーと開発に携わったプロジェクトデザイン社に狙いを聞きました。

筧 雅博味の素株式会社
人事部Our Philosophy共感推進グループ(OPG)長
「Our Philosophyチャレンジ」の開発にあたり、
プロジェクト全体の管理を担当。
各国の製造拠点での技術担当からCEOサポートまで、ユニークかつ多彩な経歴をもつ。味の素グループの幅広い事業も熟知しており、OPGの目標達成には、まさにうってつけの人物。マイパーパスは「周囲にポジティブな影響を届け、多様性を力に変える」。

Neupane Rajan(ネウパネ・ラザン)味の素株式会社
人事部Our Philosophy共感推進グループ
ネパール出身。おもに海外グループに向けた、
Our Philosophyの普及活動を担当。
国内営業から海外事業立ち上げサポートまで、経験をもつ。
困っている仲間に対して何とかしてあげたい気持ちが強く、マイパーパスは「新しい創造と挑戦を通して周りの人を助ける」。

出口 桂味の素株式会社
人事部Our Philosophy共感推進グループ
筧さんとともに「Our Philosophyチャレンジ」の
開発に携わる。
「挑戦文化」醸成に向けて、Teams Flagsという味の素グループ横断のプロジェクト活動にも参画し「失敗展」を企画・運営している。
マイパーパスは「変化に飛び込み、努力を積み重ね、自己成長と家族の幸せを最大限膨らまし最高の人生にする」。

福井 信英 氏株式会社プロジェクトデザイン 代表取締役
「Our Philosophyチャレンジ」の開発
およびディレクションを担当。
チーム連携でOur Philosophyを体感するワークショップ
味の素グループのOur Philosophyは、グループが大切にしてきた理念を体系化したものです。ピラミッドにたとえるなら、最上位にパーパスである「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」が位置し、その土台をASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)と、AGW(Ajinomoto Group Way)が支えています。

このOur Philosophyを従業員一人ひとりが理解し、共感できるようにと設立されたのが「Our Philosophy共感推進グループ(OPG)」です。
OPGは、味の素グループの全従業員約35,000人を対象にした「マイパーパス・ワークショップ」を企画・運営するほか、今回紹介するシミュレーション型ワークショップ「Our Philosophyチャレンジ」を開催しています。
出口さん
「Our Philosophyチャレンジ」は、AGW(Ajinomoto Group Way)、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)、Our PurposeというOur Philosophyの一連の流れを体感できるワークショップです。ワークショップ内で目標を達成するためにはチーム間の連携が欠かせません。自分のチームだけに意識が向いていると、ゴールがどんどん遠のいてしまう仕掛けです。
会場を駆け回り、対話を重ねることが目標達成のきっかけに
味の素グループの従業員が参加する「Our Philosophyチャレンジ」の最大の特徴は、カードを使ったロールプレイ型シミュレーションであること。部署単位で行う1回あたりの参加者は最大36名で、6名のチームにシャッフル。それぞれのチームには、味の素グループの各部門にちなんだ「調達」「コーポレート」「研究開発」「製造」「販売」「物流」という担当が割り振られます。

無作為にチームに分かれてリラックスした雰囲気でスタート
参加者はまず、チーム内でお互いのマイパーパスを語り合い、共有します。
それから各テーブルに配られている「社会課題カード」を読み、その課題を解決する技術「アミノサイエンス®カード」を組み合わせ「マネーカード」の投資によって社会課題を解決するプロジェクトの創出を試みます。
それらのカードの組み合わせが正しいと判定されればプロジェクトがスタート。他チームに協力を仰ぎながら「プロジェクト実行によりリターンを得る」というシミュレートを進めていきます。

それぞれのテーブルに配布された「社会課題カード」(手前)と「アミノサイエンス®カード」(奥)
必要なカードが手元にない場合は、ほかのチームに協力を求めても構いません。そのため、佳境に近づくと、カードや情報を求めて、参加者たちがわいわいと会場を行き来する展開に。一般的な社員研修ではまず見られない、にぎやかで活気のある光景です。

「社会課題カード」と「アミノサイエンス®カード」を組み合わせ、プロジェクト創造を判定してもらいます。これがなかなかクリアできず......

どうか、プロジェクトが実現できますように......

プロジェクトを創造できました!

この日、もっとも多くのプロジェクトを創造した「研究開発チーム」。もはや余裕のリアクション

チーム間の「競争」ではなく、自然と力を合わせる「共創」の取り組みが進んでいきました
出口さん
このワークショップは、プレーのあとに設けている約80分間の「振り返り」もポイントです。ワークショップ中に気づいたことをメンバーと共有し、各自で「問い」を立てる。参加者のなかには、ワークショップと実際の働き方がリンクしていることに気づく人もいるのではないでしょうか。

出口さんはプロジェクトデザイン社との窓口を担当
福井さん
そうですね。たとえば、目標達成のアイデアをひらめいたけど発言できない、とか。そこで現実の職場でも行動を起こせずにいる自分が見えてくるわけです。
筧さん
そこが大事ですよね。ほかのチームに協力をお願いしなきゃ、情報交換しなきゃと、参加者が自分で動くからこそ、腹落ちするわけで。

「部門」を超えて、プロジェクトを生み出す議論があちこちで交わされました
福井さん
大きな組織で働いていると「自分はいち従業員に過ぎない」と思いがちですよね。けれども、一人の考え方や行動がまわりの数人を動かして、その変化が部門全体、ひいては組織全体にも広がっていく。いま、人的資本経営が注目されていますけど、まさに人によって組織は変わるということ。だから、このワークショップを通じて「自分も組織を変えられる存在なんだ」と知ってもらうことが狙いの一つですね。

福井さんがOPGの意見を取りまとめ、ワークショップ開発をサポート
出口さん
だから、参加者にはワークショップの狙いや意図の詳細はあえて伏せるようにしています。こちらの"正解"に引きずられてしまうので、ネタばれは禁止。振り返りの時間で、自分なりの答えが見つからずにモヤモヤした人もいるかもしれません。でも、そのモヤモヤがパーパスを自分ごととしてとらえる第一歩になる。「このままでいいんだっけ?」と、参加者には健全な危機感を抱いていただきたいです。
筧さん
「Nice Swing!カード」もうまく機能しました。たとえ、プロジェクト創造に失敗しても「一歩前進」ととらえて、このカードがおくられるんです。まさに味の素グループが大切にしている姿勢です。

出口さんが提案した「Nice Swing!カード」。プロジェクト創造に失敗してもその挑戦をリスペクトするアイデアです

「石橋を叩きすぎる組織風土をワークショップで解消できれば」と、筧さん
福井さん
打席に立たないことには、成功もありませんからね。会場を駆け回って協力者を探すこと自体が、行動するきっかけになると思うんです。
人は「コスト」ではなく「宝」。競争力を左右する「人的資本経営」とは
人材=コストと考えられていた経営スタイルも、いまは昔。現在は、「人的資本経営」が競争力を左右する重要な要素として注目を集めています。
人的資本経営とは、会社の成長の源は「人」だと捉えて、しっかり投資していく経営のこと。学ぶ機会やスキルアップの場、挑戦できる環境などを整え、従業員が本来持っている力を引き出すことで、ひいては会社も成長する――。こうした人の好循環をつくることが人的資本経営の基本的な考え方です。
株式市場では、企業価値を判断する材料として、人的資本をはじめとする「非財務情報」の開示がますます重視されるようになってきました。さらに、「どんな人材戦略を描き、それをどう企業価値の向上につなげていくのか」というビジョンを示すことも求められています。
ワークショップで横のつながりを促し、「サイロ化の壁」を突破!
2016年(平成28年)、味の素社とともに「ASV」のワークショップ開発に携わっていた、プロジェクトデザイン社の福井さん。当時としても味の素社の取り組みは先進的で、大きな刺激を受けたと振り返ります。そして今回、「Our Philosophyチャレンジ」を手がけることに。もともと「パーパスの理解浸透」というテーマに関心があった福井さんは、二つ返事で引き受けました。
一方、OPGの筧さんは、味の素グループとしての中長期目標を達成するためにはOur Philosophyが従業員にしっかりと共有され、これを求心力として部門ごとの「サイロ化」を解消する必要があると考えていました。
ビジネス用語でいうサイロ化とは、部門ごとに業務や目標が細かく分かれ、ほかのチームの動きや役割が見えにくくなる状態のこと。サイロ化が進むと、味の素グループ全体最適視点でのASV推進がしにくくなります。部門間、チーム間のサイロ化をどのように解消するのか......。その答えの一つが「Our Philosophyチャレンジ」という仕掛けだったのです。
筧さん
Our Philosophyには社会課題解決への思いも込められています。しかし、グループ全体の足並みが揃っていなければ、課題に立ち向かうことはできません。「Our Philosophyチャレンジ」によって、横のつながりを促すことも狙いでした。

「Our Philosophyチャレンジ」では、参加者自身の工夫でシミュレーションの内容もどんどん進化していきます。この日も参加者の自発的なアクションによって6つの部門がまとまりを見せていく工夫が生まれました
ラザンさん
当初は「どんなワークショップになるのだろう」と、正直なところ想像がつきませんでした。グループとしても前例のない取り組みでしたからね。ただ、一回目のテストプレーを見て、「これはうまくいく!」と直感しました。海外のグループ企業でも、従業員によってOur Philosophyへの理解度にばらつきがあります。このワークショップは、そのギャップを埋める大きな役割を果たすと感じました。

「こんなワークショップが欲しかった!」と、ラザンさん
福井さん
いまでこそ、「社会課題の解決」と「経済価値」を両立させる経営スタイルは一般的になりつつありますが、味の素社はそのずっと前から実践してきた印象があります。
パーパスの浸透活動も事業の柱として追求している。ワークショップの開発を通じて、その「本気度」がさらに伝わってきましたよ。
普及のカギはアンバサダー、世界に広がる「Our Philosophyチャレンジ」
2025年(令和7年)10月に完成した「Our Philosophyチャレンジ」。草の根的に普及を進めた結果、完成から半年ほどで約500名の従業員が体験しました。プレー後のアンケートも好評で「Our Philosophyへの理解が深まった」「自分のチームがサイロ化していることに気づいた」といった前向きな意見が多く寄せられています。
ベトナムやインドネシアでワークショップを開催した筧さんによると「とくに海外法人の食いつきがいい」とのこと。実際、ラザンさんのもとにも「こういうワークショップを待っていた」という声が多く届いたとのこと。海外での開催にも意欲的で、2026年(令和8年)4月には、アメリカで100人規模のワークショップを実施する予定です。
そして「Our Philosophyチャレンジ」の普及を支える重要な存在が、各地域・各組織で展開を担うアンバサダーです。アンバサダーは、OPGだけでは手が届かないエリアと規模で、部門や役職を越えて活動。福井さんも、アンバサダーの活躍に期待を寄せています。

インドネシアでのワークショップの様子

インドネシアで開催した「Our Philosophyチャレンジ」
福井さん
ワークショップ体験者がアンバサダーに名乗りを上げるのが理想です。アンバサダーの働きかけによって、半年間で1,000名の体験者を生み出した企業もありますから、味の素グループ内でも一気に広がっていくのではないでしょうか。
出口さん
熱量って人から人へ伝播するものですからね。まわりに仲間が多いほど、ワークショップでの気づきや学びも持続されるはず。OPGとしてもアンバサダーの活動をしっかり推進していきたいです。

筧さん
うちは「手挙げ」でアンバサダーを募集しました。そのうちの一人が他部署にもかかわらず、ベトナムやタイでのワークショップに同行してくれて。現地の人たちを前にメインファシリテーターを務めました。じつは、彼にとって入社以来初めての海外出張で、さらに海外グループのオペレーションも視察できて、働くモチベーションが上がったと喜んでいましたよ。
パーパスを「言語化」して「実行」に移す!2つのワークショップの役割
ところで、OPGが「Our Philosophyチャレンジ」と並行して進めている「マイパーパス・ワークショップ」とは、どのようなワークショップなのでしょうか。じつは、この2つのワークショップは、それぞれ明確な役割を持って設計されているのです。
「マイパーパス・ワークショップ」は、参加者が自分自身のモチベーションや強み、価値観と向き合い、個人としてのパーパスを言語化することが目的です。ディスカッションを重ねて、自分のパーパスが味の素グループのパーパスとどのように重なっているのかを理解してもらいます。
一方の「Our Philosophyチャレンジ」は、そうして言語化されたパーパスを、実際の行動につなげるためのワークショップです。従業員一人ひとりの実行力を高め、Our Philosophyの土台となるAGW(Ajinomoto Group Way)の価値観(新しい価値の創造、開拓者精神、社会への貢献、人を大切にする)を、日々の業務や判断のなかで体現できるよう促します。
出口さん
それぞれのワークショップの役割は、中村社長が提言している「ちゃんと考えて、ちゃんと実行する」にちなんでいます。「ちゃんと実行する」を後押しするのが「Our Philosophyチャレンジ」の役目です。
福井さん
だから「Our Philosophyチャレンジ」は、行動がともなう設計にしたんです。会場を動き回って、周囲を巻き込んでいく。席に座っているだけでは何にも変わらない。現実ともリンクしていますよね。

やりすぎくらいがちょうどいい!「Nice Swing!」が連鎖する組織づくり
少しずつ普及しつつある「Our Philosophyチャレンジ」。グループ全体への展開を目指すOPGの3名は、どのような未来を描いているのでしょうか。
筧さん
失敗しようが成功しようが、まずは「Nice Swing!」してくれる従業員がもっと増えてほしいですね。ちょっとやりすぎだよ!と言われるくらいがちょうどいい(笑)。そんな人たちが組織にあふれていたら、新しい価値がどんどん生まれていくはずです。
ラザンさん
最近の海外法人を見ていると、従業員もOur Philosophyを理解したうえで、組織に貢献したいという人が増えているように感じます。また、味の素グループの事業や取り組みへの関心度も高まっています。そんなタイミングで「Our Philosophyチャレンジ」という重要なツールが完成しました。これをきっかけに、Our Philosophyが海外法人にもどんどん広がってほしいですね。

出口さん
組織は、期待値の1.2倍くらいの仕事を従業員に任せるものです。でも、それを自分の意思で1.2倍へと引き上げる「攻めた人」が増えれば、組織は大きく変わると思っています。ただ、目立つことをためらう空気があるのも事実。だからこそ、同じ思いを持つ仲間を見つけやすく、「やっていいんだ」と思える雰囲気をつくりたい。そのきっかけになるのが「Our Philosophyチャレンジ」であってほしいと思います。

「Our Philosophyチャレンジ」終了後の参加者。充実の笑顔であふれています
パーパスを「自分ごと化」することは、決して容易ではありません。従業員一人ひとりが、その重要性に自ら気づくとなれば、なおさら高いハードルがあります。そうしたなかで「Our Philosophyチャレンジ」は、参加者が自分自身のあり方を見つめ直すきっかけを提供してきました。個人のパーパスと組織のパーパスが重なったとき、その思いは行動へと変わり、組織を前へ進める大きな力となります。
味の素グループは、これからもOPGの活動を通じて、従業員一人ひとりがやりがいを持ち、挑戦し続けられる企業文化の醸成を目指していきます。

筧 雅博
味の素株式会社
人事部Our Philosophy共感推進グループ(OPG)リーダー
各国の製造拠点での技術担当からCEOサポートまで、ユニークかつ多彩な経歴をもつ。味の素グループの幅広い事業も熟知しており、OPGの目標達成には、まさにうってつけの人物。マイパーパスは「周囲にポジティブな影響を届け、多様性を力に変える」。
筧さんはこちらの記事にも登場しています

Neupane Rajan(ネウパネ・ラザン)
味の素株式会社
人事部Our Philosophy共感推進グループ
ネパール出身。おもに海外法人に向けた、Our Philosophyの共感推進活動を担当。
国内営業から海外事業立ち上げサポートまで、経験をもつ。
困っている仲間に対して何とかしてあげたい気持ちが強く、マイパーパスは「新しい創造と挑戦を通して周りの人を助ける」。
ラザンさんはこちらの記事にも登場しています

出口 桂
味の素株式会社
人事部Our Philosophy共感推進グループ
主に国内法人に向けた、Our Philosophyの共感推進活動を担当。
筧さんとともに「Our Philosophyチャレンジ」の開発に携わる。
「挑戦文化」醸成に向けて、Teams Flagsという味の素グループ横断のプロジェクト活動にも参画し「失敗展」を企画・運営している。
マイパーパスは「変化に飛び込み、努力を積み重ね、自己成長と家族の幸せを最大限膨らまし最高の人生にする」。
出口さんはこちらの記事にも登場しています

2026年4月の情報をもとに掲載しています。
Project Design【事例】知識としてではなく、自らの判断と行動の結果として理念を腹落ちさせる!「Our Philosophy チャレンジ」(味の素株式会社)