歴史・トリビア

ナイジェリアのうま味の秘密は「豆」にあり!
味の素グループの「うま味ハンター」が生み出したものは・・・

まずは、このコマーシャル映像をご覧ください。



とある外国のキッチン。母親と思われる女性が鍋で料理をつくっているところに、娘らしき女性が何やらパッケージから粉末をふりかけます。ふたりのカラフルな衣装もあって、まるで魔法のよう。

調理された料理を味わって、あら、美味しい!

この商品は「DeliDawa™」という、風味調味料です。

味の素グループがナイジェリアで展開しているウエスト・アフリカン・シーズニング社(WASCO)が発売し、ナイジェリアでも徐々に注目されている商品です。

実は、この「DeliDawa™」の開発には、「うま味ハンター」と呼ばれる日本人の活躍がありました。

豆は世界中の料理に使われる食材のひとつ

世界中の多くの料理に使われる食材のひとつに「豆」があります。

このマメ科の植物は世界中のあらゆる場所で生産することができ、もっとも古くから栽培されている植物のひとつです。アジアでの歴史は9,000年前にさかのぼります。

豆にはタンパク質、複合炭水化物、繊維質、鉄分が多く含まれ、必須アミノ酸や栄養素の供給源となります。さらに、豆を発酵させることで、消化性と貯蔵寿命が向上し、天然毒素が除去され、風味が増します。

日本の納豆、中国の豆鼓、インドネシアのテンペのように豆を使った発酵食品はアジア全域に見られ、それらから醤油や味噌のような調味料も作られています。

さまざまな発酵食品
キムチ
ザワークラウト
サワードウブレッド
醤油

ナイジェリアの食を食べ尽くす

元味の素グループの小林健一氏は「うま味ハンター」を自称する食品科学者です。
ナイジェリアのウエスト・アフリカン・シーズニング社(WASCO)に赴任した2015年当時、小林氏はもともと発酵についての豊富な知識を持っていましたが、ナイジェリアの食べ物については何も知りませんでした。


「現地の食べ物は、私が食べて育った物とはまったくの別物でした。」と、小林氏は当時を振り返ります。

「最初、ナイジェリア人は、私たち日本人とはかなり異なる味覚を持っているように思えました。しかし、舌の構造は私たちとまったく同じです。そこで私は、ナイジェリアの食べ物をたくさん食べれば、現地の味を理解できるようになるはずだと考えました。」

彼は、WASCOの現地スタッフとともにナイジェリア市場向けの新しい調味料を開発することを目指し、国内をあちこち旅しながら、現地の生活に溶け込み、あらゆる食べ物を食べ尽くしました。

小林健一氏(中央)はナイジェリアの現地の食べ物だけを毎日食べ続けて、味覚の訓練をしました。

出会ったのは「アフリカの納豆」?

ある日、小林氏に、ナイジェリア北部のカノ州出身のスタッフが「ダダワ(Daddawa)」を教えてくれました。

ダダワは、スープ、シチュー、その他の料理に加えられる伝統的な発酵調味料で、イナゴ豆を茹で、葉に包んで発酵させた後、挽いて丸めてペースト状にしたものです。

ツンとくる刺激臭を伴う「ダダワ」は、ナイジェリアだけでなくアフリカの他の地域でも親しまれている発酵食品です。

やはり、ナイジェリアでも「豆を発酵させたもの」がうま味を得るために活用されていたのは非常に貴重な発見でした。

「ダダワから納豆菌を検出し、グルタミン酸を多く含むうま味調味料としての役割を果たしていることを確認しました。」

ダダワを作るには何日もかかります。ダダワを作るのは一般家庭では女性の役割とされ、通常は屋外で行われます。イナゴ豆の殻を剥いていく過程で砂や不純物が混ざり、刺激臭がハエを寄せ付けるなど、手間がかかるだけでなく衛生面においても多くの問題がありました。

小林氏とWASCOのR&Dチームは、すでに市販されているダダワの衛生上の問題や、長くても2週間という賞味期限の短さに着目。ダダワを、包装された粉末調味料として生活者に提供できないか、と考えました。

そして、彼らはダダワを作る作業からの解放と衛生状態の改善は、人々の生活を向上させる機会になるのではないかと考えたのです。

乾燥粉末調味料「DeliDawa™」の誕生

小林氏らのチームは、衛生管理された工場でダダワの代替となり得る粉末調味料の工業化に着手しました。

しかし、物事はスムーズには進みません。たとえば、原料の調達、主原料となる豆の効率的な粉砕法や蒸煮法および発酵法の確立。これまでになかった新しい製品の特長が一目でわかるパッケージや広告の開発など、多くの課題を乗り越えなくてはなりませんでした。

そして、最終的に完成した商品「DeliDawa™」は1回分ずつ個別密封された長期間保存可能な乾燥粉末で、地元の市場で売られている従来のダダワよりもうま味が強く、手ごろな価格もあいまって、現地の消費者に徐々に受け入れられ始めています。

多くの課題に直面している大国ナイジェリア

ナイジェリアは大国でありながら原油輸出に依存しており、農業や工業が未成熟で資源を有効活用できておらず、国民の健康や栄養面で多くの課題に直面しています。さらに経済の発展にともなう開発によって急速な変化がもたらされており、現地の伝統的な製品などが便利な外国製品に取って代わられるようになっています。

「私たちの目標は、地元の料理に根ざした製品を作り、人々の生活を改善することです。単に現地の製品を外から入ってきた新しい製品に入れ替えようとしているのではありません。」と小林氏は言います。

ダダワに似た調味料は、ナイジェリアだけでなく、西アフリカ一帯にも存在します。いつの日か「DeliDawa™」がアフリカ大陸全土の人々の食卓に上がり、さらには世界中のキッチンで醤油や味噌と同じような使われ方をするようになるかもしれません。

1回分ずつ個別包装され長期間保存可能な乾燥粉末調味料「DeliDawa™」を手にするWASCOの担当メンバー。

WASCOは、西アフリカ地域のすべての人々の健やかな食生活と健康に貢献することを目標に、国内の原材料から作られる現地ならではの調味料の開発を続けています。

「うま味ハンター」 小林健一氏のナイジェリアでの活動の様子を動画でご覧いただけます。

撮影・編集 岸田浩和氏 (株式会社ドキュメンタリー4)

2020年8月の情報をもとに掲載しています。

歴史・トリビア

インドネシアで超有名!「Masako」の正体とは?

インドネシアで有名な日本人、というと誰の名前が浮かぶでしょうか。「マサコ」「サオリ」「マユミ」と答えたあなた。インドネシアでスーパーに通っていましたね?そう、「Masako」「Saori」「Mayumi」は、インドネシアのキッチンには欠かせない名前なのです。

インドネシアの食卓に並ぶ「Masako®」「Saori®」「Mayumi®」

あなたの名前がマサコさんなら、インドネシアでは話題を独り占めできること間違いなし。試しに、ジャカルタのスーパーで店員さんに「Nama saya Masako(わたしの名前はマサコっていうのよ)」と話しかけてみましょう。店員さんからもお客さんからも、「マサコ!大好きだよ!」と言われ、あっという間に大人気になること間違いなしです。
なぜなら、Masakoはインドネシアのご家庭ではおなじみの調味料だからです。
味の素社はインドネシアの「Masako®」、タイ・カンボジアの「Ros Dee®」(ロッディー)、ベトナムの「Aji-ngon®」(アジゴン)、ブラジルの「Sazón®」(サゾン)、ナイジェリアの「MaDish」(マディッシュ)など、世界各国でその国の家庭料理に合わせた調味料を開発し販売しています。
肉・魚・野菜などのエキス、香辛料、塩・砂糖、うま味調味料をブレンドし、スープや煮込み料理から炒め物、料理の下味付けなど幅広い用途に使われています。日本でいえば「ほんだし®」の位置づけにあたる調味料です。

でも、「Masako®」という名前はちょっと不思議ですね。この商品名は、インドネシア語の「Masak=料理する」という言葉に由来しているのだとか。現地語を使った親しみやすさと、日本らしさの両方を意識した、技ありのネーミングですね。
発売は1989年。以来多くのお客様から支持をいただき、インドネシアのカラワン工場・モジョケルト工場で現地生産された「Masako®」は、インドネシアの調味料市場で60%以上のシェアを占めています。
さらに、サオリさんやマユミさんも、インドネシアの話題の中心になれるかも。
「Saori®」はてり焼きソースやオイスターソースなどの液体調味料、「Mayumi®」はマヨネーズ。どちらも今ではインドネシアの食卓には欠かせない一品です。

https://www.ajinomoto.co.id/id/produk-resep/produk-retail

「Masako®」開発秘話・インドネシア各地を食べ歩き

さて、この「Masako®」の生みの親ともいえるのが、当時インドネシア味の素社に駐在していた深見賢治さんです。
「Masako®」の開発がスタートした1980年代後半、インドネシアの調味料市場では欧米メーカー・ユニリーバ製の「Royco」が一世を風靡していました。しかし、消費者の動向を見てみると、購買層は都市部在住者が中心。そこで深見さんは、商品開発のターゲットを農村部に定めます。
コンセプトは「生活に余裕がなくても、毎日チキン味の料理を食べられる」。つまり、「Royco」より安くておいしいチキン風味調味料をつくることを目指しました。
当時のインドネシア味の素社には商品開発部門はなく、深見さんは日本とインドネシアを往復しながら開発に取り組みます。そもそも、「インドネシア料理とはどんなものか」という知識や、ハラル(インドネシアで多くの人が信仰するイスラム教の戒律で許されていること。この場合、食べてよいとされる食材・食品)についても認識も少ない時代。
深見さんはインドネシア料理の特性をつかむため、現地で徹底的に料理を食べ歩きました。

ついに完成!貧困な農村部でもおいしい食事を

完成した試作品を携えた深見さんは、現地スタッフとキャラバン隊を組み、最後の仕上げとしてジャワ島・バリ島の農村部4カ所、都市部2カ所を約1カ月かけて巡りました。電気・ガス・水道などの生活インフラもなく、質問を理解してもらうまで何人もの通訳を介する必要があるなど非常な困難を伴いましたが、「Masako®」がターゲットにしている農村部の皆さんの生活に直接触れる体験は得難いものだったとか。

深見さんと商品開発チームが3年の年月をかけて生みだした「Masako®」は、今でもインドネシアの豊かな食生活に貢献し続けています。
味の素グループならではの食とアミノ酸の知見を生かし、「おいしく栄養を摂ることを通じて世界各地の健康な社会に貢献したい」という思いが、結実したプロジェクトです。

2020年6月の情報をもとに掲載しています。