活動レポート

営業部門に求められるイノベーションとは?〜味の素社の社内表彰制度「Sales Innovation Awards」

従業員のモチベーションを高め、エンゲージメントの向上につながる施策として、近年、社内の表彰制度の重要性が増しています。単に“優秀な従業員”の表彰に終わらず、他の従業員にも良い影響が波及され、成功事例が社内で横展開されるように制度も進化しているようです。

味の素社では、2019年度(令和元年度)から営業部門に限った「Sales Innovation Awards」(SIA)が実施されています。そもそも営業部門のイノベーションとはどういったものなのでしょうか。そしてこの表彰制度は、どのような成果を生んでいるのでしょうか。「Sales Innovation Awards」を運営する営業戦略部を取材しました。

土屋 祥太郎
味の素株式会社 営業戦略部

大峠 暖
味の素株式会社 営業戦略部

食品メーカーの営業は何をしているのか?お客様の課題解決型営業が味の素社の強み

「営業」とひとくちに言ってもさまざまですが、そもそも食品メーカーの営業とはどんな仕事なのでしょうか?Sales Innovation Awards(以下SIAと表記)を運営する営業戦略部・土屋祥太郎さんにお話を伺いました。

ーーー味の素社の営業の仕事について教えてください。

土屋さん

味の素社の国内食品事業の営業部門は、家庭用と業務用の2つに分かれます。まず家庭用ですが、卸店様を通じて全国のスーパーマーケット、ドラッグストア、ディスカウントストアなどの小売店様に、家庭用商品の提案をさせていただきます。

土屋さん

味の素社は調味料や加工食品のカテゴリーで高いシェアをいただいていることもあり、各店舗のバイヤーからその商品カテゴリーの定番棚の商品配置をお任せいただくこともあります。その場合、商圏や商品ごとの販売実績などを分析した上で、どの商品をどの場所に並べるとそのお店にとってもっとも大きな売上につながるか、他社製品も含めて最適な配置をご提案させていただいています。

また、毎月の商談ではどの商品を特売にしてチラシに掲載するかや、中華フェアのような催事場での売り場作りもご提案させていただいています。

ーーー業務用のお仕事は?

土屋さん

業務用のお客様は、大きく外食・中食・加工に分かれます。「外食」は、大手レストランチェーン、ファストフード店から個人飲食店、病院や高齢者施設などを指します。「中食」はお弁当やお惣菜を量販店やコンビニエンスストアに納める事業者(ベンダー)などのことです。「加工」は加工食品、調味料、水練り(かまぼこなど)、菓子などのメーカーのことです。このように業務用のお客様は多岐にわたります。

ーーー幅広い業務用のお客様に対して、どういった営業活動をされているんですか?

土屋さん

味の素社の業務用営業の特徴は、ただ単に自社の商品を買っていただくだけではなく、お客様の課題やお悩みをしっかり伺い、それを解決するためお客様のバリューチェーン全体にアプローチさせていただく点であると考えています。

ーーー自社製品を売り込むだけではなく、課題解決のお手伝いまでとは驚きです。

土屋さん

はい。たとえば、「お米を炊いて時間が経つと硬くなったりパサつくのをどうにかしたい」という飲食店などのお客様に対して、「味の素KKお米ふっくら調理料」という商品をご提案しています。

土屋さん

この調味料を使用すると、炊き上げたときの保水性が高いため、お弁当やおにぎりにしたときに、時間がたってもおいしく食べられます。

私たちは「お客様から課題に感じていることを教えていただくこと」がスタートと考えています。

なぜ営業に限定した表彰制度が必要だったのか?営業部門のイノベーションを共有することの壁と意義

味の素グループは、2017年(平成29年)にパーパス実現に貢献するイノベーティブな取り組みを表彰する「ASVアワード」を開始しました。

ASVとは、Ajinomoto Group Creating Shared Valueを略した言葉です。味の素グループが、事業を通じて社会価値と企業の経済価値の共創に取り組むことを表します。
ASVアワードは、全社員を対象としてASVを体現したすぐれた取り組みに対して表彰する制度です。

これまでのASVアワードについては「味の素ストーリー」内の記事でもご紹介しています。

2023年度(令和5年度)

2022年度(令和4年度)

2021年度(令和3年度)

そして2019年(令和元年)、国内営業部門のイノベーションにつながる活動・取り組みを評価するSales Innovation Awards(SIA)が始まりました。ASVアワードとは別にSIAを創設した目的や成果を聞いてみましょう。

ーーーまず、SIAの創設の趣旨をお聞かせください。

土屋さん

SIAは国内営業部門のイノベーションにつながるすぐれた活動・取り組みを表彰する制度です。表彰によって評価し、営業部門全体に共有することで、より一層イノベーティブな活動の推進と成果の創出を図るとともに、国内営業に携わるあらゆるメンバーの成長支援を目的にしています。

ーーーASVアワードとは別に設定された理由は?

土屋さん

営業部門にはASVアワードでは拾いきれない各エリアでの好事例がたくさんあり、この好事例を埋もれさせてしまうのはもったいない、と思ったのがきっかけです。また、営業部門はお客様の機密情報を取り扱うことが多いため、社外にも公表されるASVアワードで取り上げられづらいというのも一因です。そのため営業部門における表彰制度が必要でした。

ーーーSIA以前は営業部門内の表彰制度はなかったのですか?

土屋さん

各支社単位で、すぐれた取り組みを表彰してきました。ただ、それだけでは優秀な好事例が他支社へ広がりにくく、従業員のモチベーションアップ効果も限定的であるという課題がありました。好事例を評価して表彰し、全国に共有することで、各拠点での横展開が促進されます。営業担当者の努力やチャレンジに報いると同時に、担当業務へのさらなるモチベーション向上につなげる仕組みが必要だと思っていました。

土屋さん

SIAの位置づけとして、営業部門ならではの高い難易度のテーマを設定し、果敢にチャレンジをして成果創出した取り組みや、先進的な働き方による生産性向上を実現するための工夫など、ほかの従業員の模範になりえる活動や成果を対象にしています。

Sales Innovation Awards(SIA)ベストプラクティス全国表彰制度

エントリー項目(いずれかに該当)

1)営業部門計画や支社目標につながるイノベーティブな活動でお客様への貢献度も高く、成果創出された取り組み

2)誰も挑んだことのない難易度の高いテーマに、果敢にチャレンジした取り組み

3)「先進的働き方」(生産性向上)を実現する取り組み

アワード

1)SIA賞

2)New Face賞(入社2年目までの社員対象)

3)業務改善・効率化賞

4)特別賞

ーーーところで、営業部門の"イノベーティブな取り組み"とは、どういうものでしょうか?

土屋さん

今は、いわゆるVUCAの時代。VUCA(ブーカ)とは、将来の予測が立てにくい、複雑で不確実な状態のことを言います。そんな現代は、お客様が抱える課題も多様化しています。

たとえば家庭用であれば、以前ならテレビCMの放映と合わせて商品を店頭で大々的に展開いただけたら売り上げは伸びました。しかし現代は、生活者のニーズが多様化し、それに応じたお客様(小売店)の戦略もさまざまで、ひとつのやり方では通用しません。

多様化する生活者のニーズに応えるだけではなく、生活者も気が付いていないニーズを掘り起こすような、これまでにない新しい価値を生み出す提案、すなわちイノベーティブな取り組みが求められています。

営業部門のイノベーションって何?SIA受賞案件を3件、特別に紹介します!

営業部門のイノベーションな取り組みについて具体的にご紹介します。SIA受賞案件は土屋さんが先述したように、BtoB特有の事情で一般公開されることは少ないのですが、今回特別に2024年度(令和6年度)の受賞案件を数件、紹介してもらいました。

グランプリ「全国に拠点を持つ流通企業での『味の素®』初採用&社会価値の創出」

土屋さん

SIAの最高賞がSIAグランプリです。
長年、歴代担当者が幾度となく挑戦し、「味の素®」の取引実績を築くことが難しかった全国に販売網をもつ大手流通企業に対し、全国各拠点の担当者が一致団結。イベントや勉強会などを開催し、「うま味」の正しい理解と味覚体験を通して「味の素®」の導入を推進しました。さらに、生活者とのダイレクトな交流によってファン層を拡大し、減塩という健康課題の解決にも貢献した点が高く評価されました。

SIA賞 北海道でのオリジナルスープ開発

土屋さん

味の素グループの資産を活用し、観光客に向けた魅力ある商品開発・提案を通じて、北海道の魅力を国内外に発信できたことが評価されました。アイデア発案からパッケージ開発、店頭展開まですべてに営業が関わったことも大きなチャレンジであると思います。

New Face賞 環境負荷削減に向けた難攻略企業との協業実現

土屋さん

入社2年目の営業担当者の受賞です。顧客企業に味の素社のMSG(グルタミン酸ナトリウム)採用で環境負荷低減が実現できることを訴求。サステナビリティ推進という新たな観点で、購買部(必要な生産に必要な原料・資材を購入する部署)を皮切りに、顧客企業の数多くの部署へのチャレンジングなアプローチが高く評価されました。

特別賞 モーダルシフト推進

土屋さん

営業と密接に関わるのが「物流」です。物流部門のイノベーティブな取り組みにも注目し、特別賞を設けました。

モーダルシフト(modal shift)とは、貨物の輸送をトラックなどの自動車から、環境負荷の低い鉄道や船舶に転換することを言います。地球温暖化対策およびドライバー不足や災害時のリスクへの対応など、物流におけるさまざまな課題への取り組みのひとつ。

こちらの記事でくわしく説明しています。

ーーーアワードは3部門ありますが、業務改善・効率化賞の趣旨を教えてください。

土屋さん

営業部門の内勤の従業員を意識しました。内勤業務は業績の数字には表れにくいのです。しかし働きやすい環境づくりや業務の効率化に内勤の仕事は欠かせません。そこにもしっかりスポットライトが当たるように「業務改善・効率化賞」を設けました。

ーーー国内の事例のみが対象でしょうか?

土屋さん

今年度から、表彰式の中で海外の事例も取り上げています。今回は表彰式にフィリピン味の素社のマネージャーが出席し、イノベーティブな取り組みを英語で発表してもらいました。

土屋さん

海外には、日本では得られない発想や視点がありますし、その成果から学べることも多いと思います。将来、海外で活躍したいという従業員も多いので、参考になればと考えています。

アワードの成果は?「グランプリを取ろう!」モチベーションが他支社にも、同期にも波及!

今年度で6回目を迎えたSIA。その成果はどのような形で見られるでしょうか?

昨年まで中国・四国地方で営業活動を行う組織に所属し、2024年度(令和6年度)SIAでグランプリ(「全国に拠点を持つ流通企業での『味の素®』初採用&社会価値の創出」)を受賞した大峠暖さん(現・営業戦略部)にSIAの成果について聞きました。

大峠さん

うま味調味料「味の素®」の取引実績がなかった大手流通企業A社さんに対して、全国の営業部門のA社担当者が連携し、一丸となって取り組みました。高い壁でしたが、それを乗り越えようと頑張れたのは「みんなでSIAグランプリを取ろう!」という共通の目標があったからでした。

大峠さん

グランプリ獲得のため、誰一人欠けることなく最後までやりきるという高い意欲を持ち続けることができたと感じています。

ーーー大峠さんご自身がSIAの効果を実感していらっしゃるわけですね。

大峠さん

はい。グランプリを受賞したことが全国のA社担当者にとってモチベーションになり、さらに団結力が高まりました。また2年連続受賞を目指して、今年度も「パルスイート®」の全国採用を通して、生活者の糖質オフという健康課題に貢献するというチャレンジングな取り組みを掲げています。

ーーーNew Face賞の「地域持続性に向けた難攻略企業との協業実現」の受賞者が入社2年目というのが驚きです。

土屋さん

入社1〜2年目でも大きな賞を獲得できることが、若手のモチベーション向上につながっています。味の素社は新人が営業部門に配属されることが多いのですが、「○○支社の若手がNew Face賞を受賞した」というニュースで他支社の若手も刺激を受けますし、営業部門でなくても「同期の○○さんが受賞した!」と聞いて、「よし、自分もがんばろう!」と励みになります。受賞者本人だけでなく営業組織全体が活性化する効果を感じています。

ーーー昨年までコロナ禍の影響でオンラインで行われてきた表彰式が、今年はリアル会場で開かれました。表彰式の様子を教えてください。

土屋さん

今年は味の素社のプレゼンルームに表彰用の舞台を設け、プロのカメラマンを入れて華やかな演出になるよう工夫しました。舞台でスピーチした受賞者からは、「緊張したが、達成感がひときわ感じられた」といった高揚感あるコメントが届きました。

ーーー副賞が「海外流通視察研修」というのも魅力的です。

土屋さん

営業部門最高峰のアワードですから、それにふさわしい副賞にしたいと考えました。じつはコロナ禍後、複数の若手営業担当者から「お客様がどんどん海外視察に行って最新の流通事情を仕入れてきている。自分たちも勉強しないとついていけない」という声が寄せられていました。それを踏まえて今回は海外流通視察研修を副賞にしたのです。

ーーー今後の展望をお聞かせください。

土屋さん

「SIAの表彰の舞台に立つ」ことが営業部門の従業員の目標になれるよう、アワード自体も成長させていきたいです。

大峠さん

私は2025年(令和7年)6月まで営業の仕事をしていたので、現場感を大事にしていきたいと思っています。惜しくも受賞できなかった人にとっても、SIAが成長の機会や学ぶ機会になり、来年度もまた目指したいと思える、そんないいサイクルが生まれるように運営していきたいと思います。

「SIAで受賞案件の『成果創出に至るプロセス』の可視化、『Key Success Factor(成功要因)』の言語化が進んでいます!」(土屋さん:左)「日々努力されるみなさんの成果を称える場でありたいと思います」(大峠さん:右)

従業員が一丸となって目指す賞。新人の登竜門のような賞。6回目を迎えたSIAは着実に効果を上げているようです。営業部門限定なだけに公開情報が限られており、より一層アワードの内容に興味がそそられます。来年度も期待しています。

土屋 祥太郎

味の素株式会社 営業戦略部
2006年入社。九州・川崎事業所で人事労務を担当後、九州支社で家庭用営業を担当。海外食品部、大阪支社家庭用スタッフを経て現職。現在は、国内営業全体の研修施策立案と実行、及び人事全般を担当。「若手が多数在籍する営業部門が思い切り力を発揮するには!?」が日々のテーマ。
休日は、家族がいる広島にほぼ毎週帰省し、子供の部活応援とゴルフ練習。

大峠 暖

味の素株式会社 営業戦略部
2021年入社。中四国支店で家庭用営業を4年間担当後、2025年7月より営業戦略部へ異動。国内営業部門の人財育成担当として、若手人財の階層別研修、工場見学や勉強会を通した自社製品の理解度強化研修、Sales Innovation Awards(SIA)等を運営。心がけていることは、営業時代の現場感を忘れず営業メンバーのお役に立つことです。
休日はプチ旅行や夫と近所にお出かけしてリフレッシュしています。

2025年10月の情報をもとに掲載しています。

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