研究開発

泳ぐカツオの回遊ルートを追え「カツオ標識放流調査」

味の素グループの主力製品である風味調味料「ほんだし®」、その原材料となるカツオに、食資源としての危機が迫っているという。かつお節やかつおだし、刺身など、日本人にとっては馴染み深い食資源であるカツオを守るため、味の素グループは、カツオ1匹1匹の動向を探る調査「カツオ標識放流調査」に乗り出した。

豊富だったはずのカツオが日本近海で獲れなくなっている

もともとカツオは再生産能力が高いため豊富な資源量があるとされてきたが、近年では遠洋漁業国や周辺の島嶼国で大型巻き網漁が拡大した影響もあり、日本近海や沿岸では不漁が続いている。

自然の恵みである以上、再生産能力以上に捕獲を続ければいずれは枯渇してしまう。
食資源の保全と、持続可能な利用のため、まず取り組むべきことは何か――。カツオを多く利用する立場として考えた味の素グループは、2009年から日本の国立研究開発法人水産研究・教育機構 国際水産資源研究所と共同で「カツオ標識放流調査」を開始した。

こんなに身近な魚なのに、実は、その回遊ルートや詳しい生態については未だ解明されていないことが多く、守るべきものの生態を知るところから始めなくてはならなかった。

カツオを"守る"とはカツオについて"知る"こと

標識放流調査とは、釣り上げたカツオに標識をつけて放流後、次に釣り上げられたところで標識を回収し、データ分析を行うというもの。奄美大島の瀬戸内町・古仁屋港を拠点に活動している漁業関係者の協力も得られた。

「カツオがどの海域で生まれ、どのように回遊しているか」「熱帯海域との関わりはどうなっているのか」などが、これによって明らかになる。得られたデータは国内のカツオ漁業関係者と共有する仕組みだ。

標識漂流調査の説明図:海の中にチェーンで設置した人口浮きである表層浮魚礁(パヤオ)と、そこを拠点とした調査が図解されている。パヤオに設置した受信機が半径500メートルに回遊する標識付きのカツオとマグロを観測。範囲内の有無、ID、深度を計測。その後ダイバーが受信機を回収し分析を行う。同時に漁船にも受信機を設置し同様にデータを受信。こちらではGPS送信機を用いてリアルタイムにインターネットで研究者へ配信することが図解されている。

約10,000尾のカツオに対して通常標識放流調査を行い、2011年からは世界最先端の記録型電子標識(アーカイバルタグ)を用いた調査も開始。

2016年からは台湾の水産試験所との共同調査も開始し、調査範囲を拡大。2018年4月からは、この調査を共同事業として広めながら参加可能な漁業関係者を募り、カツオを世界の食資源として管理するための「国際資源管理ルール」の構築をも目指していく。

調査の成果

従来、カツオは黒潮に乗って北上回遊すると思われていたが、調査によって、亜熱帯地域から日本近海にかけて4つの回遊ルートがあると推定されている。また、10日間の鉛直遊泳行動を分析したところ、カツオは、昼は深く、夜は浅い海に生息していることも判明した。

4本のカツオの北上回遊ルート図:調査前と調査後の推定ルートが図解されている。調査前として亜熱帯地域から北に向かって伸びる黒潮ルートがピンクの矢印で表示されている。調査後は4ルートになり、黄色の矢印で左から黒潮ルート、九州・紀州沖ルート、伊豆・小笠原ルート、東沖ルートに分かれたことが分かる。

グラフ図:四月十日から四月十九日の十日間にわたって水温ごとにカツオの回遊深度を表したもの。一番振れ幅が大きかった十四日の場合、夜だと水温が二十二度以上となる水面付近を回遊し、昼間は水深四百メートルを回遊し、水温は十二度となっている。このことから差の大きさの違いはあるが、どの日も同じ動き方をしていることが分かった。

最新型超音波標識(ピンガー)を用いた調査の開始

2015年からは、東京海洋大学海洋環境学部門の協力を得て、カツオの遊泳データを超音波で送信する最新型超音波標識(ピンガー)を導入。2016年には、漁船搭載型受信機システムを開発し、与那国島沖において外洋環境での実証実験に成功した。

2019年3月の情報をもとに掲載しています。