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味の素社がZ世代のための新事業専門チームをつくったということですが、そもそもZ世代って? どんな若者? そしてなぜ、味の素社はわざわざ専属チームをつくったのでしょうか? 事業部の創設メンバーに直接話を伺いました。
世界で有名なあの人も! Z世代とは?
諸説ありますが、Z世代とは、1995年〜2009年生まれの若者のこと。現在20代半ば〜中学生の若者たちです。彼らはデジタルネイティブであり、子どもの頃からSNSに親しむソーシャルネイティブであります。
ざっくりとした特徴として、「テレビを見ない」「SNSアカウントは複数持つのが当たり前」「マスの情報より、自分に似たライフスタイルの"マイクロインフルエンサー"を信頼する」「社会・環境問題に意識が高い」などが挙げられます。
もちろんひとくくりにはできませんが、地球環境やサスティナブルを意識し、SDGsという単語をふつうに知っている世代と言えるでしょう。世界では、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏(2003年生まれ)や、自らを"絶望の世代"と呼んだアメリカのシンガーソングライター、ビリー・アイリッシュ氏(2001年生まれ)などが象徴的です。
マーケティング界ではターゲット別の戦略を立てる上で、こうした世代分けは昔から行われてきました。さかのぼれば、X世代(1960年〜70年代生まれ)、Y世代(1980年代〜90年代生まれ)があり、Y世代の中にはミレニアル(1981年〜1995年生まれ)が含まれます。
時代は移り、ミレニアル世代の次がZ世代。その人口は世界で約13億人。世界的に見て大きな消費者層であり、次の時代のリーダーたるZ世代に向けて、各業界がその消費動向を探っています。すでにファッション界や化粧品界では、インスタグラムや動画アプリを駆使した販促でしのぎを削っています。
ミッションはZ世代の味の素ファンを増やすこと
この流れの中で食品業界は? もちろん動いています。うま味調味料の「味の素®」や「ほんだし®」、「Cook Do®」を筆頭に食卓の味のイメージが強い味の素社も、Z世代に対して果敢に取り組みを加速しています。その最先端がZ世代事業創造部です。
事業部新設の背景には、味の素社が国内的にも海外的にも、Z世代に十分にアプローチできていないという危機感があります。主婦層をはじめとした中高年層には認知度の高い味の素社ですが、調味料事業が中心のため、調理体験が少ない若者にはいまひとつ......という現実があります。
ですからZ世代事業創造部のミッションは、これまでの枠組みにとらわれず、日本のみならず世界のZ世代の価値観に寄り添い、彼らの食と健康の課題解決に役立つ製品、サービスを開発すること。そして世界中の若者に味の素社のファンになってもらうこと。Z世代向けの先進的事業をきっかけに、味の素グループ全体のファンを世界に広げ、さらには食を通じたWell-Being(=幸福)を提供すること。見据える目標は壮大です。
今年4月から本格的に始動し、来年3月にはテストマーケティングとして新製品・サービスをリリースする計画だそうです。現在はどんなことに取り組んでいるのでしょうか。 メンバーに話を聞いてきました。
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入社数年目で、本社から飛び出してきた20代
Z世代事業創造部のメンバーは4名。リーダーだけ30代の山田裕介氏で、あとの3名は社内公募で選ばれた入社数年目の、Z世代前後の若者たちです。
「弊社の従来の枠組みにとらわれない、言ってみれば味の素社のカラーにまだ染まっていない若手に集まってもらいました。私は30代ですが、転職組なので、入社4年目です」と、胸を張る山田裕介氏は味の素社が3社目。異業種で事業開発に長く携わってきた中途人財が、Z世代事業創造部のリーダーに任命されたのです。「これほど若い少数精鋭の事業部は私も初めて。ワクワクしています」
職場は東京・京橋の味の素本社ではありません。若者の町、渋谷駅直結の渋谷スクランブルスクエアの中にある共創施設SHIBUYA QWS(シブヤキューズ)に拠点を構えています。SHIBUYA QWSは、さまざまな業種や職種の人がフロアを共有し、新しい事業のアイデアを日々磨いている、今話題のコワーキングスペースです。
それにしても入社して数年で本社を飛び出し、前例のない事業開発に手を挙げた若手社員は、いったいどんな気持ちで応募したのでしょうか。
技術畑から応募した齋藤仁氏は、「入社時から、ゼロから何かつくり出す仕事をしたいと思っていました。Z世代のトレンドの変化は激しく、そこに合った事業を生み出すのは並大抵のことではないと思いますが、だからこそ挑戦してみたかった」と、失敗と変化を怖れないチャレンジャー気質です。
営業職から応募した4年目の玉置翔氏は、「ぼくは学生時代から自炊派で弊社製品を愛用していたのですが、入社後、同世代が弊社のことをあまり知らないことにショックを受けました。インパクトある製品を生んで、Z世代に対する弊社のプレゼンスを高めたい」と意気込みます。
入社5年目になる楠田栞里氏は、そろそろ次のステップに進みたいと考えていたところ、事業部創設の話を聞いて応募しました。「ずっとグローバルな仕事に携わっていきたいと思っているので、世界のZ世代にアプローチできる事業部にしていきたい」と、腕が鳴る様子でした。
仕事場のSHIBUYA QWSについてもう少し説明しておきましょう。ここは会員制のシェアオフィスの一種。第一線の企業やスタートアップ、有名な大学などが集まり、フロアをシェアしています。社内や学内の研究室にいるだけではまず出会えない、幅広い業種の、幅広い年代の人たちと意見交換をしながら、新しい事業を生み出そうという活気と野心にあふれた"共創スペース"です。
Z世代事業創造部のメンバーはSHIBUYA QWSをベースにしながら、といっても毎日ここで顔をつきあわせているわけではありません。各々が情報収集に出かけ、勤務時間もフレキシブル、自由かつ自律的に働いています。
Z世代の「こころとからだの課題解決」がSDGsにつながっていく
新製品を事業化するプロセスも従来とは異なります。従来型では綿密な市場調査に始まり、種々のテストマーケティングを重ねるため、新製品が世に出るまで1年、2年かかるのが当たり前でした。こうしたウォーターフォール型(※1)と呼ばれる従来の進め方に対し、山田氏は「有望なアイデアが出たらテストマーケティング的に小規模に事業化を目指します。市場に出したら、Z世代の反応を分析、検証して次に活かす。これをZ世代事業創造部で一気通貫して行っていきます。いわゆるアジャイル型スキーム(※2)で攻めていきたい」と、従来の味の素社での商品開発とは比べ物にならないスピード感で事業化が進みます。
ではメンバーはどんな点に注目して、Z世代のための新事業開発にあたっているのでしょうか。
齋藤:SNSをはじめ、新しい情報ツールをどう製品に活用していくかがカギ。
玉置:これまでのメーカーからの一方的な製品提供ではなく、Z世代と作り上げていく、そういうストーリーをもった製品開発が重要だと思います。
楠田:Z世代は地球環境、サスティナブルな社会に関心の高い人たち。私たちは"食べるため"の製品だけでなく、Z世代のこころとからだ両方に届く商品開発が必要だと思います。エシカル消費(※3)やサーキュラーエコノミー(※4)も意識しながら取り組んでいきたい。
リーダーの山田氏は、「私たちの仕事は、長い目で見れば、味の素グループの企業価値向上につながっています。Z世代のための食と健康、こころとからだの課題解決を通してSDGsにリンクするストーリーをつくり出していきたい。"理想"と"志"を常に軸に置きながら、ビジネスの厳しい現実を乗り越え、事業を形にしていくために、悩み、議論し、考え抜き、検討を進めていきます」と語ります。
今までになかったやり方で、既存の枠にはまらない何かにチャレンジしている......ことだけはわかります。
いったいどんな新事業が飛び出してくるでしょうか!? 2022年3月までに新事業の第1弾がスタートする予定なので、これからも続報をお届けしていきます!
2021年8月の情報をもとに掲載しています。
※1:ウォーターフォール型
ウォーターフォール型は、システムやソフトウェア開発で用いられる開発手法です。滝(waterfall)のように、各工程を上から順番にしっかりと完了させながら行います。
参考:https://hnavi.co.jp/knowledge/blog/waterfall/
※2:アジャイル型スキーム
アジャイル型はシステムやソフトウェア開発で用いられる開発手法で、スキームとは計画や仕組みのことです。アジャイル(agile)とは、素早い、機敏なという意味。実装とテストを繰り返して開発を進めていく手法で、従来型と比べ開発期間が短いのが特徴です。
参考:https://hnavi.co.jp/knowledge/blog/agile_software_development/
※3:エシカル消費
エシカル(Ethical)とは、倫理的な、道徳上の、という意味です。エシカル消費は、消費者それぞれが各自にとって社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことです。
参考:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/about/
※4:サーキュラーエコノミー
サーキュラーエコノミーは、循環経済という意味です。従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニアな経済(線形経済)に代わる、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済を指します。
参考:http://www.env.go.jp/recycle/mat02.pdf