世界のリメイクごはん

残ったロースト肉でつくるシェパーズパイ

おいしく食べることと同時に、いま私たちは、残った食材や料理を、最後まで大切に食べることが求められています。そこで、海外に目を向けると、その国ならではのステキなアイデアがありました。シリーズでご紹介します。
第五回目は、ロンドンから。情報提供と写真はイギリス・ロンドンの冨久岡ナヲさん、前日に残ったロースト肉を活用した家庭料理をご紹介します。

イギリスの伝統的なおかずパイ

イギリスの伝統的なおかずパイ

塩や胡椒をふんだんに使うことができた土地柄から、素材そのものの味を活かす料理が重んじられてきたイギリス。そこに新しい料理を届けたのが移民でした。
インド料理もそのひとつで、独自の進化を遂げ、今では国民食とも言われています。
また、産業革命以降、労働者が都市部に住み移り、フィッシュアンドチップスやパイ料理が庶民の味として定着しました。そのパイ料理が今回のテーマです。

「パイ」と聞くと、アップルパイのように練った小麦粉生地のケースに具を詰めて焼いたものを想像するかもしれません。今回の料理はまったく違うタイプです。
それは、煮込んだ具の上にマッシュポテトをかぶせてオーブンでこんがりと焼き目をつけた、イギリスの伝統的なおかずパイなのです。

ロースト肉やシチューの残りを余すことなく活用するために生まれた料理ですが、あまりにおいしいので残り物が出るまで待っていられない、と今ではひき肉を使い一から作るレシピが一般的になっています。
でも今日は、食べきれなかったロースト肉を使うオリジナルのリメイクをご紹介します!

残った料理やワインを全部使って大変身

ローストビーフと野菜とワイン

作り方は簡単です。玉ねぎ、にんじん、セロリを2~3cm角にカットし、植物油少々で玉ねぎが柔らかくなるまで炒めます。付け合わせ野菜の残りも投入しましょう。
そこに短冊に切ったロースト肉を加えてさらに炒め、飲み残しの赤ワインを注ぎます。肉の切り落としや筋っぽい部分などすべて利用できます。ロースト肉の代わりにひき肉で作る場合は、野菜と一緒に炒めてください。

前日食べたローストに添えたグレービーソース(肉類をオーブンなどで焼いたときに出る肉汁をそのまま、またはワインやブイヨンなどを加えて煮詰め、塩胡椒などで味つけしたもの)の余りを水で薄め、具がすっかり被るくらいの量を入れます。無ければ洋風スープの素(味の素KKコンソメなど)でOKです。

適量のトマトビューレ、ローズマリーとタイムを放り込んだら弱火で20~30分、蓋をせずにことことと煮込みます。すでに焼いてある肉なのでほろほろに煮崩れるのも早いです。
隠し味として原材料にアンチョビーが入っているイギリス伝統の元祖ウスターソース、リーペリンソースを加えると、肉や野菜のうま味との相乗効果で深みのある味を醸し出します。

ローストビーフと野菜を煮込んでいる

煮込んでいる間に、じゃがいもの皮を剥いて水から茹でます。やわらかくなったらざるにあげて水気を切り、多めのバターと塩・胡椒を加えマッシャーで滑らかに潰します。牛乳を少しずつ加えながらぽってりとしたマッシュポテトを作ってください。
オーブンを200度に熱します。耐熱容器に煮込んだ具を入れ、その上をマッシュポテトですっぽり覆います。平らにならしてからフォークで表面にうね模様をつけ、20分ほどオーブンに入れて表面がこんがりと焼けたらできあがりです!

昔の知恵は環境にもお財布にもやさしい

シェパーズパイは「羊飼いのパイ」という名のごとく羊肉を使います。同じレシピを牛肉で作ると「コッテージパイ」、魚なら「オーシャンパイ」と呼ばれます。どれも、もともとは食べ残しや切り落とし部分を使った料理です。なぜか豚肉では作りません。キリスト教の古い教えでは豚肉は不浄とされていたからという説もありますが、ベーコンもソーセージも大好きなイギリス人がそんなことを気にするようには思えませんね。

イギリスでのリメイクごはんは「もったいない」精神よりも、貧しさの必然から、なんでも捨てずに食べ切るための工夫だったようです。しかし、残り物には福があるという言い伝え通り、リメイクごはんはもとの料理よりもうま味が凝縮しておいしくなることがしばしばあります。

ロンドンの街並み

イギリスには料理が得意でない人が多く、最近ではスーパーで食材を買い込んではみるものの結局賞味期限が切れて捨てるはめになり、大量のフードロスが発生していました。
昔のつつましい暮らしの知恵であったイギリスのリメイクごはんは今、おいしくて環境への負荷も減りお財布にもやさしいと改めて注目を浴び、以前よりもずっとひんぱんに作られるようになっています。

テキスト:村上千砂(TNC inc.)

フードプランナー、「Maison de Tsuyuki」料理人。大阪芸術大学卒業後、株式会社日本リクルートセンター入社。その後、フリーの編集者として活動し2004年に株式会社TNC設立。国内外の取材を通じた「食」の縁は仕事も人生も豊かにした。

2022年4月の情報をもとに掲載しています。

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