活動レポート

Vol.3「阿部一二三」~アスリートに聞く!パリ2024オリンピックまでの道のりとこれから

味の素社では、日本代表選手団「TEAM JAPAN」の国際競技力の向上と、メダル獲得のための「食とアミノ酸」によるコンディショニングサポート活動「ビクトリープロジェクト®」を行っています。

パリ2024オリンピックに向けて、「ビクトリープロジェクト®」メンバーは、アスリートのサポート活動を行ってきました。そのサポート活動について、パリ大会に出場した阿部一二三選手(柔道男子66kg級)、Shigekix選手(ブレイキン男子)、髙市未来選手(柔道女子63kg級)の3人のアスリートへのインタビューを行いました。

この記事では、そのインタビューの第3弾として柔道男子66kg級で見事金メダルを獲得した阿部一二三選手にインタビューした内容を抜粋してお届けします。阿部選手をサポートした「ビクトリープロジェクト®」リーダー栗原秀文さんも登場し、サポートの取り組みについて語っていただきました。

一日単位だけでなく、時間単位での栄養サポート

阿部 一二三 氏パリ2024オリンピック出場種目:
柔道男子66kg級、混合団体

栗原 秀文「ビクトリープロジェクト®」
プロジェクトリーダー/サポートディレクター

パリ2024オリンピック柔道男子66kg級で、東京大会に続き見事に連覇を果たした阿部一二三(あべひふみ)選手。2021年より阿部一二三選手と妹の阿部詩(あべうた)選手への「ビクトリープロジェクト®」のサポートが始まりました。

2021年の東京2020オリンピックの代表を決めるワンマッチの前に、栄養面のレベルアップを目指したいという阿部選手の要望から二人の関係はスタート。阿部選手による栗原さんの第一印象は「アツい人」。当の栗原さんは「柔道のサポートは初めてだから、すごく緊張していた」といいつつ、次のようなことを考えていたそうです。

栗原さん

私がこれまでの経験で得たスキルはふたつ。ひとつはアスリートにとって大変重要な栄養素である「たんぱく質」と「炭水化物」を、どのタイミングでどういう風に摂取していくとコンディションがよくなるか、競技力が上がっていくかということです。これについては、一日単位だけでなく、時間単位でいろいろとハンドリングできます。

もうひとつは「体重とパフォーマンス」について。フィギュアスケートの羽生結弦選手のサポートをしっかりと行った経験から、どれくらいの食べ物を摂取すると、体重がどれくらいになって、パフォーマンスにどう繋がっていくか、影響が出るかを想定するスキルがあります。柔道は減量があるので、この2つのスキルがきっと活きるんじゃないかと思っていました。

アスリートのコンディショニングのサポートといっても競技ごと、選手ごとにアプローチは大きく異なるそうです。今回の取り組みについて具体的な内容をお二人に伺いました。

目に見えて成果が出るのが早かった

ーーー食事の摂り方についてですが、栗原さんとペアになってから減量の仕方は変わりましたか?

阿部選手

まあ変わりましたね。目に見えて成果が出るのも早かったし、ミーティングもたくさん行いました。どのタイミングでアミノ酸を摂ろうとか、これを飲もうというような相談をしながら擦り合わせていきました。食べるものは結構自分で決めています。きのこ類を食べたり、あとはキャベツとか白菜、ブロッコリーやトマト、ほうれん草など。どの野菜が僕の体に一番合っているのかをたくさん試しました。

たんぱく質の摂取量も相談しながら進めていきました。はじめは何カロリーくらいで減量していこうと。そのときはまだ形になっていないので、減量の終盤になってきて、これはすごくいい、これは合ってない、この食物繊維が僕には合っている。じゃあそれを中心に摂っていこうみたいにどんどんふたりで一緒に形にしていきました。

栗原さん

本人の出力が落ちない程度に、ちゃんと必要な栄養素を摂り続けようみたいなね。そこのすり合わせも大きかったですよね。

阿部選手

あとはトレーニングの量や練習量。これだけ練習しているからこれくらいは絶対食べようとか。だからひとりで減量するのとは全然違うなっていう感じでしたね。

具体的にこれまでと何が変わった?

ーーー栗原さんと出会う以前と以後で、減量体験は違っていたんですか。

阿部選手

違いますけど、以前の形も残してはいます。僕が学生の頃からついているトレーナーも「筋量を落とさずに脂肪だけを落とす」という減量の仕方をしていたからです。

でも、たとえばゼリーとかアミノ酸とか、ご飯の量をこれくらいにしようとか、野菜はこれを摂ろう、カルシウムを摂ろうというアプローチは全然違っていました。(以前は)試して試してみたいな感じで、ルーティンにはなっておらず全然確立されていなかった。そこが違う点です。

栗原さん

阿部選手のお父さまに過去の話を伺ったことがありました。以前は食事の摂り方が定まっていなかったので、減量のやり方によっては最終段階がゾンビみたいになって、話すエネルギーもないような感じで、目が落ちくぼんでいたとおっしゃっていたんです。

お手伝いするようになってからは、それが僕のひとつのベンチマークでした。減量しながらも健康的な表情、肌のツヤなどを保てるようにしました。減量の最終期は少しでも摂取をしながら最後の目標とする体重まで減らす、彼の最終期の健康を維持するという部分では、とてもいい取り組みになっていたと確信をもっていえますね。

ーーーパリ2024オリンピックの代表選考を見据えて、栄養の観点からの取り組みで何かバージョンアップしたことはありますか?

阿部選手

東京大会のときよりも減量を時間をかけてするようになったのと、食べる量が増えたと思います。減量しているけど摂取カロリーは増えたと思います。

栗原さん

あと減らしすぎないようにしたよね、途中でね。

阿部選手

減量中でも食べるのがしんどいくらいの量を摂るようにしていました。

たぶん実際のところ、2500キロカロリーも食べていないと思うんですよ。ラーメン一杯とかジャンキーなものを食べたら2500キロカロリーって楽勝で摂れるんですけど、減量中の2500って、油を摂らないようになるべくカットしているんです。油は50グラムくらいしか摂らないんですが、それって450キロカロリーにしかならない。だから2000キロカロリーくらいをお肉とご飯で食べないといけない。

栗原さん

野菜はほぼエネルギーがないですからね。

阿部選手

だから結構大変なんですよ。練習を一日二回することもあるので、食べる時間がないんですよね。間食、補食も食べるんですけど、練習前に補食で400とか500キロカロリーを入れると、身体が動かなくなるからバランスを取らないとダメだし、みたいな。減量の初期はそのカロリーを摂取するのが大変なくらい食べるようにしていました。

ーーー減量の時期が長くなった理由は?

阿部選手

やっぱり長めにとった方が、筋量を残して脂肪だけを落とせるからです。それでしっかり食べて減量できる。2カ月で10kg落とすのと1カ月で10キロ落とすのって、絶対1カ月の方が食べる量も少ないです。

2カ月でしっかり時間をかけて、しっかり食べて10kg落とすと筋量がしっかりと残って脂肪だけが削れていきます。だから長めにとるようにしています。

栗原さん

やっぱりこれからのことを考えると、当然パリで連覇ですけど、3連覇、4連覇ってことを視野に入れながら、その先を見据えた減量のプロセスも考えながら伝えていかなきゃいけないなと思っていました。そこの助走期間をしっかり取っていく、将来的にはそうなっていくんだよっていう話をしながら。

計量の日にメールで送られた「裸の写真」とは?

ーーー計量の日に阿部選手から栗原さんにお写真が送られてきたっていうのを聞いたんですが。

栗原さん

計量の日?ああ、あれはやばかったです。出来上がったっていうね、ホントに。

阿部選手

裸の写真ですよね。表にはちょっと出せないです(笑)。

ーーーいまもお写真撮られているんですね。

阿部選手

撮るんですよ。どれくらい仕上がっただろうかというのを確認します。今回は過去一ですね、絶対に。あの背中の写真、あれは試合の2週間前だったので、まあ、すごいですよね。

栗原さん

ツヤツヤだもんね。

阿部選手

いい状態ですよね。減量しているけど体に水分が残ってる状態。すごくいい状態だったんじゃないですかね。減量がいい方向に行っていると精神状態もいいですし。

ーーー栗原さんに送られたんですか、そのお写真は。

阿部選手

一応チェックみたいな感じで送るようにしています。どれくらい仕上がっているだろうかというチェックですね。

ーーー撮ったときは、手ごたえは感じたんですか。

阿部選手

いや常に感じていましたよ。2、3週間前から、正直、結構今回はヤバいなと思っていたんで。

栗原さん

いい意味でですよね。

阿部選手

仕上がってるなあって自分自身で思っていたので、手ごたえはありましたね。

ーーー栗原さんはそれをご覧になっていかがでしたか?

栗原さん

完璧だって思いました。僕が見ているのは肌ツヤと本人の表情ですよね。あとは付き人さんが稽古の最終調整をやっているときに、一二三君が出す出力がどのような感じなのかヒアリングをするんですけど、これは完璧だという印象を持ちましたね。

パリ2024大会までの3年間とこれから

ーーー決勝に至っても、やれることをやっての連覇だったようにお見受けしました。今回の連覇、金メダルに関してはこの栄養に関しての取り組みっていう切り口でいくと、どう感じますか。

阿部選手

この積み上げてきてからの3年。色々と試行錯誤しながらやってきてベースができた。たとえば炭水化物をこれだけ摂ってみようとか、このタイミングでこのサプリを飲むの辞めようとか、やってきたことがいろいろあるんですよ。その結果がすべて出た大会だったのかな。だからここから、さらにいろいろ変化していくところはあると思うけど、一旦、3年間の集大成だった。これまでの結果が全部出た試合だったかな。

ーーー改めてどうですかね、このパリへの道のり、阿部選手の成長。

栗原さん

そうですね、東京大会に向けた取り組みとそれ以降の両方の時期で見てきたのは、一二三君の本物のプロ意識です。これって決めたら絶対ブレない、その姿がこの3〜4年間を通じて、よりレベル感が上がっているっていうのをすごく感じましたね。

栗原さん

とくに今回、パリで彼が減量食を食べていたり、回復食を食べていたりするときに、次の日、そのまたさらに次の日、試合の日に自分がどうあるべきか、どういう状態でいたいから今はこれをこうするんだっていうのが、言わなくってもにじみ出てくるんですよね。

栗原さん

僕はその表情などを見ながら読み解いて、準備をしていく。そういう関係値は時間をかけなければ絶対にできなかった。

だからそういう意味では本当に、集大成って一二三君は言っていましたけど、そこまで持ってこれたということでは、ひとつの最終形、できあがりの姿がつくれたんじゃないかなと思います。

栗原さんが作成した分刻みのサポート設計書

ーーー栗原さん、試合当日の補食を小分けにして付箋に目的を書かれていて、そこに、一言メッセージも添えられていましたよね。阿部選手は試合ごとにご覧になっていたのでしょうか?

栗原さん

さっきちゃんと見てるって言ってたんですよ。そうなんだと思ってちょっとうれしかった。

阿部選手

いや気持ちが上がりますよ、やっぱり。用意されたものは絶対に飲むし、メッセージで気持ちが上がる。いつもうれしいなあって思っていますよね。

ーーー多少離れていても栗原さんのサポートの気持ちっていうのは、実感してると。

阿部選手

ありますね。補食を用意してもらっているので。そういう部分で負けられないなとも思いますよね。ああ、この用意してもらったサプリ、負けてしまったら飲めないなあという感覚にもなりますよね。これは準決勝前に飲むと書いてあると、準決勝の前に負けたらこれ飲まれへんなあみたいな。そういうプレッシャーとも戦っています。まあいいプレッシャーですけど。そういうことも思いながらやっています。

ーーー柔道家としてのこれからについて。ご自身がどうありたいと思っていますか?

阿部選手

3連覇はすごく難しいし、年齢も30代になってのオリンピック、すごく大変になると思います。でもなんだろうな、一日一日もそうですけど、僕が一試合ずつ一試合ずつ成長していければいいのかな。

阿部選手

柔道の技の部分も気持ちの部分もそうだし、食事という部分、減量という部分でまた新しい3連覇に向けてのスタートです。年齢を重ねるごとに、怪我のリスク、疲労回復、代謝が思うように上がらなくなってくることは絶対にある。そういう部分で試合を重ねるごとに成長していければいいかなって。ロス大会のときに「この形」というのをつくり上げて挑めればいいのかな。だからまた一からですよね。

阿部選手

いまも完成形はあります。でもそこからまた完成形に一からつけ足して、またロスで完成に持っていく。ですから、また次の減量も今回とは違うと思います。期間が空くから減量の仕方も全然変わってくるでしょう。そこは楽しみながらやっていきたいと思います。

阿部 一二三(あべひふみ)

パリ2024オリンピック出場種目:柔道男子66kg級、混合団体
1997年8月9日、兵庫県生まれ。パーク24所属。
背負投や袖釣込腰で一本を取る豪快な柔道が魅力。2014年「講道館杯」を史上初めて高校2年生で制した。世界選手権では2017年から2連覇を果たす。2020年12月、日本柔道では史上初となった1試合での代表内定決定戦を制し東京オリンピック代表に内定。東京2020オリンピックでは柔道男子66キロ級で金メダルを獲得し、史上初の夏季大会での兄妹同日金メダルを達成。パリ2024オリンピックでも同種目で金メダルを獲得し、個人二連覇。尊敬する野村忠宏氏を超えるオリンピック4連覇が目標。

栗原秀文

「ビクトリープロジェクト®」プロジェクトリーダー/サポートディレクター
1999年、味の素株式会社入社。名古屋支社にて家庭用の営業職に従事。2004年から「アミノバイタル®」部(現スポーツ&ヘルスニュートリション部)にて「アミノバイタル®」の開発・販売マーケティングと共に、「ビクトリープロジェクト®」を担当。2016年からは、プロジェクト専任に。阿部一二三選手、阿部詩選手、入江陵介さんをはじめ、数多くのアスリートたちをサポート。選手と本気でぶつかり、向き合い、現在の「ビクトリープロジェクト®」の基盤を作るとともに、進化させている。

※味の素㈱は、 TEAM JAPANゴールドパートナー(調味料、乾燥スープ、栄養補助食品、冷凍食品、コーヒー豆)です。

2024年12月の情報をもとに掲載しています。

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