活動レポート

「多様な従業員」が生むイノベーションとは?味の素社の執行役が語る「DE&Iを推進する理由」

DE&I(Diversity Equity & Inclusion)という言葉が聞かれるようになって数年経ちます。しかし、DE&Iは何のために?あなたはどんな取り組みをしていますか?と聞かれると答えにくい……という人が多いのではないでしょうか? 

味の素グループでは2000年代からD&Iに取り組み、2023年(令和5年)にはDE&Iにアップデートして推進してきました。一方で、従業員が「DE&Iを自分ごと化しにくい」「どう取り組んでいいかわからない」などの声も聞かれます。

DE&Iを一過性の流行ではなく、企業文化として根づかせるにはどうしたらいいのか、味の素社執行役(ダイバーシティ・人財担当)の栢原紫野さん、Diversity・Equity& Inclusion推進グループの赤坂梨絵さん、グローバルコミュニケーション部の尾城淳一さんにお話をうかがいました。

DE&Iって何のこと?ーー多様性を認めるだけでなく "受容・包括"も大事なのだ

はじめにDE&Iとは何か、おさらいしておきましょう。

DE&Iとは、Diversity(ダイバーシティ/多様性)、Equity(エクイティ/公平性)、Inclusion(インクルージョン/受容・包括)の頭文字をとった言葉です。

企業においては「多様性」を「受容・包括」し、それぞれに「公平」な機会提供のもとで、すべての従業員が能力を最大限に発揮し、成長できる環境をつくる考え方です。

たとえば、性別や出身地や国籍などさまざまな属性の違いを大切にする「多様性」。そして、その「多様性」を尊重し、どんな人も仲間として受け入れ、ともに成長する環境を整える「包括性」。さらには、だれにも同じく公平なチャンスを与えるという「公平性」。この3点をセットにした取り組みをDE&Iといいます。

企業にとって、DE&Iを取り入れることが、個人と企業の成長や豊かさの実現に欠かせないものとして推進されるようになってきました。

味の素グループのDE&Iの取り組みは?ーー2008年からD&Iを推進。2023年にDE&Iにアップデート!

味の素グループは、2008年(平成20年)からDE&Iの前身である多様性推進に取り組み、2023年(令和5年)からはDE&Iに粛々と取り組んできました。

ストーリーにおいても、2024年(令和6年)に「DE&Iってなに?味の素グループの取り組みからわかるD&Iとの違いとは?」という記事を配信しています。

味の素社がDE&Iを推進するのはなぜ?「イノベーションは同質の塊からは生まれてこないからです」

日本の企業ではDE&Iはどれくらい認知され、実践されているのでしょうか?

味の素グループは2000年代からDE&Iに取り組んできただけに、課題もいち早く顕在化しています。それは従業員たちの「DE&Iの概念はわかるが、自分ごと化しにくい」という声に端的に現れています。

DE&Iの課題に向き合う、味の素社執行役(ダイバーシティ・人財担当)の栢原紫野さん、Diversity・Equity& Inclusion推進グループの赤坂梨絵さん、グローバルコミュニケーション部の尾城淳一さんの3名で座談会を行いました。

栢原 紫野
味の素株式会社
執行役
ダイバーシティ・人財担当

赤坂 梨絵
味の素株式会社
人事部
Diversity・Equity & Inclusion 推進グループ

尾城 淳一
味の素株式会社
グローバルコミュニケーション部
メディアグループ

ーーーはじめに、栢原さんがDE&Iに取り組んできた理由、その目指すところについてお話しください。

栢原さん

今振り返ると、という話になりますが、私は社会人になるずっと前から漠然と、人の不平等や不公平さを減らす仕事に携わりたいと思っていました。理由は私の生まれ育った環境にあります。

栢原さん

近所に障がいのある子が住んでいて、よく一緒に遊んでいました。親からは「〇〇ちゃんをいじめる子がいたら、あなたがちゃんと守るのよ」と言われて育ちました。障がいがあっても、ちょっと工夫すれば一緒に遊べるしケンカもできる。それが当たり前の環境で育ったのです。

ーーー障がいのある人との共生が、当たり前に身についていたのですね。社会人になってからはどうでしたか?

栢原さん

私は1990年代、いわゆる「総合職」という女性特有のカテゴリーで味の素社に入社しました。その時代はまだ、ジェンダー差が明確で、「これおかしいでしょ?」という思いを何度もしました。そこで初めて、私自身が「マイノリティ」になったと気づきました。

ーーー企業においては「女性」がマイノリティですか?

栢原さん

ええ。ただ、マネージャーや組織長などの役に就くと、マジョリティ側の気持ちもわかるようになるんです。すると、無意識にマジョリティに合わせようとする自分がいました。これも後で気づいたことですが......。本当に後輩社員に申し訳ない思いです。同質化したら、私がそこにいる意味がないですからね。

ーーーと言いますと?

栢原さん

同質の塊からはイノベーションは生まれないんですよね。それが味の素社が経営戦略としてDE&Iを掲げる大きな理由です。

味の素グループがイノベーションを続けていくためには、多様性が不可欠です。イノベーションは、新しい発想、新しい意見、新しい驚きは、さまざまな年代や国籍、地域、ジェンダーの違い、障がいの有無など異質なものと混ざり合ったところからポッと出てくる。特別な天才だけが生み出すものではないんです。

ーーーDE&Iを推進する上での課題を教えてください。

栢原さん

一番強く感じるのは、多くの従業員が「DE&Iを自分ごと化できていない」ことです。

従業員からよく「なぜDE&Iを経営戦略として推進するのか?」と聞かれます。DE&Iの概念は知っている、CEOがそれを経営戦略として打ち出していることも知っている。WHATは伝わっているが、WHYが伝わっていない。なのに、施策や制度ができてHOWがひとり歩きしているという状況です。

ーーーDE&I推進グループでは、味の素グループ従業員へ「DE&Iに関するヒアリング」※1を実施したそうですが、そこからどんなことが読み取れましたか?

※1「DE&Iに関するヒアリング」の概要
対象:味の素社の複数組織の従業員(組織長・管理職および一般職)約200名
目的:当社のDE&I推進に対する認識の確認、DE&Iを推進しやすくしていること、難しくしていることの生の声を集める


赤坂さん

「味の素社がDE&Iを推進している」認識を持ちながらも、「自分は何をすればいいか」という問いに詰まってしまう人が多い現実が見えてきました。

栢原さん

DE&I=女性活躍推進と思っている人が少なくない。たとえば、「家庭をもつ女性には〜」、工場では「工学部出身でない女性には〜」といったコメントが目立ちましたね。

赤坂さん

また、「女性の問題は女性が進めたほうがいい」「障がいのある人の課題は当事者が取り組めばいい」という回答もあり、総論としては賛成だけれどもどこか他人事にしてしまう傾向が見られました。

栢原さん

障がいのある方に対しては、「ケアしなければいけない人」と捉えている人がまだ多いという印象ですね。「車椅子を押して"あげなければいけない"から大変」みたいな。みなさん、ふだんは自分の仕事で忙しいわけですから、DE&Iってなんかタイヘンでメンドウと思われてしまう。WHYが伝わっていないことを痛感しました。

ーーーなぜWHYは伝わりにくいのでしょうか?

栢原さん

自分自身がマイノリティになった経験がないからではないでしょうか。私には障がいのある子と遊んできた原体験があり、会社に入ってからは女性というマイノリティに属してきました。マイノリティになった経験がないと、頭で理念はわかっていてもなかなか実感がもちにくいと思います。

ーーーそれに対して何が必要だとお考えですか?

栢原さん

自分と異なる他者、マイノリティの人たちと触れ合う経験、ともに働く機会を作ることです。もしかしたら自分は無意識にだれかを傷つけていたかもしれない、そんな気づきもあるかもしれません。

赤坂さん

「なぜDE&Iを経営戦略にしているのか?」「なぜ管理職の女性比率30%を目標にしているのか?」と聞かれた時に、明確に説明できるものが必要だと感じました。そこで職種や役職、国籍、性別などがさまざまなメンバー9名でワークショップを行い、社内向けのDE&Iステートメントを作成しました。押しつけがましくならないよう、映像化して味の素社の公式You Tubeチャンネルでも配信することにしました。

DE&Iってなに?の伝え方ーー「映像の力で言葉の力を引き出すDE&I動画をぜひご覧ください!」

味の素社は、「DE&Iとはなにか」を共有する際に拠り所になるツールを作成しました。従業員全員が共有できる「味の素グループにおけるDE&Iステートメント」という文書と、それを映像化した動画です。

ステートメント動画:味の素グループの「DE&I」~Grow Together 多様な『個』が創り出す、多様なイノベーション~

※English Version:「DE&I」 at AJINOMOTO GROUP ~Grow Together Diverse 'Individuals' Create Diverse Innovation~
https://youtu.be/uNdB7AgIq0w

ーーーこの映像を担当された尾城さんには聴覚障がいがあります。映像制作にあたり、DE&I推進に期するものが大きいと思いますが、いかがでしょうか。

尾城さん

DE&Iというテーマは、言葉だけでは伝わりにくいと感じています。感性をくすぐる視覚表現でサポートすることで、より心に響くメッセージにできると思います。グラデーションや線画など抽象的な映像を多用し、見る人の想像力が膨らむような表現をめざしました。

ーーー尾城さん自身、DE&Iの推進活動にどんな課題をお持ちですか?

尾城さん

関心の薄い人に、どうしたら興味を持ってもらえるかを常に考えています。真面目に説明するだけでは伝わりませんね。ユーモアを取り入れながら柔らかく伝えられる工夫をしています。

尾城さんとの対話は、チャットアプリを使いながら行いました。尾城さんは、味の素社内のコミュニケーションプラットフォームで、DE&I推進の取り組みを通して感じることや気づきを「OSHIRO'S EYE」という動画で積極的に配信しています。

味の素グループならではのDE&Iとは「味の素グループ全員の成長と部門や国境を超えた多様な視点の共創により推進するもの」

ーーー赤坂さんはどんな点に課題を感じていますか?

赤坂さん

DE&Iは「やらなければならないこと」と見られがちなところです。DE&Iはトップダウンで指示されたからやりますというものとは本質的に異なると思っています。

ーーー指示されてやるものではないということですか?

赤坂さん

そうです。差別は明らかに「してはいけないもの」ですが、DE&Iはその先を行くものです。自分とは異なる、多様な知や経験、属性を持つ人たちとお互いの違いをどう理解して、受け入れて、さらにどう協力して、どう新しいものを生み出していけるか。DE&Iは本来、取り組む従業員全員にとってワクワクする活動であってほしいと思います。

ーーーコンプライアンスとかハラスメント研修などは「やってはいけない」禁止事項の学習ですが、DE&Iは自発的な活動であると。

赤坂さん

私は味の素社にはそれができる文化が備わっていると思います。なぜなら、味の素グループの価値観=AGW(Ajinomoto Group Way)が支えになっているからです。

Ajinomoto Group Way

赤坂さん

AGWのひとつが「人を大切にする」ですが、これはDE&Iの基本でもあります。多様な従業員一人ひとりを大切にし、お互いを尊重する文化とマネジメントを通してイノベーションを創出することで、部門や国境を越えた新しい価値を創造し、世界に送り届けることができます。AGWのもうひとつ「社会への貢献」にもつながっていくのです。

ーーーDE&Iの概念は味の素グループの価値観に含まれているのですね。あらためて、味の素グループのDE&Iの特徴とは?

赤坂さん

現在、CSR文脈でどの企業にとってもDE&Iは無視できないものになってきています。当社はCSRだけで終わらせず、互いの違いを受容し、多様な「知と経験×属性」を融合し、チームとしての力を結集する組織開発によって、ASV※2につなげるDE&Iを推進しようとしています。

そして、CSR文脈の「公平性」の実現にとどめず、ASV文脈の経営戦略としてDE&Iを推進するためにはていねいな組織開発の視点と取り組みが重要だと考え、様々な仕掛けを投じ始めています。

※2ASV: ASVとは「Ajinomoto Group Creating Shared Value」の略。 CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)に由来しており、企業が自社の売上や利益を追求するだけでなく、自社の事業を通じて社会が抱える課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味します。


DE&I推進における2つの文脈

赤坂さん

多様性は単に多様な個人が同じ空間にいればいいのではなく、異なる意見も受け入れながら新しい価値を創造していくためにあります。当社のDE&I活動はASVの一環であり、パーパス「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」につながるものなのです。

味の素グループならではのDE&Iの定義

ーーー「味の素グループにおけるDE&Iステートメント」では、多様性を『知・経験×属性』と定義しています。

栢原さん

もっとも求められるものは知識と経験の多様性です。それが多様であればあるほど、イノベーションが生まれやすい環境になるからです。そこには、ジェンダーや国籍などの属性に起因する知識や経験も当然あるでしょう。つまり、属性が多様であるほど知識や経験も多様になり、イノベーションが生まれやすい環境が作られます。

ーーー味の素グループがD&IからDE&Iにアップデートしたのは2023年(令和5年)。それから2年ほど経ちました。Equity(公平性)が加わったことでどんな変化が起きていますか?

赤坂さん

単に多様な人が増えただけでなく、きちんと公平性が担保されていない点に対し、アクションが入るようになったことが大きいですね。

具体的には、キャリア採用で入社する方がすぐに個々の強みを活かして活躍いただくために何が必要かを検討するプロジェクトが、従業員の方の手挙げによってスタートした事例があります。

ーーー2025年(令和7年)の春、味の素グループでは社内でのDE&Iの取り組みを相互に発表し合い、学び合う「DE&I DAY2025」を開催。味の素社とグループ会社から有志130名以上が参加し、14の好事例が発表されました。

赤坂さん

組織を越えた交流が生まれ、学び合う機会になりました。DE&Iは女性や障がいのある人だけのテーマではなく、外国籍従業員とのコミュニケーションや組織開発の一助を担うサポーターとしての関わり方など幅広いテーマがあることを従業員の皆さんが再認識し、学び合う大きな好機となったと感じています。今後も部門や国境を越えた「DE&I推進」の連携事例を引き出していけるような仕掛けづくりに尽力したいと思います。

DE&I DAY2025にて、災害バンダナをつけたアジパンダ®

ーーー最後に、今後の活動への思いを聞かせてください。

栢原さん

私にとってDE&Iは、水に落ちた一滴の油のイメージです。水と油は混ざり合うことはありませんが、水面にファーッと波紋が広がっていきます。その広がりから何かが生まれてくるのです。味の素社はアミノサイエンス®をベースにさまざまなものを取り入れて発展してきました。DE&Iのイメージと重なるところがあるなと思っています。

赤坂さん

味の素社では、AGWがDE&Iそのものであり、ASVにつながっているので自分ごととして捉えられる人は多いはずだと期待しています。今は無関心な人も、いま自身が担当している業務の一部がじつはDE&Iを推進していた!と気づいていただけたら、共感してくれる可能性が高い!今後もトップダウンだけではなく、仲間を増やしてボトムアップの力でもパワフルにDE&Iを推進していきたいと思います。

尾城さん

先ほどご紹介したDE&Iの動画についても、国内だけでなく海外での受け止め方も検証し、今後もより楽しいメッセージを発信していきたいと考えています。どうぞご期待ください!

この取材の間も笑顔が絶えず、なんだか楽しそうなみなさんでした。DE&Iが進むとどんなイノベーションが生まれるのか。社内の雰囲気や働き方にどんな変化が生まれるのか?将来が気になります。味の素グループの活動に注目していきましょう。

味の素グループDE&Iステートメント ワーキングチームメンバー

(上段左から)人事部 砂田、赤坂、執行役(ダイバーシティ・人財担当)栢原、人事部 岡本、廣瀬
(下段左から)人事部 Rajan(ラザン)、齋藤、森永、野口

味の素グループDE&Iステートメント動画 ワーキングチームメンバー

(上段左から)グローバルコミュニケーション部 篠澤、人事部 赤坂、野口、グローバルコミュニケーション部 橋本
(下段左から)グローバルコミュニケーション部 蘆名、尾城、人事部 藤浪、齋藤

栢原 紫野

味の素株式会社
執行役 ダイバーシティ・人財担当

1990年4月入社。営業担当ののち味の素冷凍食品社や人事部、九州事業所(工場)での人事労務等ののち広報部長、九州支社長を経て2023年4月 執行役 ダイバーシティ・人財担当となり現在に至る。
趣味は散歩とアイスホッケー(最近はもっぱら観戦)。休日は散歩がてら夫とおいしいものを食べにいき、少しのお酒と共にリラックス&リセットしています。

赤坂 梨絵

味の素株式会社
人事部 Diversity・Equity & Inclusion 推進グループ マネージャー

2005年4月入社。食品研究所で調味料開発、商品をおいしく・使いやすくする技術開発に従事後、「ほんだし®」等のマーケティングを経て現職。「多様な人財の強み発見と融合」が日々のテーマ。
休日は美味しいものをたくさん食べ、子どもの部活の応援でパワーチャージしています。

尾城 淳一

味の素株式会社
グローバル・コミュニケーション部

2013年入社。Web、SNSなど、自社のデジタルコンテンツ関連に携わる。「自身の目で見て何を感じたか」をモットーとしており、日頃から足を使って情報を集めることを心がけている。
味の素グループのWorkplace(味の素グループ内でのSNS型コミュニケーションプラットフォーム)では、DE&I推進の取り組みを通して感じたことや気づきを自ら発信する「OSHIRO'S EYE」という動画を積極的に配信しています。

2026年2月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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