食と健康

カレーは2日目がうまい!でもその前に知るべき「夏の食中毒予防と食品添加物」の話

夏本番に向けて、気をつけたいのが「食中毒」。

とくに梅雨から夏にかけては「細菌性」の食中毒が多く発生しやすい季節です。その原因も、あきらかな失敗もありますが、ちょっとした不注意や誤解や思い込みによって発生するものも少なくありません。

味の素社では、食中毒を予防する対策などを解説したニュースレターを発信しました。今回の記事ではその内容についてご紹介します。

カレーは作ったその日よりも、翌日からさらにおいしくなるからといって、鍋に入れたままにしておくのはとっても危険。その理由もご紹介しましょう。

「2日目のカレー」にも要注意! 夏の食中毒は「細菌性」が多い

夏は食中毒が多い時期です

厚生労働省が発表した「令和元年 食中毒発生状況」によると、平成29年から令和元年の年間食中毒発生件数は、平成29年/1,014件(患者数16,464人)、平成30年/1,330件(17,282人)、令和元年/1,061件(13,018人)と、いずれも1,000件を超えています。

食中毒になる原因として多いのは「細菌(病原大腸菌、カンピロバクター属菌など)」「ウイルス(ノロウイルスなど)」「寄生虫(アニサキスなど)」の3つですが、蒸し暑い季節には特に「細菌」の食中毒が多発します。

昨年6月、埼玉県八潮市内の全15小中学校に給食を作る給食センター(病原大腸菌により児童・生徒ら3,453人が食中毒)、7月には滋賀刑務所(受刑者120人が食中毒)など、集団の食中毒が発生しました。埼玉県八潮市の事例では、海藻サラダに使用する乾燥海藻を前日に水で戻し、加熱を行わなかったことで、それが病原大腸菌を拡散させたと原因が特定されています。

食中毒の原因になる細菌が増える原因は?

細菌も私たち人間と同じ生き物です。生き延びるために必死なのです。細菌たちは、生きるために必要な、温度、水分、および栄養がそろったときに活動が活発になり、仲間を増やします。1つの細菌が2つになり、4つになり、またそれぞれがさらに増殖する...というように急激に増えていきます。室温10度くらいで増殖し始め、30〜40度で増殖スピードが一気に速くなります。腸炎ビブリオ菌の場合は、菌数が1つだったものが、1時間後には64程度まで増え、2時間後には約4,000に増殖します。それが3時間後には約25万となり、6時間経過段階での菌数は約690億にまで達します。味、においでは気付かないうちに増殖は進行しています。食べるときに再び温めれば大丈夫だと思い、作ったあと鍋の中に入れっぱなしのスープやカレー、お弁当の食べかけなどは要注意です!

この時季に知っておきたい菌&その対策

食中毒の原因になる菌はさまざまです

サルモネラ属菌、病原大腸菌、ぶどう球菌、カンピロバクターなどの名称を目や耳にしたことがある方も多いと思います。これらはいずれも食中毒を引き起こす菌で、それぞれが異なる特徴を持っています。この特徴を知ることは、食中毒の未然防止には必要なことです。

コロナ禍で増加したテイクアウト&デリバリーの基本は「すぐに食べる」

緊急事態宣言による営業自粛から、テイクアウト需要が注目されています。「お店の味」をお家で気軽に楽しめることから、特に飲食店が多いエリアでは好評です。テイクアウトで自宅に持ち帰った食べものは、すぐに食べるのが鉄則。食中毒予防として①清潔に ②迅速に ③正しい温度管理 が、お店側のできる食中毒対策です。

それに加えて感染症対策も必要と指摘するのは、北海道大学名誉教授の一色賢司先生です。一色先生によると、上記①〜③に加えて、④病原体を殺す ⑤感染経路を遮断する ⑥(悪い菌に)隠れ家を与えない、ことが大切だと注意を喚起しています。

食中毒・感染症対策がフードチェーンの全域で必要です

最近よく聞く言葉に「フードチェーン」というものがあります。食品の安全性に関する用語で、食品の一次生産から消費に至るまでの食品を供給する行程を指すものです。

例えば「生産(農場・漁場)」→「流通・保存(保管)」→「加工」→「調理・消費」のように、連鎖する各段階を指します。この各段階で「食品の安全性」を保つことができるように、汚染がないか、悪い菌の増殖がないかなどの対策を講じることが必要だとされています。

(例「腸炎ビブリオ食中毒防止のための水産食品規格・基準」の場合:切り身、剥き身の生食用鮮魚介類加工品の場合 ①成分規格 腸炎ビブリオ菌数100以下/g ②加工基準:飲用適の水、殺菌海水または人工海水を使用、原料の鮮度は良好であること、衛生的に解凍すること、清潔な器具を使用すること ③保存基準:10度以下、清潔な容器包装 ④表示基準:生食用であること 10度以下の保存が必要であること などが定められています)

冷蔵庫は「魔法の箱」ではない

家庭における食品の安全性の中心は冷蔵庫保管です。ですが、実は食中毒菌やウイルスは冷蔵温度では死滅しないのです。増殖が抑制されるだけです。冷蔵庫の中でも増殖可能な菌(リステリア)による食中毒も起きています。冷蔵庫はゼロリスクをもたらす魔法の箱ではありません。買い物から帰ったらすぐに、冷蔵や冷凍の必要な食品は冷蔵庫への「先入れ」を実行し、もしも入れ忘れて常温で放置してしまったものは、もったいないけれど破棄しましょう。また冷蔵庫には、あれもこれもと多くの食品を詰めすぎてしまいがちです。計画的な食材の使用を意識して、詰めすぎない「清潔な冷気の循環」にも気を配るべきです。

さらに言えば、冷蔵庫保存をしておけば、多少、消費期限や賞味期限が超過していても大丈夫だと考えがちです。特に消費期限が超過した食品の冷蔵庫保存における食中毒リスクについては、食品や加工法、包装方法は多種多様ですので、一概には判断できません。表示をよく読み、適切な保存方法や注意点を確認した上で保存し、開封後は早く食べるように「先出し」を心がけましょう。残った場合も、なるべく早く、できれば再加熱して食べるようにしましょう。

食品には食中毒を防ぐさまざまな工夫がされています

「悪い細菌」を遠ざけるコンセプトは?

少し専門的な話をします。食品の中の微生物が、人間にとって有用(好都合)であるときは「発酵」であり、無用(都合が悪い)であれば「腐敗」ということになります。日本は発酵大国で、しょうゆ 、みそをはじめ、ぬか漬け、日本酒などなど、和食の文化には「発酵」は欠かせません。

一方で「腐敗」を防ぐためにも、さまざまな知恵を生み出しています。食品中の微生物をなるべく上手に制御して「腐敗」を限りなくゼロにする観点から考えると、①物理的 ②生物的 ③化学的 の3つを組み合わせて実施することが近道だということがわかりました。

上の図のように考えるとわかりやすいでしょう。①②③を単独で行うのではなく、それぞれの手法を必要に応じて組み合わせるのが一般的です。例えば殺菌(加熱する、非加熱で紫外線などを使うなど)・除菌(ろ過する、洗浄するなど)・遮断(コーティングする、包装に工夫など)・静菌(品質保持のため冷凍や冷蔵、水分活性低下のため乾燥や物質添加、抗菌物質添加、真空による酸素除去など)などを組み合わせることで、「悪い細菌」に対してのリスクヘッジを行っているのです。

ひと口に「加工食品」といってもさまざまです

話を食中毒に戻します。「令和元年 食中毒発生状況」によると、原因食品別の発生件数は、魚介類が約25%、加工品(魚介類、肉類、卵、乳製品、野菜など)が約11%となっています。このことからも市販されている加工食品は食中毒対策がなされていることがうかがえます。

私たちの暮らしには加工食品が欠かせないことを実感したのが、コロナ禍でした。2020年第14週(4月6日~12日)の加工食品全カテゴリー合計の売上高は、前年同期比21.0%増と、第12週に続き再び20%増を上回り、冷凍食品の売上高も24.2%増でした(食品産業新聞社のデータによる)。

これら加工食品を製造・流通させるとき、品質を維持して私たちが安心して口にすることができるための縁の下の力持ちというべき存在が「食品添加物」です。

ご存知の通り、肉や魚などの生鮮食品は日持ちがしません。加工食品では、保存料や殺菌剤などの食品添加物によって食品を長持ちさせ、おいしくムダなく食べることができます。練り製品の原材料となる魚は、水揚げされたその場で日持ちがして菌を減らすように加工され、すり身にします。すり身は冷凍保存することで、遠方にある工場まで運ばれ、かまぼこやちくわ、はんぺんなどにさらに加工することができます。肉の場合は、ハムやソーセージに加工されるときに、おいしい色を保ち、腐らないようにするために食品添加物がはたらいているのです。

私たちの「食」を守るために行われていること

「食品」と「添加物」は、何が違うの?

人類は調理法のひとつとして、食品と食品を混ぜることや、いろいろなものを加える(添加)ことをはじめました。塩を加える、酢で〆る、砂糖で甘くする...。これによって食品が長持ちし、さらには味わいや口あたりも良くなることがある、ということを経験してきました。これら調味料はいずれも「食品」という扱いになっていますが、「食品添加物」は食品の製造過程で、または食品の加工や保存の目的で食品に添加、混和などの方法によって使用するものと定義されています。食品のおいしさや味・香りに必要な甘味料や香料、栄養成分を補うビタミン、ミネラル、品質を維持する保存料、酸化防止剤などがこれにあたります。中華麺のコシを生む「かんすい」や、豆腐を固める「にがり」、こんにゃくのアクを抜き、雑菌を防ぐ「消石灰」も大昔から使われている食品添加物です。

安全を守るためには、食品に加える(添加する)ものの量が重要です。一例として「塩」をみていきましょう。毎日、10~20gの塩を食べ続ければ脳卒中や心臓病のリスクが増えてしまいます。逆に適切な量の塩(現在日本では一日の食塩摂取目標量は女性6.5g、男性7.5g※1)であれば、通常健康への影響※2は見られないのです。どんな食品でもたくさん摂れば悪影響がありますが、適切な量であれば問題ありません。摂取する量で安全かどうかが決まるのです。

※1 出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」
※2 「日本人の食事摂取基準2020年版」では高血圧症及び慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目的に食塩相当量の推奨値として1日6g未満を設定

日本の安全基準は世界水準

では、安全な量は、どのように決めているのでしょうか。食品添加物の安全性評価では、試験により何の有害な影響がみられなかった量を「無毒性量」とし、さらに、この無毒性量の1/100の量を「人間が一日に摂取する許容量」として定めています。これは一生、毎日食べ続けても健康に影響のない量で、食品添加物のほかに残留農薬の基準値にもなっています。さらに、安全を確保するため、食品添加物は適宜適切に使用基準の見直しも行われているのです。

日本は、世界的にみてもかなり厳しい安全基準を定めています。新聞やテレビでは、基準違反のニュースが報道されることがありますが、基準は大幅な安全域をみているので、これの10倍、20倍を超えてもすぐに健康被害が出てしまうことはありません。厳しい基準をクリアして私たちの食卓に並んでいる食品の安全性は、世界でもトップクラスと言えるのです。

食品をより安全にするための5つの鍵(Five Keys to Safer Food Manual)

2006年に世界保健機関(WHO)が発表した「食品をより安全にするための5つの鍵(Five Keys to Safer Food Manual)」には、食品衛生の基本的な知識が記されています。

おわりに

「食品添加物」は暮らしのパートナー

以前の法律では、合成添加物だけが食品添加物と指定されていたのですが、現在では天然、合成の区別なく食品添加物として認められています。昔から着色のために使われてきたシソの葉やクチナシなどは、現在はエキスにして食品添加物の着色料として使用されています。食品添加物は、長い時間を培われて成熟していく食文化の一端を担っている存在でもあるのです。このように天然由来のものが数多くあり、文化的にも技術的にも後世に受け継がれていくべきものと言えるでしょう。

食中毒の予防や安全な食のためには、加熱や殺菌などの技法と添加物をうまく組み合わせて保存するのが日本人の得意とするところです。あまり目立たないけど心強い、暮らしの良きパートナーである食品添加物の適正使用が、私たちの食を支えています。

監修:一色 賢司(いっしき けんじ)先生

北海道大学名誉教授、放送大学客員教授
(一財)日本食品分析センター学術顧問
(一社)栄養改善普及会会長

2021年7月の情報をもとに掲載しています。