ストーリー記事でも開発担当者の羽藤さんのインタビューを掲載しています。
ところで、昨今、ビジネスの現場では「DX(ディー・エックス)」というキーワードが浸透していますが、なんと、この「あえて、®」にもDXが活用されているそうなんです。
「冷凍宅配弁当」と「DX」。ちょっとイメージがつきませんが、どういうことなのでしょうか。
あらためて、「DX」とは?
DX(ディー・エックス)とは、「デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略です。デジタル技術によって、企業自身が変革することを指します。
従来の「IT化」が、ある業務をデジタル技術で代用することだったのに対して、DXは業務の仕組み、さらにビジネスの仕組みそのものをデジタル技術を使って変革していくという点が大きく異なります。
味の素グループは、DXの推進によってさまざまな成果を上げており、じつは、経済産業省と東京証券取引所及び独立行政法人情報処理推進機構が共同で選定する「DX銘柄2025」31社に選ばれ、DXの取り組みに対して高い評価をいただいています。
- 味の素㈱、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2025」に選定|ニュースルーム|味の素株式会社
- DXで味の素社はどう変わる?〜社会変革をリードする食品メーカーへ〜<味の素社のDX徹底解説 第2弾>
さまざまなDXの取り組みを行う味の素グループですが、今回紹介する「あえて、®」のDXは、デジタル技術を活用して「新事業モデルの創出や事業モデル変革」を目的とした取り組みといえます。
そして、この「あえて、®」のDXについては「ANPS(アンプス)」という味の素社独自の技術が活用されています。では、「ANPS」について紹介していきましょう。
「原材料表示」だけではわからない!本当の「栄養バランス」を可視化する仕組み「NPS」とは?
加工食品には、原材料の表示が義務付けられています。みなさんも購入する際の参考にしていることも多いのではないでしょうか。
日本では、食品表示法に基づき、すべての加工食品に原材料や添加物を明確に表示することが義務付けられています。これによって 添加物やアレルギーのもととなる原材料を使っていないかなどを確認することができます。
「栄養に関する表示」についても、加工食品や添加物に対して、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウムの量及び熱量は、必ず表示しなければなりません。
しかし欧米や東南アジア諸国では、栄養プロファイリングシステム(NPS:Nutrient Profiling System)という、食品に含まれる栄養成分の量を基に、食品の健康価値を科学的に評価する方法も導入されています。近年、人々の栄養改善のために、世界各国の政府や企業では独自のNPSの開発、導入が進み、社会的な関心も高まっています。
たとえば、フランスをはじめとした欧米で広く利用されている「Nutri-Score」は食品の栄養素を総合的に評価し、 AからEのアルファベットを食品の包装前面に表示しています。
Nutri-scoreが表示されたポーランド味の素社の商品 ※現在は販売されておりません
NPSは、「栄養価値に応じたアルゴリズムで食品を評価するシステム」です。食品パッケージに表示して、消費者の栄養に関する理解を助けたり、子ども向け食品の広告への規制や特定食品の課税が行われたり、教育効果として健康増進への取り組みを行うなど、国民の栄養状態をより良い方向へ導くためのツールとしても機能しています。
またNPSに関する教育を行うことで「栄養に関するリテラシーを高めるツール」としても活用できます。企業にとっては健康価値の高い製品を開発することが製品アピールにもつながり、健康に良い商品が市場に増えることになるというメリットがあります。
NPSは多角的に社会に良い効果を与えるシステムであり、健康寿命の延伸と健康格差の縮小へとつながる可能性を秘めています。
味の素グループ独自の「ANPS(アンプス)」とは?
一方、日本では、NPSはまだ法的に導入されていません。
しかし味の素社は「妥協なき栄養」を実現するためにNPSが必要不可欠なツールであると考え、2020年(令和2年)頃から独自の「The Ajinomoto Group Nutrient Profiling System:ANPS(アンプス)」の策定に取り組んでいます。
「ANPS」は、味の素社の食品研究所が開発した「食品中に含まれる栄養成分を科学的な根拠に基づいてスコアリングするシステム」です。栄養価値を高めた製品開発や食に関するサービスの提供に活用できます。
味の素は、DX技術によってNPSをさらに進化させ、使用目的を考慮し、製品の栄養価値が分かる「ANPS-Product(アンプス-プロダクト)」、食事一食の栄養バランスが見える「ANPS-Meal(アンプス-ミール)」、料理一品の栄養バランスが見える「ANPS-Dish(アンプス-ディッシュ)」という3種類のNPSを運用しています。
では、この3種類の「ANPS」について簡単に紹介しましょう。
①「ANPS-Product」~国際基準の加工食品の栄養評価
2020年(令和2年)、味の素社が最初に導入した「ANPS-Product(アンプス-プロダクト)」は、すべての味の素グループにおける共通指標としてグループ内の製品の栄養価値を評価し、栄養価値の高い新製品の開発や製品のリニューアルに活用されています。2025年現在日本を含めて13カ国16法人、16のグループ法人で活用しています。
「ANPS-Product」は国内外での使用を目的としているため、評価システムはNPSの1つであるHealth Star Rating(HSR)に準拠しています。
HSRはオーストラリアやニュージーランドで用いられ国際的にも確立している評価システムで、「過剰摂取に気をつける必要がある項目」と「摂取が推奨されている項目」を摂取可能な状態の商品100gあるいは100mlあたりで評価しています。
しかし、「ANPS-Product」の導入では解決できない課題が残っていました。HSRを始めとする海外の主要なNPSは、基本的に加工食品を対象にしており、調理済みの料理を正しく評価することが困難だということです。
そこで、日本の食文化や栄養課題を考慮した「調理済み料理」を評価するNPSを独自に設定することにしました。
②「ANPS-Meal」~食事の栄養評価
味の素社が独自に開発したNPSである「ANPS-Meal(アンプス-ミール)」は、「食事の栄養バランス」を評価するものです。
「ANPS-Meal」は、味の素グループが提唱する栄養へのアプローチ、「妥協なき栄養」で掲げる「おいしい減塩・たんぱく質の摂取推進・減糖・減脂・野菜摂取推進」などの取り組みを行う上で必要となる「複数の料理を組み合わせた食事の栄養バランスを評価するシステム」です。
「ANPS-Meal」は、日本初の食事用の栄養プロファイリングシステムであり、製品だけでなく、一食の食事の栄養面における課題を把握できるため、栄養バランスに必要な献立をつくることが可能となります。
「ANPS-Meal」は、料理用の「ANPS-Dish」と同じく、日本人の食文化や健康課題に着目した4つの評価項目(たんぱく質、野菜量、飽和脂肪酸、ナトリウム)を設定し、食事の栄養価を簡単にわかりやすく評価できる実用性の高い設計となっています。
③「ANPS-Dish」~料理一品の栄養評価
味の素社が独自に開発した「ANPS-Dish(アンプス-ディッシュ)」は料理一品の栄養バランスを評価するものです。「ANPS-Meal」と同じく日本国内の栄養課題に最適化して策定し、日本国内でのみ運用しています。
「ANPS-Dish」も「ANPS-Meal」と同じ4項目(たんぱく質、野菜量、飽和脂肪酸、ナトリウム)を設定しています。
「ANPS」を活用した味の素グループの新事業とは?
2025年(令和7年)時点で日本国内でのNPSや表示義務は実施されておらず、その方針に配慮して、味の素グループでは、製品パッケージなどに「ANPS」の評価表示などは行っていません。
しかし、「ANPS」を活用した新規事業やサービスはすでに開始しており、その成果はすでに皆さまに届いているのです。ここからは「ANPS」を活用した事例をご紹介します。
冷凍宅配弁当「あえて、®」
高血圧や肥満などの健康課題を抱えている人たちにとって「一食トータルでの栄養バランスと満足感」を満たすためには、一食あたりの「設計価値」も求められてくるでしょう。
味の素社では、2024年(令和6年)1月から冷凍宅配弁当「あえて、®」のインターネット販売を開始しました。
「あえて、®」はご飯もおかずも入っている一食完結型のミールです。「ANPS-Meal」の栄養評価によるスコアリングの技術が生かされており、開発当初から「ANPS」スコアの算出ロジックを把握したうえで、栄養コンセプトを設計しました。
開発後も、味の素社として「栄養バランス」を訴求できるエビデンスとして「ANPS」スコアを活用し、たんぱく質や野菜、食塩の含有量に配慮した栄養バランスの良い食事を開発しています。
さらに味の素グループが誇る「おいしさ設計技術®」が活かされ、画期的なおいしさを実現しています。
「ANPS」と「おいしさ設計技術®」に裏付けられ、バラエティに富んだまぜご飯におかずを組み合わせた51種のラインナップで展開。 多くのお客様にご好評をいただいております。
「あえて、®」は、おいしさも、栄養バランスも、売り方も、お客さまとのコミュニケーションもDXによって生まれたサービスといっても過言ではないでしょう。
10社以上の企業と連携する「ツジツマシアワセ」
味の素社では、食品会社を中心に参加企業を募り、料理一品や食事一食の評価が可能な「JANPS®(Japan Nutrient Profiling System)」※を使って、料理や食事を総合バランス型または特定栄養素訴求型として評価したツジツマシアワセマークを作成しました。
※JANPS®とは、ANPS-Dish/Mealのプロジェクトから発展した栄養評価手法
これら5つの基準を満たす料理や食事にツジツマシアワセマークを付与して、一般の皆さんに栄養バランスの良い食生活を実践いただく新しい手法として取り組んでいます。
たとえば、昨日はハンバーガーを食べたから野菜が足りない、では、次の食事で「野菜よし!」のマークのついたメニューを食べて、ツジツマをあわせるという考え方です。
ツジツマシアワセプロジェクトは味の素社独自の取り組みではなく、複数の大学や公的研究機関の先生方から科学的な知見をいただきながら、現在10社以上のメーカーと一緒に取り組んでいます。
※2025年9月現在
AI活用の献立提案webサービス「未来献立®」
さらに2024年(令和6年)にスタートした新しいサービスとして「未来献立®」があります。
「未来献立®」はサービス利用者の食の好みをAIが学習し、「JANPS®」による栄養バランスをかけあわせた献立を提供するという画期的なサービスです。
「ANPS」の可能性と今後の展望
味の素グループでは、未来に向けて「ANPS」の最適な栄養評価スコアリングシステムを活用し、栄養バランスの評価でもDXを活用した技術で製品開発やサービスを展開します。
味の素グループは、「ANPS」をさらに活用し、おいしさにも栄養にも妥協しない「食」を提案することで、グループで掲げている「妥協なき栄養」を追求し、2030年のアウトカム「10億人の健康寿命延伸」へ挑戦し続けます。
<記事監修>
中山 雄記
味の素株式会社 食品事業本部食品研究所
ウェルネスソリューション開発センター情報開発グループ
2023年中途入社。博士(理学)。食品研究所にて「味の素グループ栄養プロファイリングシステム(ANPS)」や長期的な事業貢献を見据えたテーマを担当。栄養だけでなく、おいしさ・食へのアクセス・地域や個人の食生活にも妥協しない「妥協なき栄養」の実現に少しでも貢献したいです。大学時代から栄養、特に肥満に関連した研究開発に携わり、40歳あたりからプログラミング言語を使ったデータ解析やDXによる業務効率化に取り組んでいます。
旅行で、各地の美術館に行くのが好きなのですが、自分では絵が描けないのでプログラミングで作図するのが大好きです。
神通 寛子
味の素株式会社 食品事業本部食品研究所
ウェルネスソリューション開発センター情報開発グループ
2009年入社。管理栄養士。研究所において「アミノインデックス技術」を用いたアミノ酸栄養状態の評価や、生活改善アドバイスの開発に従事。2023年より栄養プロファイリングシステムによる食事の栄養バランス評価の研究や、「未来献立®」「ツジツマシアワセ®」における栄養評価技術の開発支援を担当。
休日は子供と遊んだり、美味しいものを食べたり、岩盤浴でリフレッシュしたりして、楽しく過ごしています。
有馬 継士郎
味の素株式会社 食品事業本部食品研究所
ウェルネスソリューション開発センター情報開発グループ
2023年入社。食品研究所にて「味の素グループ栄養プロファイリングシステム(ANPS)」をはじめとした製品から食事全体にわたる栄養評価技術の開発と応用に従事。「いつまでも食を楽しめる」日常の支えになりたいとの想いで、生活者の皆さんの健康的な食事実践に役立つための技術を日々追究しています。「自分のやりたい想いを駆動力に、前向きに挑戦すること」「わくわくする感情を持つこと」を心掛けて、何事にも取り組んでいます。
プライベートでは体を動かすこと、美味しい食べ物とお酒と出会いながらワイワイしながら過ごすこと、時々辛い食べ物を楽しむことがリフレッシュになっています。
2025年9月の情報をもとに掲載しています。