活動レポート

パラ水泳・鈴木孝幸選手と味の素社の新たな挑戦とは?
~パリ2024パラリンピック競技大会の先に見据えるもの

2024年(令和6年)5月、味の素社はパラ水泳のレジェンド、鈴木孝幸選手とパートナー契約を提携しました。

味の素社は、2016年(平成28年)から日本パラ水泳連盟のオフィシャルパートナーを務めており、パラアスリートの競技力向上に貢献してきました。


この度パートナー契約を結んだ鈴木選手は、2024年(令和6年)8月から開幕するパリ2024パラリンピック競技大会に出場。6度目のパラリンピック挑戦を間近に控えた2024年7月に鈴木選手と味の素社 蘆名真平さんにお話を伺いました。

鈴木 孝幸 氏パリ2024パラリンピック競技大会 水泳 日本代表選手 
国際パラリンピック委員会(IPC)アスリート評議員

アテネから5大会連続でパラリンピックに出場。東京2020大会では金メダル1個、銀メダル2個、銅メダル2個を獲得。翌年、日本人初のIPC選手委員に選出。同年紫綬褒章を受賞。スポーツアパレルメーカーの(株)ゴールドウイン所属。

蘆名 真平コーポレート本部 グローバルコミュニケーション部 
スポーツ栄養推進グループ マネージャー

2023年より「ビクトリープロジェクト®」パラリンピック担当に着任。アスリートたちへの支援を通じ、「誰もが活き活きと、″自分らしく″輝ける社会」を目指す。

パラリンピック6大会連続出場! パラ水泳界のレジェンド、鈴木孝幸選手とは?

6大会連続のパラリンピック出場となる鈴木孝幸選手。6歳から水泳をはじめ、15歳から本格的な競技の世界へ。その2年後、2004年(平成16年)開催のアテネパラリンピックに出場。4×50mメドレーリレーで銀メダルを獲得しました。以来、北京・ロンドン・リオ・東京と、5大会連続でパラリンピックに出場し、金メダルを含めた10個のメダルを獲得しました。

鈴木選手は生まれたときから両足と右手、左手の指に障がいがあり、大会では身体の機能に関する障がい10クラスのうち4番目に障がいが重いクラスに属しています。

パリ2024パラリンピック競技大会前に、味の素社とのパートナー契約が決定。味の素社は食品や栄養補助食品などの提供を通じて栄養サポート活動を行い、鈴木選手の競技活動をバックアップしていきます。

鈴木孝幸選手のおもな戦歴はこちら

鈴木孝幸選手と味の素社がパートナー契約した理由とは?

ーーー鈴木選手と味の素社がパートナー契約を結んだ経緯を教えてください。

鈴木

パートナー契約は私からの提案です。味の素社から連盟に提供されるサプリメントなどの味の素社製品は競技にも役立っていましたし、私生活でも活用していました。話を持ちかけたのは、杭州2022アジアパラ競技大会のときでした。個人的な競技面のサポートだけではなく、引退後の活動も後押ししていただけたらうれしいな、というのが最初の思いでした。

鈴木

とくにイギリスに住んでいた8年間はなかなか日本食が手に入らなくて、栄養が偏りがちで課題を感じることが多かったですね。だからこそ、栄養面で選手をサポートしている味の素社とはいい関係が築けるのではないかと考えました。

蘆名

私を含めた当社側のスタッフは実際に練習会場や大会に足を運んで、パラアスリートの方々と過ごし、さまざまな意見を交わします。みなフレンドリーでざっくばらんに話せる雰囲気があり、鈴木選手とも交流を重ねているうちに、今回のような話の流れになったんですよね。

鈴木

味の素社が続けている食と健康の課題解決の取り組みに関心があったことも影響しています。

蘆名

鈴木選手が在籍しているゴールドウイン社もサステナビリティを追求しているので、味の素社とも波長があっているのではないでしょうか。何かを一緒に取り組む際に、両社の志が合致しているかどうかというのは、とても重要なことだと思っています。

パラ水泳のレジェンドが最前線で活躍しつづけられる理由とは

ーーー東京大会の直後は、今後の進退を「未定」だとおっしゃっていました。にもかかわらず、パリ大会への出場を決めた理由を教えてください。

鈴木

まだ自身の身体が限界に達していないと考えたからです。一時期、肩の調子が思わしくなかったのですが、泳法やトレーニングなどを見直すことでだいぶ改善されてきました。タイムも上がっているし、この調子ならまだまだ第一線で戦えます。

蘆名

「今後の進退は?」って、アスリートにとっては酷な質問ですよね。これまで多くのアスリートを間近で見てきましたが、彼らは1つの目標に向かって限界ギリギリの状態まで突き詰めていく。欲求や欲望を抑えこんで、つらいトレーニングの日々が数年間続くわけです。そして競技の結果はどうあれ、大会を終えたら一時的に精神的・肉体的な重圧から解放される。そのタイミングで「4年後の大会はどうしますか?」と聞かれても「やります!」とはいえませんよね(笑)。

ーーー長い競技生活を通じて、心が折れそうになったことも少なくないと思います。スランプに直面したり、不安に駆られたりしたとき、どのように乗り越えてきたのでしょうか?

鈴木

たとえスランプであろうが「とりあえずやるしかない」という気持ちは常にあります。自分のやるべきことをやる、というか。2012年(平成24年)のロンドン大会前後はとくに不調で、考えるほど落ちこんでしまう悪循環に。深く考えこまないように、コーチのつくってくれたトレーニングメニューをこなすことだけに徹していました。

蘆名

トップアスリートである前に一人の人間ですもんね。我々も本気で業務と向き合っていますが、ときには調子が出ないことだってある。だからといって、必要以上に自分を責める必要はありません。周囲の支えに感謝しながら、いい結果が出ることを信じるのみ、です。

ーーーひとつのことを長く継続するのは大変ですよね?

鈴木

その都度、何かしらの興味を持って取り組むようにしています。トレーニングは同じことの繰り返しですが、そこに自分なりの興味関心、テーマなどがもてるようになると集中力が維持できると思います。

たとえばウエイトトレーニングでいい体につくり上げて女子にモテようとか(笑)そういうふうにモチベーションをあげてテーマを取り入れつつ、同じことを繰り返しやっています。腹筋割るぞ!とか思いながらウエイトトレーニングしたり、泳ぎの方で何か改善したいポイントが見つかれば、またそれを新しいモチベーションにして取り組んでいます。

ーーー課題を見つけて、それを改善するためのアプローチが継続につながっているんですね。

鈴木

同じトレーニングを繰り返していると、いつかそのメソッドが通用しなくなるのではないか――。そんな気もするんですよね。だから、積極的に楽しめる要素を探して動機づけしていく。それを突き詰めると、最終的に「長く続ける秘訣」みたいになっちゃいました。どうせやるなら楽しい方がいいので、自分が楽しめる方法を見つけるようにしています。

蘆名

普段からやりとりが多いブラインドサッカーの選手にもいえることですが、トップで活躍している方はモチベーションアップへの気持ちの運び方が上手いですよね。厳しいトレーニングや試合のなかに楽しみを見出しているように感じます。そして、応援してくれる人への感謝を忘れない。感謝の気持ちがさらなる応援となって選手に返ってくるので、いい循環ができている。

味の素社とともに「障がいのある人の健康寿命延伸」に取り組んでいきたい

ーーー鈴木選手は、日本のパラ水泳界を背負って立つ存在です。今後は後輩の育成も期待されているのではないでしょうか?

蘆名

鈴木選手は若い選手にとって「お兄さん」のような存在なので、練習の合間にアドバイスを求められている場面をたびたび目にしますね。

鈴木

アドバイスを求める選手が増えているのは、いい傾向だと思います。20代中盤の選手たちも着々と実績を重ねており、世界大会でメダルを狙えるまでになりました。業界の発展のためにも、私もノウハウを惜しみなく提供していきたいです。その一方でアドバイスすることの難しさも実感しています。ジェネレーションギャップもあるので、自分の常識を押しつけ過ぎるのもよくない気がするんです。けれども、ときには厳しさも見せないといけない場面もあるわけで......。難しいところですね。

ーーー現在、パラ水泳の業界に課題などはあるのでしょうか?

鈴木

選手の育成や協賛企業の獲得など、さまざまな課題があります。ただ、まずはメダルを獲ることが、業界への一番の貢献だと思うので私はひとまず目前に迫っている大会に集中したいです。

蘆名

パラ水泳に限らず、パラリンピックの認知度向上も課題なのではないでしょうか。オーストラリアやブラジルに滞在したときの話でいうと、現地のメディアはオリンピックもパラリンピックも同列に取り上げているんです。ところが、日本はオリンピックとパラリンピックとで温度差があるように感じます。パラリンピックはオリンピックに負けないくらいのインパクトや感動があるので、パラアスリートの凄さをもっと多くの人に知ってほしいです。

ーーー鈴木選手と味の素社がパートナー契約を結んだことで、今後は両者が連携した取り組みも増えていくのでしょうか?

蘆名

大会が終わったら鈴木選手には味の素グループのいろんなところに行ってもらいたいと思っています。ブラジルやタイなど世界のあちこちに行ってこういう対談や講演を行うなど、グローバルに展開していくために、いろいろなプランを考えています。

ーーー鈴木選手は「障がい者の健康寿命延伸」にも興味があるとのことですが・・・

鈴木

まず、自分が長生きしたい(笑)。これは興味のある分野ということではありますし、味の素社にはエキスパートの知見があり、スポーツそのものは健康寿命の延伸に良い効果があることなので、そこを掛け合わせて、障がいのあるなしにかかわらず健康寿命を伸ばすことに取り組んでいきたいです。

鈴木

これから少子化が進んで人口が減少して、高齢者の医療費をまかなうため、若い世代の負担が増えていきます。障がい者だって同じです。もちろん障がいによっては治療が必要だったり、薬が必要だったり、医療が必要なことも多いですが、なるべく医療費を軽減できればと思います。

日本人が1億2,000万人いて、一人ひとりの意識が変わればだいぶ減るでしょう。単純に病気や体調不良で苦しい時間が少なく、元気に毎日を生活できれば、その分楽しいんじゃないのって思っています。そういった経験を障がいのあるなしにかかわらず、ぜひ皆さんに理解してもらいたいです。

これは、今後の社会においても必要なことだと思うので、ニーズはあると思いますし、自分自身の興味があることなので積極的に取り組んでみたいです。これは味の素社と契約させていただいたときに提案したことのひとつです。

蘆名

まさに「Eat Well, Live Well.」ですよ。

ーーー最後に、パリ大会への意気込みを教えてください。

鈴木

東京大会よりもライバルが増えていますが、出るからにはひとつでも多くの種目でメダルを獲れるように頑張りたいです。今回は味の素社の強力なサポートも得られたので、とても心強く感じています。海外遠征には「食」への不安がつきまとうものですが、それも解消されるでしょう。全力を尽くすので、ぜひ応援してください。また、パリ大会後も応援していただけたらうれしいです。

蘆名

その意気込みに応えるべく、味の素社でも鈴木選手の活動を広く発信して、多くの人に応援を呼びかけたいです。もちろんパリ大会に限った話ではありません。鈴木選手と味の素社の挑戦はまだまだ続きます。

パラ水泳ってなに?

クラスに分かれて最速を競う 「パラ水泳」

パラリンピックの水泳は、視覚障がい・知的障がい・肢体不自由の選手が対象です。種目は「自由形」「平泳ぎ」「背泳ぎ」「バタフライ」「個人メドレー」「メドレーリレー」「フリーリレー」で、装具を身につけることなく、肉体のみで速さを競い合います。水による浮力が得られるので、比較的重度の障がい者でも力強く機敏に泳げます。これこそ、陸上の競技では味わえないパラ水泳ならではの醍醐味なのです。

基本的に国際水泳連盟のルールに準じており、使用するプールや泳法はオリンピックと変わりません。選手の年齢層が幅広く、10代から50代まで活躍しています。

また、パラ水泳は身体の機能に関する障がい(切断、脊椎損傷、脳性麻痺などの肢体不自由)によって、1から10までのクラスに分かれています。さらに、視覚障がい、知的障がい、聴覚障がいなど肢体に関わらない障がいのクラスも。細かくクラス分けすることで公平性が保たれ、それだけ接戦が生まれやすくなります。

パフォーマンスを最大限に発揮するために、各選手が取り入れている工夫も要チェック。泳法は身体の特性によって個性が分かれ、スタート方法ひとつとっても、じつに多様です。背泳ぎの場合はスターティンググリップを握ってスタートするのが主流ですが、障がいによってグリップを握ることができない選手は、補助具を使ったり、ヒモを口でくわえたりするケースも。コンマ1秒を縮めるためのアイデアの数々に思わずうなります。

視覚障がいのある選手に欠かさせないのが、巨大なマッチ棒のような形をした「タッピングバー」。視覚障がいのある選手はプールの壁の位置を視覚で判断できないので、ゴールやターンが近くなるとコーチがタッピングバーで選手をタッチ。選手の目の代わりとなって、壁への衝突を防ぎます。
コーチと選手の息のあったコンビネーションにぜひ注目してください。

鈴木孝幸選手のおもな戦績

2019年

世界パラ水泳選手権大会(イギリス)
100m自由形(S4)2位
150m個人メドレー(SM4)3位 ※日本新記録
50m自由形(S4)2位
200m自由形(S4)2位 ※アジア新記録 50m平泳ぎ(SB3)2位

2022年

マデイラ2022WPS世界選手権大会(ポルトガル)
50m平泳ぎ(SB3)3位
50m自由形(S4)3位
100m自由形(S4)2位

2023年

マンチェスター2023世界選手権(イギリス)
50m平泳ぎ(SB3)3位
50m自由形(S4)3位
100m自由形(S4)3位

2023年

杭州2022アジアパラ競技大会(中国)
50m自由形(S4)1位
100m自由形(S4)1位
混合4×50mメドレーリレー(20ポイント)2位
(田中、鈴木、西田、由井)

<パラリンピック成績>

2004年

アテネ2004パラリンピック
4x50mメドレーリレー 銀メダル

2008年

北京2008パラリンピック
50m平泳ぎ(SB3)金メダル
150m個人メドレー(SM4)銅メダル

2012年

ロンドンパラリンピック
50m平泳ぎ(SB3)銅メダル
150m個人メドレー(SM4)銅メダル

2016年

リオ2016パラリンピック
150m個人メドレー(SM4)4位
50m平泳ぎ(SB3)4位

2021年

東京2020パラリンピック
50m平泳ぎ(SB3)銅メダル
50m自由形(S4)銀メダル
100m自由形(S4)金メダル
200m自由形(S4)銀メダル
150m個人メドレー(SM4)銅メダル

<味の素社のパラスポーツに対する栄養サポート活動について>

2003年より、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)オフィシャルパートナーとしてオリンピック日本代表選手団「TEAM JAPAN」の強化支援事業「ビクトリープロジェクト®」に取り組み、栄養サポート活動を行ってきました。2015年公益財団法人日本障がい者スポーツ協会(JPSA)(現:日本パラスポーツ協会)とオフィシャルパートナー契約を締結、JPSAの内部組織である日本パラリンピック委員会(JPC)とも連携して「ビクトリープロジェクト®」をスタート、パラリンピック日本代表選手団にも取り組みを広げています。また2016年に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会オフィシャルパートナー契約を締結、2022年からは、JPSAが推進する日本パラリンピック委員会(JPC)とオフィシャルスポンサー契約を結び、パラアスリートへの栄養サポート活動を継続しています。

※ビクトリープロジェクト®とは、トップアスリートが世界で勝ち抜くためのスポーツ栄養およびアミノ酸によるコンディショニングサポート活動

鈴木孝幸

1987年1月23日生まれ、静岡県浜松市出身。早稲田大学教育学部卒業後、2009年株式会社ゴールドウイン入社。アテネから5大会連続でパラリンピックに出場。北京、ロンドン、東京の3大会で競泳チームの主将を務め、東京2020大会までに金メダル1個、銀メダル1個、銅メダル3個を獲得。パラリンピアンとして2020年大会の招致アンバサダーを務め、 招致活動に尽力。東京大会では出場した5種目すべてでメダルを獲得。その功績を認められ令和3年度紫綬褒章を受章。IPCアスリート評議員に立候補し当選。パリ2024パラリンピック競技大会まで選手代表としてパラスポーツの発展に関わる任務を務める。

蘆名真平

コーポレート本部 グローバルコミュニケーション部
スポーツ栄養推進グループ マネージャー

2006年入社。2012年ブラジル法人にて「アミノバイタル®」事業と「ビクトリープロジェクト®」を立ち上げ、現地から日本代表選手団をサポート。2016 年ブラジル出向時には現地から日本代表選手団のサポート。4年後の東京大会は打倒日本を掲げてブラジル版「ビクトリープロジェクトⓇ」の立ち上げ、ブラジル選手団をサポート。2023年より現職。
座右の銘は「善悪を以って道理をなす」。何か迷ったときには自分の良心が正しいと思った方を選ぶをモットーにしています。
これまで30か国以上を周り、せっかく生きているのであれば、人が笑顔になる、良いことをしたい――その気持ちを常に持って、日々、プロジェクトに邁進中。

<用語解説>

パラスポーツ
パラスポーツ(Para-Sports)とは、身体障がいや知的障がいなどの障がいがある人が行うスポーツのことをいいます。既存のスポーツ競技を障がい者の要求に応じて修正したものが多いのですが、障がい者のために考案された独自のスポーツも多く存在しています。なお、「Para-Sports」の「Para」とは日本語に訳すと「もうひとつ」を意味する言葉です。

2024年8月の情報をもとに掲載しています。

味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します

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