そんな“非料理男子”のフリーライターMさんが、予備知識以前のギモンや謎(?)を解明し、料理男子を目指します。
今回のテーマは「鶏肉」。鶏もも肉と鶏むね肉って違いがあるの?ささみ、手羽ってなに?鶏むね肉にトラウマを植えつけられたMさんが真相を探ります。
親子丼って簡単そう!材料を求め、いざスーパーマーケットへ
こんにちは。非料理ライターのMです。この連載のおかげで料理の"基本の基本"程度の知識がついてきた気でいましたが、まだまだ修業が足りないようです。先日、それを痛感する出来事がありました......。
ある日の昼下がり、テレビのワイドショーを眺めていると、行列のできる親子丼屋さんを紹介しているではありませんか。う~ん、ジューシーな鶏肉を包む、ふわとろの卵がたまりません。調理工程を見ていると意外なほどシンプル。鶏肉を煮こんで、とき卵を流しこめばOK。めちゃくちゃ簡単なんですね。
だったら行列に並ばなくとも自分で作ればいい。それで食材を調達するためにスーパーマーケットへ。売り場にはさまざまな鶏肉がパック詰めされて並んでいます。さっそく、手ごろなサイズのパックに手を伸ばしたら......アレ?「鶏肉」と書いてある商品が見当たりません。
「鶏むね肉」「鶏もも肉」「ささみ」「手羽」......と、「鶏肉」と表記しているパックがひとつもないのです!かたちも微妙に違うし、なにより値段に大きな差があります。100g70円程度のものから100円近いものまで、いったいなぜ!?
鶏むね肉をぜいたくに使った、味わい浅いパサパサ親子丼に舌つづみ!?
失敗が怖いので、いちばん安かった鶏むね肉を購入。ぶつ切りにしていい感じに煮こんだあとに、いい感じのタイミングでとき卵を投入。
いい感じに仕上がりました。それではいただきます!と、肉を口に運んだら......アレ? パッサパサだあ!というかボソボソ?
味気なくて、噛むほどに虚しさがこみあげてきます。これは僕の知っている親子丼じゃない。
「AJINOMOTO PARK」の「レシピ大百科」で、「親子丼」を調べてみたら謎が解けました。親子丼は一般的に鶏むね肉ではなく、鶏もも肉を使うようです。なんだ、はやく言ってよ~~、もう!
究極の選択!?肉汁あふれる鶏もも肉VSさっぱり淡白な鶏むね肉
しかしながら、鶏むね肉を使うだけであんな仕上がりになってしまうとは......。どうやら、鶏むね肉と鶏もも肉で味や肉質に大きな違いがあるようです。それぞれの特徴をまとめたので紹介します。
・鶏もも肉の特徴
鶏の脚からももの付け根にかけての部分です。
筋肉が多いため、肉は赤身が強く噛みごたえがあります。全体的に厚みがあり、鶏肉特有のジューシーでコクのある味が楽しめます。
カレーの具や唐揚げなど、さまざまな料理で活躍。
・鶏むね肉の特徴
鶏の胸にあたる部分です。
やわらかく、白っぽい肉質をしています。脂肪が少なく、鶏もも肉よりも低カロリー。
「蒸し鶏」のようなあっさりした料理に適しています。たんぱく質を多く含んでいるので、アスリート向けの料理にもぴったり。鶏もも肉よりも比較的割安で購入できる"自炊の味方"です。
といった感じで、見た目や味、適した料理なども異なっています。スーパーマーケットの売り場で見かけた謎のパック群は、どうやら部位ごとに切り分けられていたようですね。
僕の場合は残念な結果になりましたが、あれは決して鶏むね肉が鶏もも肉に劣っていたからではなく、部位による使い分けができていなかったから。思い返せば、唐揚げは弾力があってプリっとした食感で、蒸し鶏は身がギュっと詰まったような食感。ふむ、意識すれば、料理初心者の僕でも"利き鶏肉"できそうです!
脂身由来の臭みを解決すれば、「鶏もも肉」のおいしさが爆上がり!
さて、鶏もも肉と鶏むね肉のおいしさを引き出す方法があるようなので、紹介しておきます。親子丼で悪夢を見た僕にとっては、鶏むね肉の活用方法を胸に刻んで(鶏むね肉だけに)おきたいところ。
まずは、鶏もも肉について。脂が多い鶏もも肉は、臭みが出やすいのが欠点です。臭みとりに活躍するのが「酒」。〈「料理の基本」は謎だらけ~下味付けってなに? 〉の回でも紹介しましたが、酒には肉の臭みをとる効果があるのです。鶏もも肉に酒をふりかけて、10分ほど放置すればOK。調理前にキッチンタオルなどで肉表面の水気をふき取るだけでも、臭みは軽減されるのだとか。
白い「筋」をとるのも忘れずに。筋を上に引っぱりながら、包丁で削ぎ切りにするとスーっと切り落とせます。残ったままだと、調理後の食感が悪くなってしまいます。脂身が気になる人は、筋とりの要領で取り除いてしまいましょう。
肉全体に穴を開けて味染みをよくする工夫もあるそうです。一般家庭にある手ごろなフォークで、ブスブスと肉を刺すだけ。「やりすぎかな?」と思うくらい、まんべんなく刺す!日頃のストレスを発散するつもりでフォークを突き立てましょう。
- 「料理の基本」は謎だらけ~下味付けってなに?
火にかける前に言っておきたいことがある、淡白宣言の「鶏むね肉」
脂が少なく水分の多い鶏むね肉は、加熱しすぎると水分が飛んでしまいパサパサになってしまうそうです。僕の作った親子丼が失敗に終わったのもこの特性が原因でしょう。どうやら、初心者は焼き物や炒め物から始めた方がよさそうですね。
淡白な味わいの鶏むね肉ですが、下処理に「塩麹」を使えばよりおいしくなります。調理前に肉を塩麹に漬け込むとしっとりとした味わいに。うま味も底上げされます。これは、塩麹に含まれた麹菌のおかげ!麹菌の酵素が肉のたんぱく質を分解して、肉質がやわらかくなるのだそうです。
「塩麹」を購入するのはちょっとハードルが......という方は、こういった便利な調味料もあるので、ぜひ!
繊維を断ち切ってカットするのもポイント。繊維に対して垂直に包丁を入れることで、噛みしめたときに身がほぐれやすくなるのです。
また、臭みが気になるなら鶏もも肉のようにお酒をふりかけるのもおすすめです。
【脱線コラム】
昨今の健康ブームがサラダチキンの人気に火を点けた?
ここ数年の間でコンビニの定番商品になった「サラダチキン」。この頃はスーパーマーケットでも見かけるようになりました。副菜はもちろん、小腹を満たすおやつにも最適です。
サラダチキン人気の高まりは、2014年頃からとされています。とあるグルメサイトでは、その年以降、サラダチキンの検索数が急上昇しているのだとか。農林中金総合研究所※の調査によると、昨今の健康ブームが需要を後押ししたと分析しています。
ちなみにサラダチキンには鶏むね肉を使うのが主流。フレーバーも多彩なので、各社の商品を食べ比べしてみては?
高たんぱくかつ低カロリーの「ささみ」はサラダ、和え物と好相性
ここまで鶏もも肉と鶏むね肉の違いを紹介してきましたが、ついでにほかの部位についても調べてみました。
鶏むね肉を小ぶりにしたような見た目の「ささみ」は、むね肉の裏側についている肉です。笹の葉に似た形状から、その名が付いたのだとか。よく動かす部位なので、ほとんど脂肪がありません。一方で、鶏むね肉以上のたんぱく質を含んでおり、ビタミンAやビタミンB群などの栄養素が豊富です。
鶏むね肉同様、パサつきやすいので加熱のしすぎは厳禁。淡白な味わいと栄養素を活かすなら、蒸してサラダや和え物などに使うといいようです。
蒸し器がない人は「ゆでる」という手も。ゆでかげんが肝心で、水を張った鍋を火にかけて沸騰したら火を止めます。そこへささみを投入すれば、お湯の余熱だけでじっくりと火が通り、ふっくら仕上がるそうです。
また、結構大きめの筋がついているので、調理前にとっておきましょう。
食べごたえ抜群の「手羽元」とうま味たっぷりの「手羽先」
「手羽」は、羽の付け根の部分。上腕の部分を「手羽元」、人間でいうと、ひじから指先にあたる部分を「手羽先」といった感じで区別されています。
骨が太く脂肪が少ない「手羽元」は、どちらかというと淡白な味わい。ボリュームがあり、フライドチキン、ローストチキン、煮物など多彩な料理に使えます。たまに、しっかり焼いたり、煮たりしたはずなのに紅い液体がにじむことがあるようです。血のように見えますが、じつはこれは骨から染み出た骨髄液。5~10分ほど下ゆですると、にじみ出るのを軽減できるそうです。
皮がついている「手羽先」は脂肪が多い分コクがあり、照り焼きや唐揚げなどに向いています。うま味があるので、中華スープや野菜スープの具にするのもおすすめだそう。身の部分に通っている骨と骨の間に包丁で切れ込みを入れると、身離れがよくなりますよ。この手羽先の先端の部分を取りのぞいたものを「手羽中」と呼ばれています。
一口に「鶏肉」といっても、バリエーションは豊富。ざっくり調べただけでもたくさんの知識が得られました。それぞれの特性をうまく利用すれば、料理の幅も広がりそう。親子丼にもいつかリベンジするぞ!
2021年12月の情報をもとに掲載しています。