味の素社では、「食と健康の課題解決企業」を目指し、既存の事業のみならず、今までにないアイデア、コンセプトで新しい市場の創造、社会課題解決に挑戦するスタートアップ企業と積極的に共創に取り組んでいます。なぜ味の素社は、スタートアップ企業と共創に取り組むのでしょうか?そしてその取り組みがもたらすものとは?
今回の記事では、これらの共創プロジェクトを担当している味の素社のチーム「ts-umu-gu」メンバーの皆さんのインタビューを通じて、味の素社のオープンイノベーションをご紹介します。
※完全栄養食とは、1食(BASE PASTAは1袋、BASE BREADは2袋、BASE Cookiesは4袋)で、栄養素等表示基準値に基づき、他の食事で過剰摂取が懸念される脂質・飽和脂肪酸・炭水化物・ナトリウム・n-6系脂肪酸を除いて、すべての栄養素で1日分の基準値の1/3以上を含む
「BASE FOOD®」のベースフード社、調理ロボットのTechMagic社
現在、味の素社では完全栄養食として注目を集める「BASE FOOD®」の商品開発・販売をおこなうベースフード社、また調理ロボットの開発を手がけるTechMagic社と共創によるオープンイノベーションに取り組んでいます。
「BASE FOOD®」を開発するベースフード社は、1食で1日に必要な栄養素の1/3が摂れる「BASE BREAD®」、「BASE PASTA®」、「BASE Cookies®」などを展開し、2017年(平成29年)の発売開始から約5年で累計販売数8,000万袋、定期購入者数は15万人(2022年12月時点)を突破している注目のスタートアップ企業です。
一方、TechMagic社では、人工知能の機械学習やロボティックスなどの技術を活用し、新たな「食」のインフラを構築。外食産業における人手不足やそれに伴う食品の廃棄ロスなどの社会課題を、革新的な調理ロボットにより解決することを目指しています。
完全栄養食と調理ロボット、この最先端を行く試みに、100年以上生活者の"おいしい食"を支えてきた味の素社が共創のパートナーとして関わっています。
オープンイノベーションを先導するフロントランナー
オープンイノベーションとは、企業や大学、地方自治体、社会起業家など異業種・異分野がそれぞれに持つ技術やアイデア、データやノウハウを組み合わせ、新しいサービスや製品を生み出すことをいいます。
味の素社でも、スタートアップ企業をはじめ既存の枠組みにとらわれずイノベーションを起こして新しいビジネスモデルを構築していく企業や団体とともに、社会課題の解決となるような新しい事業に取り組み、オープンイノベーションを進めています。
S&I事業部にある新事業創造チーム「ts-umu-gu」もそのうちの一つです。
チームに課せられたおもなミッションは2つあります。
ひとつはパートナー企業と「食」を通じて社会課題解決を加速させ、持続可能な社会創りに貢献していくこと。それはすなわち我々にとって、100年先も続く、おいしさと笑顔を創っていくことだと捉えています。
「ts-umu-gu」というネーミングにも、食を通じて誰もが笑顔になれる社会を創り、次の世代へつないでいく。そんな世界を創る(umu)ために味の素社が想いをともにするステークホルダーを有機的に「紡いでいきたい」という志が込められているそうです。
そしてもうひとつは、味の素社が長い歴史から築いてきた技術やノウハウを活用し新しいビジネスモデルを創り出すことです。
これらに対する具体的な取り組みや、若手社員中心のチーム構成について、話を聞いてみましょう。
アセットを結集して、スタートアップと新事業を切り拓く
新事業創造チーム「ts-umu-gu」は、どのようにオープンイノベーションと向き合っているのでしょうか。チームの成り立ちやプロジェクトにかける思いをリーダーの豊泉俊一郎さん、中川可子さん、佐々木啓太さんに語ってもらいました。
豊泉:取り組みが始まったのは、2019年(令和元年)12月頃から。新たな分野を開拓するために、S&I事業部内で、プロジェクトチームが立ち上がりました。そのうちのひとつにスタートアップ企業とオープンイノベーションによる新しいビジネスモデル構築を目指すテーマがありました。これが我々の前身にあたります。その後、実証と検証を重ねて、2021年(令和3年)7月、正式なチームとして走り出すこととなりました。
「メンバーには創造性とともに不屈のチャレンジ精神が求められる」と豊泉さん。中川さんと佐々木さんは、新チームに抜擢された当時のことを次のように話します。
中川:当時は既存ビジネスである業務用の「うま味調味料」、「液体和風調味料」等のプロダクトマネジャーとして商品開発に携わっていたのでチームへのアサインは青天の霹靂でした。我々はコンサルティングという立場でプロジェクトに関わるため、スタートアップ企業は共創のパートナーであり、お客様でもあります。刺激を受けながらも、期待に見合った価値を提供できているかを常に自問自答しています。
佐々木:以前、社外ベンチャーとの協業を目的としたアクセラレータープログラムの社内スタッフに応募したことがあり、そのときの意気ごみが評価されて、チームの一員に選ばれたのだと思います。実際にプロジェクトに関わってみると、これまで接することのなかった方々との交流が多く、新鮮なことばかり。既存事業では、得られない経験を実感しています。
スタートアップとともに未知の分野を追求する3人。現在、豊泉さんはTechMagic社と炒め調理ロボットの共同開発を進めています。
豊泉:調理ロボットは、飲食業界が抱える人手不足や生産性を抜本的に解決するイノベーションとなる可能性が大いにあります。TechMagic社は、ロボットを制御するAI技術と効率的な自動調理プロセスの設計にすぐれた技術を有しています。その技術に味の素社が築き上げてきた「おいしさ設計技術®」と独自の調味料を組み合わせることで両社の強みが掛け合わさり、高い調味・調理性を持つ炒め調理ロボットの実現を目指しています。
中川さんも味の素社の「おいしさ設計技術®」を活用して、2021年(令和3年)の7月から本格的に「BASE FOOD®」製品への開発支援をスタートしました。
中川:「食」と「健康」という共通のビジョンを掲げていることもあり、ベースフード社と味の素社のオープンイノベーションに高い親和性を感じます。健康に良い食事を我慢しながら食べるのではなく、"おいしいと思って食べていたら栄養もとれていた"という状態。つまり 「おいしさと健康が自然と両立できている理想的な姿」の実現を目指し、両社で知恵を出し合っています。この理想の実現には、まさに当社の強みである「おいしさ設計技術®」や「生活者解析力」が不可欠であると考えており、今後も一緒においしくてつい食べたくなる「完全栄養食」を世に送り出していきたいと思っています。
技術畑で働いてきたというバックグラウンドをもつ佐々木さんは、味の素社が過去に開発した技術を応用してオープンイノベーションを進めています。
佐々木:味の素社の既存事業では活かしきれていないノウハウが、スタートアップ企業が求めている機能にピタリとマッチすることも少なくありません。眠っていた技術から新たな価値が生まれる。これもオープンイノベーションの醍醐味と言えます。
3人それぞれが、味の素社の技術や企業力をフル活用しながら、担当するスタートアップ企業との新事業を進めていることがわかります。
ダイバーシティを地でいくチームが大きなチャンスを生む
味の素社の強みをいかに活用するか、また、パートナー企業との信頼関係をどのように築いていくか、チームとしても試行錯誤を繰り返して少しずつ成果を出していったそうです。
豊泉さんは、チームのリーダーとして、中川さんと佐々木さんの成長を見守ってきました。
豊泉:二人とも立ち上げ当初は不安も大きかったと思います。既存の枠組みがある仕事であれば、ある程度、参考となる事例も多く、上司、先輩、同僚との仕事を通して、どのようなスキルや知識が自分には必要であり、そして足りないかを把握し、サポートを得ながら取組みを進めることが比較的、恵まれた環境にあるかもしれません。一方、新事業では参考となる前例がなく、誰もが初めてのことばかり。周りの支援をいただきながらも自ら率先して道を切り拓いていくしかない。そこには生みの苦しさや不安も伴いますが、大きく成長するチャンスでもある。二人の圧倒的なスピードで成長する姿を間近で見て、強くそう思います。
少ないメンバーで各プロジェクトにおける役割の線引きが難しい側面はありますが、その分、1人1人の裁量が大きいとも言えます。スタートアップ企業との共創では自分が知らないこと、経験したことがないことばかりに直面します。それを成長の糧にできるか自分に問われていると感じます。
中川:私たちは、「当社製品の提案」という形だけに縛られず、創業から110年の間に培った幅広い技術やノウハウ、また社員一人一人の専門的な知見から新しいビジネスモデルを構築するために試行錯誤とチャレンジを日々繰り返しています。スタートアップ企業の課題に対して、当社のどんなシーズを組み合わせるべきか?誰を巻き込むべきか?を常に考え、ソリューションを提供しています。食品研究所の皆さんはじめ、多くの方々のサポートがあり、続けられています。
佐々木:メンバーの経歴も異なれば、得意とする分野も違う。その多様性がオープンイノベーションに寄与するのでしょう。新事業創造チーム「ts-umu-gu」は、まだまだおもしろいことにチャレンジできるはずです。
想い描く「より良い社会」を共創する
互いに切磋琢磨しながら、それぞれの新しい道を切り拓く。新事業創造チームの仕事は前例のない取り組みだからこそ、秘めた可能性は無限大です。「社会課題解決への想い、志が原動力」と、豊泉さんの声にも力がこもります。
豊泉:「自分の仕事を通じて社会をより良くすることに貢献したい」今までの仕事でもその想いを当然持っていましたが業務全体に関わる方も多く、自分の仕事と社会のつながりを強く実感できていたかと問われると難しい部分が正直ありました。対して、パートナーであるスタートアップ企業はまさに社会課題そのものを解決するイノベーションに取り組んでおり、事業の成長が社会課題の解決に直結しています。パートナー企業の成長に貢献することがより良い社会づくりにつながりますし、パートナー企業とともに「0」から「1」、「1」から「10」、「10」から「100」へとスケールを拡大することで社会への貢献度を高めることができると考えています。
新事業創造チームのチャレンジは、まだまだ始まったばかり。次はどのようなプロジェクトでミッションを遂行していくのでしょうか。これからも、「100年先も続く、おいしさと笑顔に貢献するため」取り組みを続ける味の素社のオープンイノベーションにご期待ください。
豊泉 俊一郎
2006年の入社から一貫して業務用調味料事業に従事。北関東エリア営業、業務用調味料プロダクトマネジャー、アカウント営業を経て、現在の新事業創造チームリーダーに。
今を生きる世代の責任として、未来により良い社会をつないでいかねばならないと思っています。そのために自分にできることは小さくとも挑戦をこれからも続けていきます。
6歳の娘と9歳の息子がおり、賑やかな(騒がしい?)毎日。週末は子どもの習い事(テニス、サッカー)に付き添うなど、妻と一緒に2人の成長する姿を楽しんでいます。
中川 可子
2014年の入社以降、S&I事業部で業務用製品のSCMやプロダクトマネジャーを担当。
次の味の素社の100年を支えるビジネスに育てるべく、社会的価値と経済的価値の両立を心掛けています。またスタートアップ企業の方々との出会いや、その中での自身の新たな気づき、価値観や視野を広げることを大切にしています。
おいしいお店を見つけては、夫や会社の皆さんと食べ歩きしています。
佐々木 啓太
味に関する技術開発(減塩・コク)を5年間経験。その後、B2B向けの製品開発や顧客サポート業務を5年間経験。
どんな素晴らしい取り組みをしても、社会実装して初めて意味があると感じています。また、継続的に社会へ貢献するためにはASVの考え方がとても重要だと日々感じています。
2人の子ども(4歳・1歳)とできる限り一緒に過ごすようにしています。
2023年10月の情報をもとに掲載しています。
味の素㈱、多様化する生活者ニーズに基づく顧客課題の解決に向けてスタートアップ企業との協業開始
味の素㈱、テクノロジーによる持続可能な食インフラの創造に取り組むスタートアップ企業と協業開始