研究開発

医薬品製造・開発を味の素グループが支える!執行理事に聞く「CDMO事業が世界から注目を集める理由」

CDMOという言葉をご存知ですか?製薬会社から委託を受けて医薬品の作り方の開発から生産まで行う事業のことです。

一般の方にはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。しかしCDMOは今、製薬会社のみならず世界の医療業界から注目される成長産業です。

このCDMO分野に、味の素グループはなんと30年以上も前に参入。現在では、味の素グループの次世代戦略事業の中でも重要な事業の一つに位置づけられています。

では、なぜ食品メーカーである味の素グループがCDMOに力を入れているのでしょうか?

味の素社の執行理事でありバイオファーマサービス部部長の大竹康之さんと、同じくバイオファーマサービス部事業開発グループの井上裕規さんへインタビューし、その可能性を探りました。

大竹康之味の素株式会社 執行理事
バイオファーマサービス部 部長
兼 フォージバイオロジクス社会長

井上裕規味の素株式会社
バイオファーマサービス部
事業開発グループ長

先端医療の創薬分野で存在感の高まる「CDMO」

はじめにCDMOについて説明しましょう。

CDMOはContract Development and Manufacturing Organizationの略称で、読み方はシーディーエムオーです。日本語では「医薬品開発製造受託機関」と訳されます。製薬会社から委託を受け、医薬品の製造工程の開発から治験薬の製造、さらに製品化した後、安定的に生産するまで一貫して担う事業です。

遺伝子治療薬や再生・細胞治療薬など、次世代医薬品の創薬と製造の難易度が高まる中、CDMOの必要性と存在感が高まっています。

CDMOは単なる製造の外注先ではありません。創薬の初期段階から製造工程の開発、商業化後も安定的に生産するサービスを提供します。それらの技術や設備を製薬会社が自前で整備するのがむずかしい時代、CDMOは創薬の一翼を担う存在になっているのです。

そのCDMO分野に、じつは味の素グループも30年以上も前から参入しています。

CDMOの背景や役割についてはこちらの記事でも紹介しています。



食品メーカーとして知られる味の素グループが、なぜ医薬品の開発や製造を請け負っているのでしょうか?

それは、味の素グループが長年培ってきた「アミノサイエンス®」が関係しています。

歴史を少し紐解くと、味の素社は、1956年(昭和31年)に世界で初めて、手術前後の患者さんに栄養補給をするアミノ酸輸液を製造・販売しました。それ以降、味の素社は「医療用アミノ酸分野で世界トップクラスのリーディングカンパニー」であり続けているのです。

アミノサイエンス®で培った技術を活かし、医療分野に参入した味の素グループは、1989年(平成元年)にベルギーのCDMO企業「オムニケム社」をグループ化し、本格的にCDMO事業を開始しました。先端医療に欠かせないCDMOは、現在、味の素グループの成長領域に位置づけられています。

味の素グループがCDMO分野に参入した理由とは?

前述したように、味の素グループがCDMOに参入した背景には、長年アミノ酸の研究を重ねてきた実績と技術的な優位性があります。

味の素社は、うま味調味料におけるアミノ酸の研究開発から始まった会社であり、アミノサイエンス®に関しては世界トップクラスの知識と技術を有します。その独自の技術と人財は、食品だけでなく、医薬品分野にも活かされてきました。

医薬品で使用される「ペプチド」はアミノ酸がいくつもつながった化合物です。また、次世代医薬品として注目される核酸医薬*1の「核酸」もアミノ酸合成と密接な関係のある物質です。

このように、味の素社のアミノ酸研究で培われた知見が、先端医薬の基盤技術となり、CDMO事業への参入へとつながったのです。

*1核酸医薬
核酸医薬とは、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)を薬効成分とする医薬品のこと。これまでの低分子医薬や抗体医薬が標的とすることができない疾患にも有効性が確認されており、標的や作用機序が明確で特異性も高いことから、副作用が少ない次世代の医薬品として期待されています。

世界トップクラスのアミノ酸技術が生かされるCDMO事業

大竹さん

一般的なCDMO企業には、製造工程の開発に力を入れる会社もあれば、製造規模の拡大を追求する会社もあります。独自の技術やノウハウを有する味の素グループは、単なる製薬会社からの製造受託ではなく「アミノサイエンス®を活用した技術サービス事業」を展開することができます。

具体的なサービスとして「AJIPHASE®」(アジフェーズ)「CORYNEX®」(コリネックス)「AJICAP®」(アジキャップ)があります。これらは製品名ではなく、さまざまな医薬品づくりに応用できる製造技術サービスの名称です。CDMOの技術ってアミノ酸と核酸の技術そのものなんですよ。

大竹さん

CDMO事業には味の素グループの他の事業とはまったく違う点が一つあります。それは自社製品を持たないということです。味の素グループの中でモノを売らない珍しい事業。それがアミノサイエンス®を活かしたCDMO事業なのです。

井上さん

味の素社はずっとアミノ酸の研究をしてきた会社ですもんね。

CDMO事業で注目される味の素グループの技術

味の素グループがCDMO事業で開発したサービスをご紹介します。いずれもアミノサイエンス®を活用した、さまざまな医薬品づくりに応用できる製造技術サービスです。

井上さん

先進的な医薬品にもアミノ酸は欠かせませんね。

大竹さん

そもそも私たちのカラダはアミノ酸でできていますから。

「AJIPHASE®」(アジフェーズ)

味の素社が独自開発した技術によるオリゴ核酸・ペプチドなど、次世代医薬品の原料となる物質の受託合成サービス。一般的な合成法と比べて、高品質な原薬を大量生産するのにすぐれています。ペプチドはアミノ酸が数個から数十個つながったもの。オリゴ核酸やPMO、PPMOは、たんぱく質の設計図である核酸に関わる物質。核酸医薬の主成分です。アミノサイエンス®の技術の応用から「AJIPHASE®」は生まれました。

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「CORYNEX®」(コリネックス)

味の素社が独自開発した技術による「コリネ菌」を活用したペプチド/たんぱく質受託製造サービス。コリネ菌は、うま味調味料「味の素®」や「ほんだし®」の原料であるグルタミン酸を生成する菌です。味の素社がコリネ菌に、高品質なグルタミン酸の安定的かつ効率的な生産能力を見出したのは1956年(昭和31年)のことです。

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「AJICAP®」(アジキャップ)

味の素社が独自開発した技術による抗体(ADC)の創出・製造サービス。抗がん剤を例に抗体の役目を説明しましょう。一般的な抗がん剤は、がん細胞と正常細胞を見分けられないため、副作用が大きいという課題があります。しかし抗体に抗がん剤を結合させると、狙ったがん細胞だけに効率よく抗がん剤を届けることができるようになります。「AJICAP®」は高い薬効と安全性を両立する抗体薬の可能性を広げます。

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アミノサイエンス®で医療分野に参入した味の素グループ。これまでもCDMO事業で、グループの成長と人々のWell-beingに貢献してきましたが、さらに、事業は遺伝子治療の領域へと広がりを見せています。

さらなる成長へ!遺伝子治療の領域に踏み出す味の素グループのCDMO

味の素グループのCDMO事業は今、最先端の遺伝子治療の領域に事業を広げています。それを可能にしたのが、2023年(令和5年)11月に実施した、米国オハイオ州のCDMO企業「Forge Biologics社(以下フォージ社)」の完全子会社化です。フォージ社は世界トップレベルの遺伝子治療薬の技術をもつ会社です。

フォージ社の外観(2024年10月2日開催 Forge Biologics社オンライン サイト説明会ビデオより)

2024年10月2日開催 Forge Biologics社 オンライン サイト説明会「Video1」

https://www.youtube.com/watch?v=6ZxCC6ddqrM

2024年10月2日開催 Forge Biologics社 オンライン サイト説明会「Video2」

https://www.youtube.com/watch?v=RtNGh7OqgPk

遺伝子治療は、世界から期待を集める先端医療の一つです。とくに全世界で約1万を数える希少疾患患者にとって大きな希望の光です。9割の希少疾患には有効な治療法がなく、そのうち遺伝子疾患が8割を占めているといわれます。現在、希少疾患の患者は世界に3億5千万人、そのうちの半数が子どもです。

味の素グループは遺伝子治療薬の製造の要になる「プラスミドDNA製造*2」と「培地*3」の分野で独自の製造・技術力を有しています。フォージ社の世界トップレベルの遺伝子治療薬の技術と掛け合わせることで大きなシナジー、つまり味の素グループのCDMO事業のさらなる成長が期待できることでしょう。

*2プラスミドDNA製造
プラスミドDNAとは細菌がもつ小さなDNAのこと。遺伝子治療薬をつくるときの"設計図"として使われます。その設計図を大量に安定的に製造する技術がプラスミドDNA製造です。

*3培地
培地とは細胞を培養する栄養液のこと。遺伝子治療薬やバイオ医薬品は細胞や微生物を使って製造するものが多く、それらを安定して増殖できる環境が必要になります。培地はアミノ酸、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルに成長因子などをバランス良く含んでいます。

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遺伝子・細胞治療薬の市場予想(下図)を見ると、2030年までに大幅な成長が予想されていることがわかります。

2023年(令和5年)の完全子会社化以降、フォージ社はすでに売り上げを3倍以上に拡大しています。さらに、フォージ社との協働に予想を超えた成果があったと大竹康之さんは話します。

大竹さん

味の素社の若手研究員で、遺伝子治療薬について研究したいというメンバーが続々と出てきました。アミノ酸の専門家である彼らが、遺伝子治療薬にも取り組みたいと言ってくれたことはうれしい想定外でした。

井上さん

先日も、フォージ社のメンバーと意見交換するR&Dデイの場に、味の素社の若手研究員が15名も参加しました。フォージ社と組んで新たな価値をつくり出したいというモチベーションが高まっています。新たなアミノサイエンス®が生まれる可能性もありますね。

「CDMOは味の素グループのパーパスに直結する」(大竹さん)

味の素グループのCDMO事業は、現在、味の素社の東海事業所、ベルギーのオムニケム社、大阪のジーンデザイン社、そしてフォージ社を拠点としてグローバルに展開しています。今後はこれらの拠点連携をさらに強化し、事業拡大を進めていく方針です。

今後のCDMO事業の展望を大竹さんは次のように話します。

大竹さん

バイオ医薬、再生医薬など先端医薬の創薬を先取りしつつ、当社独自のサービス「AJIPHASE®」「CORYNEX®」「AJICAP®」を組み合わせて事業展開していく計画です。

遺伝子治療薬では、その製造の要である「AAVベクター*4」製造と「プラスミドDNA」製造に高度なノウハウと専用設備が必要ですが、フォージ社と味の素社の連携で他社と差別化できる技術とノウハウが揃います。ここが大きな強みになるでしょう。

*4AAVベクター
AAVベクターとは、遺伝子を細胞に届けるための物質。「運び屋」と呼ばれる。遺伝子治療は異常のある細胞を正常な細胞と置き換えたり、不足している細胞を補うことで効果を見込みます。

大竹さん

味の素グループの2023年(令和5年)に発表された、中期ASV経営2030年ロードマップ「2030ロードマップ」が始まってから、すでにバイオファーマ事業の売り上げは2倍ほどに伸びていると言います。次の5年でさらに2倍に伸ばすという野心的な目標も掲げています。

また、現在はアメリカに拠点を置いて現地のフォージ社スタッフと活発にコミュニケーションをとる大竹さんは、CDMO事業に取り組む意義を次のように話しました。

大竹さん

医薬品の先には患者さんがいて、患者さんが元気になればその家族にも笑顔が生まれます。以前フォージ社で、希少疾患で動けなかったお子さんが、3か月後に歩いている映像を見たことがあるのですが、感動で胸が一杯になりました。患者さんの生きる希望につながっていく、本当にやりがいのある仕事です。

大竹さん

私たちのCDMOは味の素グループの志(パーパス)「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」に直結する事業であり、ASV*5そのものだと思っています。

*5ASV
ASVとは、Ajinomoto Group Creating Shared Valueを略した言葉です。 CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)に由来しており、企業が自社の売上や利益を追求するだけでなく、自社の事業を通じて社会が抱える課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味します。

ASVとは?味の素グループが推進する未来への取り組み

大竹さん

これからも味の素グループだからこそ提供できる価値、有形資産、無形資産を最大限活用することで経済価値、社会価値を高め、バイオファーマサービス部のみならず、味の素社のヘルスケア事業全体、さらには味の素グループの発展に貢献していきたいと考えています。

井上さん

将来的に、味の素社のAJIPHASE®、CORYNEX®、AJICAP®を医薬の世界の標準技術にするのが私の目標です。それから、医薬品業界の外の人にもCDMOの認知度を高めていきたいですね。食品事業とちがって店頭で手に取れるものではないのでなかなかむずかしいのですが、味の素グループ独自の技術で世界のWell-beingに貢献できるサービスを提供していることを、もっと知っていただきたいと思います。

味の素グループは食品事業だけでなく、アミノサイエンス®を軸とした半導体向け電子材料「ABF」や今回ご紹介したCDMO事業に関心が集まっています。

とくに先端医療の発展に貢献するCDMO事業が成長することで、味の素グループの経済価値と社会価値を生む。まさにパーパスに直結したASVそのものを体現した事業としておおいに期待されています。

CDMOは次世代の医薬品づくりの一翼を担う産業であり、そこに味の素グループのアミノサイエンス®の技術が存分に発揮されています。世界にはまだ医薬品のない疾患があり、多くの患者さんが創薬を心待ちにしています。味の素グループのCDMO事業に、大いに期待したいと思います。

大竹康之

味の素株式会社 執行理事
バイオファーマサービス部 部長
兼 フォージバイオロジクス社会長

1999年に味の素社に研究者として入社し、その後、ベルギーの味の素オムニケム社を経て、東海事業所のCDMO事業立ち上げに従事。2012年に本社に異動後にAJIPHASE®事業の立ち上げを行った。2021年1月よりバイオファーマサービス事業部長。
現在は米国のフォージ社と日本の味の素社を行き来する日々。趣味はゴルフ、家族との旅行、愛犬と遊ぶこと、など。

井上裕規

味の素株式会社
バイオファーマサービス部 事業開発グループ長

複数の製薬企業にて医薬品の研究開発、創薬プロジェクトの立ち上げや推進に携わったのち、2012年より味の素株式会社に入社。ヘルスケア、グリーン領域など多岐にわたる分野の新規事業開発、M&Aプロジェクトの推進、買収企業の運営などに携わったのちに現職。現在CDMO事業の事業開発、社内外のネットワークづくりに力を入れる。
きれい好きで毎日の掃除が日課 (何事も周りに押し付けないのが平和の秘訣)。家族と美味しいものを食べること、日帰りできるくらいの気軽な旅行が元気の素。

2026年6月の情報をもとに掲載しています。

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