リサイクル(廃棄物の再生・再利用)・リユース(使用済みの製品の再利用)・リデュース(廃棄量の削減)を合わせて「3R」と呼び、積極的な取り組みがスタートしたのが2000年(平成12年)のことですから、もう20年以上経っています。政府や大企業から学校や個人まで、さまざまなレベルで3Rへの取り組みが続いています。
そんななか、味の素グループでは、「味の素®」の製造過程でできる副生物から、なんと野菜の肥料を生み出すという取り組みを行っているのです。
味の素株式会社サステナビリティ推進部・国田佳津彦さんにお話を聞きました。
アミノ酸生産過程で生まれた副生物も貴重な資源
「味の素®」のうま味のもとになっている、グルタミン酸などのアミノ酸は、サトウキビやキャッサバ、トウモロコシなどの農作物を原料にしています。 原料と発酵菌をタンクに入れて混ぜ合わせ、発酵させてアミノ酸を作り出します。この発酵液からアミノ酸を取り出し、さらに処理を加えて「味の素®」などの調味料を作るのです。
味の素グループでは、こうした方法で年間およそ70万トンの「味の素®」を生産しています。そして、その過程で生まれた発酵液などの副生物(Co-Products・コプロ)は、93%が液体、7%が固体として、およそ80万トンにのぼります。
国田さんは、このコプロを有効活用する研究を長年続けてきました。
国田:味の素グループでは、栽培した原料作物から「味の素®」を生産し、コプロ(発酵液などの副生物)を、再びサトウキビをはじめとする農作物の肥料として循環活用しています。
私たちはこれを「バイオサイクル」と呼んでいます。
味の素グループは、「味の素®」を製造する際に生まれるコプロも、農作物から生産された貴重な資源だと考えています。コプロは液体肥料や液体飼料などさまざまな形で活用し、味の素グループのアミノ酸発酵製造由来の副生物資源化率はほぼ100%を実現しています。
サトウキビの生育に好影響!タイで始まったバイオサイクル
では、味の素グループのバイオサイクルへの取り組みは、いつから始まったのでしょうか。
バイオサイクルの取り組みが始まるまで、コプロは産業廃棄物という位置づけで、廃棄処分していました。海洋投入や埋め立てなど、廃棄物を処理するために費用を負担していた時代です。
その状況が大きく変わったのが、1980年代のことです。1979年(昭和54年)に開催された、「第一回世界気候会議」では地球の気候変動に関する研究推進が提言され、1981年(昭和56年)には南極上空で世界初のオゾンホールが観測されるなど、世界的に環境保全に関する意識が高まり始めた時代でした。
国田:そんな環境意識の高まりを背景に、フィリピンではコプロの農業利用への取り組みが始まります。それまで費用を払って処理していた発酵液などの液体コプロを、農作物の肥料として有効活用できないか、という発想が生まれたのです。 この考えはインドネシアやブラジルなど他の国でも始まり、タイではコプロの販売を事業として行う現地法人「FD Green (Thailand) Co., Ltd.」が2001年に立ち上がります。
コプロ自体はもともと有機物を含み、畑の土づくりにおいて堆肥(たいひ)と同じ役割を果たす可能性がありました。有機肥料や堆肥は、土壌の微生物に栄養を与えることで結果的に良い土壌を育み、そこで育てられる植物への良い影響が期待されます。
国田:液体コプロにはアミノ酸をはじめとした栄養素が豊富に含まれており、かつて日本でもコプロを原料にした液体肥料を販売していたことがありました。この液体コプロをサトウキビ畑に散布してみたところ、生育に明らかな効果があることが改めて確認できたのです。
しかし、液体コプロはもともと廃棄物として処理していたもの。「廃液を畑に撒いている」というイメージでとらえられがちで、このイメージからどう脱却するかが大きなポイントになりました。
農作物の生育に、どれだけ効果があるかを地元の大学や研究所と共同研究して発表したり、10年以上かけて定点観測を行って悪影響がないことを実証したり、地道な努力が続きました。
国田:その結果、現在タイ、ベトナム、ブラジルなど、味の素グループの海外拠点では、液体コプロは農作物などに利用する液体肥料、畜産や養殖漁業に使う液体飼料などとして広く販売され、現地の農業生産向上に貢献しているのです。
日本では、味の素社九州事業所のプロジェクト「九州力作野菜®」があります。味の素社九州事業所では、アミノ酸生産過程から発生する液体コプロを活用して高品質の肥料を生産しています。この生産過程では液体コプロを乾燥させる必要がありますが、堆肥の発酵熱を活用することで、以前使用していた重油600キロリットルを削減。CO2の排出量を大きく削減することに成功しました。また、この肥料は環境負荷を軽減するだけでなく、農作物のアミノ酸含有量や糖度を高め、品質を向上させることから、生産された野菜は「九州力作野菜®」としてブランド化に成功しています。このプロジェクトは、2019年(令和元年)に、「第3回ジャパンSDGsアワード」・SDGs推進副本部長賞を受賞しました。
環境問題だけではなく、地域社会にも貢献するバイオサイクル
近年、欧米の先進企業が「再生可能な農業」への取り組みを始めていますが、味の素グループで、バイオサイクルの取り組みが始まっておよそ40年。味の素グループ内には、バイオサイクルを実現するための知識と経験、そして人材が蓄積されています。
- ①豊富な栄養素や有機物を含むコプロを、地元の農家に販売する
- ②農家はコプロを肥料としてサトウキビやキャッサバ、トウモロコシなどの農作物を育てる
- ③味の素グループがこれらの農作物を使って「味の素®」などのアミノ酸調味料を生産する
- ④その過程で生まれたコプロをまた地元の農家に販売する ......いわば原料作物とコプロの地産地消です。
このサイクルは環境にやさしいだけでなく、地域の農家に対し、経済的に貢献することにもつながっています。
味の素グループのバイオサイクルは、資源の有効活用に貢献するだけではなく、コプロの活用を通じて地域社会全体に大きなメリットを生んでいるんですね。
国田 佳津彦
サステナビリティ推進部 環境グループ
1991年入社。食品プロセス開発や発酵原料開発などの業務を経て1997年よりタイ味の素に赴任。
味の素の品質管理や副生物の有効利用を担当するとともに、農業法人「FDグリーンタイランド」の設立を担当。
2002年より味の素㈱に復職し、環境技術、有効利用技術の海外工場支援、国内農業事業の立ち上げを担当。
2015年より味の素ファインテクノ(株)に出向し、活性炭事業を管掌。2021年より現職。
地球環境の保全、改善に取り組むことは企業の使命だと信じています。
- 地球にやさしいアミノ酸発酵
2022年7月の情報をもとに掲載しています。