これまで前社長の藤江さんにさまざまな質問を投げかけ、対話を行ってきたシリーズ記事ですが、今回からは2025年2月に味の素社代表執行役社長に就任した「中村茂雄」さんにお話をうかがいます。
題して「Knock Knock 社長室~教えて!中村さん」、記念すべき第1回目のテーマは「高速開発システム」です。
こちらのインタビューでも「2030年のありたい姿」を実現するため、さらにスピードアップとスケールアップを目指して進化を推し進めるという方針について、鍵となるのは「高速開発システム」であると中村さんは発言しています。
今回社長室のドアをたたいた人
渡邉 佳央理さん
グローバルコミュニケーション部 メディアグループ
「高速開発システム」ってなに?
渡邉さん
中村さんが掲げる「高速開発システム」というのは、業務で使用する何かのシステムの話でしょうか?
中村社長
いいえ、違います(笑)
そもそもは、電子材料事業における私自身の経験で培われた考え方です。味の素グループの半導体材料である「ABF(味の素ビルドアップフィルム®)」は、常に2年先を読み、研究開発を進めていました。2年先の顧客(メーカー)のニーズを読み、それへ対応し続けること、これが高速開発システムの考え方です。
中村社長
「高速開発システム」とは、未来の予測をしながら、先手を打って研究開発を進めていくというプロジェクトの手法です。
電子材料事業における「高速開発システム」のイメージ
中村社長
半導体業界というのは、ものすごいスピードで動いています。高性能半導体は通常2年毎に性能向上するため、それに使用される半導体材料も性能アップが必要です。材料コンペが2年毎に実施される競争状況であり、健全な危機感が持続されます。私たちは常に2年先を読み、2年先の材料を考えて作っていかなくてはなりません。そして顧客ニーズが来た時に高速で仕上げ、材料を複数提案します。提案は顧客プロセスも含めたトータルソリューションで行います。
「高速開発システム」はいろいろな業種に応用できる
渡邉さん
なるほど、「高速開発システム」とは、未来を予測することで先手を打っていくということなんですね。これは半導体業界に限った取り組みなんでしょうか?
中村社長
いいえ。先取り戦略で継続的に改善をしていく「高速開発システム」はあらゆる業界において有効だと考えています。
ビジネスはグローバルに展開し、どんどん複雑になっています。また変化のスピードも速くなっている。いくら優れた技術を持っている企業でも、設計、開発、製造した頃にはもう時代遅れになることもあるでしょう。未来を予測して、研究開発をスタートさせないと間に合いません。これは半導体業界に限ったことではないと思います。
渡邉さん
ABFだけでなく、「高速開発システム」を味の素グループ全体に応用するということなんですか?ちょっとイメージしにくいのですが・・・
中村社長
わかりやすい事例としては、私が2022年(令和4年)にブラジル味の素社社長に就任したとき、さっそく「高速開発システム」を実践してみました。食品事業では、未来の日付で製品発表を想定した「未来のプレスリリース」を作成し、そこに顧客の体験談も盛り込むことで、新製品のコンセプトを検討しました。このプレスリリースをもとに、製品設計・製造・販売へと段階的に進めていきました。ブラジルでも「冷凍ギョーザ」の製造・販売を始めようと思い立ってから、わずか6か月でテストマーケティングにこぎつけました。
渡邉さん
6か月で?!通常では考えられないスピードですね!
中村社長
はい。「高速開発システム」がさまざまな事業や業務で展開できるということがブラジルでもわかりましたので、味の素グループでうまく使っていけると思います。4つの成長領域で「高速開発システム」によって成功する事業を起こしていきたいと思っています。
アミノサイエンス®と4つの成長領域
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/rd/aminoscience/
「高速開発システム」を経営に活かす
渡邉さん
すごいですね!味の素グループのあらゆる事業で、将来のニーズを想像して、そのニーズを満たすために解決すべき課題へ先んじて取り組んでいく。わくわくします。
中村社長
パーパスである「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」をもとに、行動規範として大切な価値観「AGW(Ajinomoto Group Way)」※に基づき「高速開発システム」でスピードアップとスケールアップをしていきます。
※AGW(Ajinomoto Group Way)とは、味の素グループの従業員一人ひとりが共有する価値観、仕事をする上での基本的考え方、姿勢を定めたものです。「新しい価値の創造」、「開拓者精神」、「社会への貢献」、「人を大切にする」の4つの行動指針を重視しています。
渡邉さん
事業や業務というより、経営そのものに「高速開発システム」を取り入れていくんですね。
中村社長
「高速開発システム」は、「人」「モノ」「金」「情報」に加えて「時間」を経営資源と捉えます。健全な危機感をベースにし、
・「顧客ニーズを先読みする」
・「複数のソリューションを迅速に開発する」
・「フィードバックに基づき継続的に改善する」
という3つのKSF(Key Success Factor)の上に成立します。
あらゆる事業や機能にも応用でき、進化させることが可能になります。
今日できることを明日に先送りしないことの積み重ね
渡邉さん
私たちも、いま目の前の課題だけでなく、未来の課題を先取りして考えるという、想像力が求められますね。
中村社長
そうですね。ただし、単に「速く」だけでなく、そこに「ちゃんと」の概念を組み込むことをしっかりと意識したいと思います。
中村社長
その積み重ねによって「戦闘力の高いカルチャー」が醸成できると思います。「高い戦闘力」というのは、何か想定外のことがあったときも、自分で考えてパッと動ける力です。
渡邉さん
まさに「無形資産」を鍛える、みたいなことでしょうか。
中村社長
過去の成功例にしがみつくのではなく、「自己破壊モデル」で自分を超えていくことだと思います。自分たちで自分たちのいいものを超えていくというやり方を身につける。そこにイノベーションが生まれるし、人的資本である「無形資産」も磨き込まれ、グループ全体もさらに成長していけるでしょう。
渡邉さん
おお、未来が楽しみになってきました!とはいえ、自分がそこまでできるかどうか不安ですが・・・
中村社長
まず、できるところから始めましょう。「高速開発システム」とは「今日できることを明日に先送りしないことの積み重ね」であり、日々改善に取り組む「高速改善システム」とも言えます。「時間」も大切な「無形資産」ですからね。
渡邉 佳央理
コーポレート本部 グローバルコミュニケーション部 メディアグループ
テレビ局、飲料メーカーを経て2024年に中途入社。広報部門で「ストーリー」編集部、SNSアカウント運用などを担当。味の素グループの幅広い事業、様々な取り組みを広くわかりやすくお伝えすべく、ネタ探しとコンテンツ制作に奮闘中。
座右の銘は「一気呵成」と「熟慮断行」。相反する言葉ですが、最後まで諦めずに挑戦すること、立ち止まってじっくり考えた上で決断することを心がけています。
休日は息子と一緒におでかけしたり、趣味の宝塚観劇・映画鑑賞を楽しんでいます。
2025年7月の情報をもとに掲載しています。
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