活動レポート

TECHMAGIC社と味の素社が調理ロボットを開発!その実力やいかに!?

お客さんのリクエストに合わせて、おいしい料理をふるまうロボットシェフ。SF映画のような話ですが、あながち夢物語ではありません。2023年(令和5年)10月、とある外食チェーン店に炒め物に特化した炒め調理ロボット「I-Robo」が導入されたのです。

もともとはTECHMAGIC社と味の素社との共創によって生まれたロボットで、その根幹には味の素社の「おいしさ設計技術®」が活きています。しかし、完成に至るまでには並々ならぬ苦労があったようで……。

「非料理系男子」として味の素社「ストーリー」で連載コラムを執筆するライターのMさんが、TECHMAGIC社の代表取締役社長・白木裕士さんと味の素社ソリューション&イングリエンツ事業部の新規事業創造チームリーダー・豊泉俊一郎さんに開発秘話を伺いました。

白木 裕士 氏
TECHMAGIC社 代表取締役CEO

ボストンコンサルティンググループで通信・製造業を中心に、新規事業/グローバル戦略/組織改革など幅広いプロジェクトで活躍。デジタルトランスフォーメーションやAl・ロボットによる生産性改善に知見をもつ。また、大学時代に起業し、出資者に大きな利益をもたらした実績も。2018年TECHMAGIC社を創業。

豊泉 俊一郎
S&I事業部 新事業創造チーム
チームリーダー

2006年の入社から一貫して業務用調味料事業に従事。北関東エリア営業、業務用調味料プロダクトマネジャー、アカウント営業を経て、現在の新事業創造チームリーダーに。

炒め物ロボットが作るチャーハンのお味は......星5つです!

こんにちは。ライターのMです。今回は、編集部より「味の素社が関わった炒め調理ロボットの開発者にインタビューせよ!」との依頼を受けました。

聞けばそのロボットはチャーハンを上手に作るというではありませんか。チャーハンといえば、中華料理の定番ですが、自分で作るとなると話は別。お米がべちゃっとなったり、味つけにムラがあったりするビギナー泣かせの激ムズ料理です。おまけに、そのロボットはその他の炒め物もお手の物なのだとか。炒め物が水っぽくなりがちなぼくからすれば、信じられない調理テクです。

肝心の炒め調理ロボットは、都内店舗にテスト導入されているとのこと。お手並み拝見、というわけでさっそくお店へ。

注文からほどなくして、お目当てのチャーハンが到着しました。なんと、お皿にこんもりと盛られたチャーハンは、見事な"黄金色"です!

口に運んで2度びっくり! お米がしっとりとしていて、パラッパラです。味つけも絶妙で、単品で食べてよし、ラーメンのおともにもよし。主役にも名脇役にもなれる仕上がりで、熟練職人と同レベル。いやはや、おみそれしました!

TECHMAGIC社と味の素社が協業して炒め調理ロボットを開発

この炒め調理ロボットを開発したのは、2018年(平成30年)創業のベンチャー企業・TECHMAGIC社。TECHMAGIC社では、高度にハードウェアとソフトウェアを融合させた調理ロボット、業務ロボットを取り揃え、食産業の自動化、生産性向上などをサポートしています。

冒頭で紹介した炒め調理ロボット「I-Robo」は、炒め調理に特化しており、攪拌(かくはん)・加熱、さらにはフライパンの洗浄まで自動でこなしてくれるすぐれものです。自動調理においては、メニューに応じて、加熱温度、加熱時間、鍋の回転スピード、回転方向を柔軟かつ適切に調整できます。

じつは、この「I-Robo」の開発フェーズには、味の素社の「おいしさ設計技術®」が活かされていたのです。 "おいしさ"を評価・解析・配合・生産する独自技術がどのようなかたちで盛りこまれているのか――。プロジェクトのカギを握るTECHMAGIC社の白木裕士さんと味の素社の豊泉俊一郎さんにインタビューを行いました。

担当者の「食」への思いがTECHMAGIC社と味の素社の架け橋に

TECHMAGIC社代表取締役 CEO 白木裕士氏

ーーーそもそもの話になるのですが、白木さんはどのような思いがあってロボットの会社を立ち上げたのでしょうか?

白木

きっかけは、私の祖母です。料理好きだったので、私が祖母の家を訪れるといつも手料理をふるまってくれました。しかし、年を重ねるとともに足腰が弱くなり、調理もおぼつかなくなっていったんです。その光景を目の当たりにして「スマートフォンでかんたんに操作できる調理ロボットを開発できないか」と、思い立ちました。

会社を立ち上げるなかで、食産業が様々な課題を抱えていることも知りました。人材不足や長時間労働、フードロス......と、課題を挙げたらキリがありません。こうした現状を最新のテクノロジーを駆使して解決する。それが TECHMAGIC社の事業の柱になっています。

ーーーTECHMAGIC 社と味の素社が協業した経緯を教えてください。

豊泉

もともと、ベンチャー企業とのオープンイノベーションを目的とした「アクセラレータープログラム」 という社内企画があったんです。そこに TECHMAGIC社が採択され、私がカタリストという担当として付いたのが最初の出会いでした。そこで「I‐Robo」の初期検証を行い、S&I事業部新事業創造チームの協業に発展しました。

ーーー協業が決まったときの率直な感想を聞かせてください。

豊泉

業務用調味料事業に長く所属していたので、TECHMAGIC社の事業も手助けできるだろうと考えました。 また、白木さんが創業した経緯も他人事とは思えませんでした。というのも、うちの祖母も認知症を患い、料理ができなくなってしまったんです。それからというもの、祖父は火を使ったあたたかい食事を食べる機会が減ってしまい、大好きな揚げ物も食べられなくなり QOL(Quality Of Life:生活の質)が急激に下がってしまいました。こうした経験があったから、白木さんの言葉が胸に響きました。

白木

味の素社との協業は期待に満ちていました。当時は、茹で調理用ロボットの完成直後で、次のフェーズに踏み出そうというタイミング。そこで、炒め調理ロボットの開発に本腰を入れはじめたわけですが、炒め調理は茹で調理よりも高い技術が求められます。とくに食材と調味料の調和が肝になると考えていたので、あらゆる調味料を開発し、独自の技術を確立する味の素社は絶好のパートナーだったんです。

豊泉さんもとても頼れる存在で、あれこれ質問してもていねいに答えてくれました。何度もうちのオフィスに足を運んでくださり、もうTECHMAGIC社の社員なんじゃないかと思うくらい(笑)。

豊泉

白木さんたちの使命を支えたい一心だったんですよ。自分の老後のためにも、やり遂げたいっていう気持ちもあって(笑)。なぜなら、私が祖父と同じ状況に置かれたら、絶対に調理ロボットが欲しくなると思うからです。

S&I新事業創造 Tチームリーダー豊泉 俊一郎 氏

チャーハンの「壁」を乗り越えると、「おいしい」の本質が見えてきた

ーーー「I-Robo」が 20 種類以上の炒め物に対応していることに驚きました。

白木

味の素社が運営するレシピサイト「AJINOMOTO PARK」から人気上位をピックアップして、そこからさらに万人から好まれる料理を絞りこみました。味の素社の長年に渡る研究・分析があったからこそ、消費者のニーズを深掘りできたといってもいいでしょう。

ーーーレシピの再現がもっとも難しかった料理はなんでしょうか?

白木

チャーハンには苦戦させられましたね。

豊泉

そうですね。最初はお米がダマになったり、卵とお米がうまく混ざらなかったりしたんですよ。

白木

加熱する温度、攪拌するヘラの動き、鍋の回転動作、炒める時間など、クリアすべき要素が山積みでした。「I-Robo」は円柱型の鍋で食材を炒めるので、中華鍋やフライパンを用いた手法を丸ごとコピーするわけにもいきません。

豊泉

"おいしいチャーハン"の指標を設定するために、プロジェクトメンバーを連れ立って、有名店のチャーハンを食べ比べしたりもしましたね。

白木

豊泉さんの巻き込み力は、流石の一言でした。プロジェクトメンバーにとっては、人生でもっともチャーハンを食べた時期になったかと。

豊泉

「おいしさ設計技術®」をもとに比較検証しながら、理想の味に少しずつ近づけていきました。ただ、おいしく作る理屈がわかっても、ロボットが再現できなくては意味がありません。つまり「ものづくり」の話になってくるわけです。エンジニアの方々には、限られたスケジュールのなかでいろいろと無茶ぶりしたと思います。

ーーーまるで、一本のドラマになりそうなお話ですね。

豊泉

炒め物を"おいしく作る"と"効率よく作る"の両立が大きなテーマ。おいしく作れても調理に時間がかかるようでは実用化できません。逆もまた然り、です。とくに私は"おいしく作る"を妥協したくなかったので、エンジニアの方とは何度も意見のせめぎ合いがありました。

白木

今回の協業を通じて、TECHMAGIC 社は本当の意味で"おいしさ"と向き合えたのかもしれません。これまでは、自動化・省人化にとらわれ過ぎていた面があります。おいしい料理は、人々を感動させる力があり、ひいてはロボットへの信頼につながる。「世界のおいしいを、進化させる」をビジョンに掲げてはいますが、 豊泉さんの誠実な態度を見て、気が引き締まる思いでした。

調理ロボットが「食」のインフラになる日まで

ーーー豊泉さんは心境の変化はありましたか?

豊泉

改めて調理ロボットが秘めている可能性に気づかされました。「I-Robo」の料理は、私の想像を超えるクオリティ。ここまでのレベルに達するのかと、思わずうなってしまいました。

白木

いよいよ「I-Robo」の完成が見えてきた頃、外食チェーン店への導入が決まったんですよね。

豊泉

そうそう。あのときは、「I-Robo」の実力が社会から認められたようで、うれしかったですね

白木

さすがにそのまま導入というわけではなく、TECHMAGIC社とお店の担当者で試行錯誤しながら、半年がかりで味を再現したんですよ。全国にあるこの外食チェーン店の職人さんの調理の様子を動画に収め、鍋のふるい方や絶妙な火加減などを細かく検証し、調整しました。

豊泉

このとき私も、調理ロボットは今後ますます普及すると確信しました。ロボットの機能を最大限まで引き出せれば、きっと人間とも共存できるはず。

ーーー将来的には、ロボットが切り盛りする無人レストランもありえますか?

白木

それについては、山梨県甲府市にあるカフェでセルフ調理の実証実験をしました。お客さんが「I-Robo」に食材や調味料を投入して調理するスタイルですが、いずれ無人レストランに発展する可能性も十分考えられるでしょう。

ーーー最後にお二方の今後の展望を教えてください。

白木

いつの時代においても、テクノロジーは人々の幸せのためにあるべきです。「食」を取りまく環境には、多くの課題が横たわっていますが、私たちのロボットをきっかけにして幸せの輪が少しずつ広がっていくといいですね。目指すは、新たな「食」のインフラ化。実現するためにも、味の素社とは今後もいい関係を続けていきたいです。

豊泉

新たな「食」のインフラ化――、夢が広がりますね。私たちのノウハウや技術が社会のために役立つなら本望。これからも社外との共創を積極的に進めて、画期的な製品・サービスを世に送り出していきます。

調理が困難な人でも気軽に食事が楽しめる仕組みを――、そんな志のもとに動き出したプロジェクト。 その過程で企業の壁を超えた絆が築かれ、それぞれの強みを融合した炒め調理ロボットが誕生しました。

「I-Robo」は ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)から導き出された、ひとつの答え。「I-Robo」のお店での活躍ぶりを見ると「新たな食のインフラ化」が現実味を帯びてきます。ぜひ一度、「I-Robo」 の料理を味わって、"おいしい未来"を堪能してみてください!


世界でも評価された「i-Robo」

世界最大のテクノロジー展示会の一つである 2024 Consumer Electronics Show(以下「CES」)にて、「I-Robo」はそのすぐれたデザインと革新的な技術を評価され、Robotics 部門の「2024 Innovation Awards」を受賞しました!今後も「I-Robo」のさらなる躍進をご期待ください!

2024年5月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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