Well-being

カツオを骨まで使い切る。味の素グループが考える持続可能なフードシステムと目指す“Well-being”とは

素材の持ち味を引き出し、料理にコクと深みを与えてくれる、うま味調味料「味の素®」。

その開発・販売を行う味の素グループには、食資源を扱う会社だからこそできるサステナブルな活動や、独自性の高い経営方針があるという。

和風だしの素「ほんだし®」の製品製造過程では、原料のカツオを全て使い切るという「フードロス削減」に取り組んでいるが、味の素グループはなぜそうしたアクションができるのだろうか。

サステナビリティ推進部の遠藤清佳さんに、フジ・メディア・ホールディングス サステナビリティ推進室・木幡美子さんが聞いた。

フードロス削減は川上から川下まで

味の素株式会社サステナビリティ推進部 遠藤清佳さん

――味の素グループがサステナブルな活動の一環として、“フードロス削減”に取り組まれている理由を教えてください。

大きく2つの理由があります。

1点目は、事業継続のために必須だからです。当グループには「味の素®」をはじめ、さまざまな商品があります。その多くは農作物を原料にしているため、わたしたちの事業は農作物に支えられているとも言えるのです。そういった限りある食資源を効率的に循環し、大切に使い続けるために、フードロス削減に取り組んでいます。

2点目は、「強靭で持続可能なフードシステム」の構築に必要だからです。実はフードロスには、食糧難だけでなく、生物多様性の損失から生産現場の人権問題に至るまで、フードシステムに関連した多くの課題が存在します。

当グループは、こういった社会課題に対し、事業を通じて取り組むことで、より持続可能なフードシステムの構築に貢献したいと考えています。

――具体的にはどのような活動をしているのですか?

味の素グループのフードロス削減取り組みを推進していくためのブランド「TOO GOOD TO WASTE ~捨てたもんじゃない!~™」

フードロスの「川上」から「川下」まで、バリューチェーン全体でさまざまなアクションを展開しています。たとえば、「川上=原料生産の段階」においては、「ほんだし®」等の原料使い切りといった取り組みや、「バイオサイクル」という食資源を循環させる仕組みを構築しています。

「川下=卸・小売り・外食産業等、そして生活者の消費の段階」においては、2022年にフードロス削減取り組みを推進していくためのブランド「捨てたもんじゃない!〜TOO GOOD TO WASTE~™」を立ち上げています。

また、当社のオウンドメディア「AJINOMOTO PARK」を通じた、フードロス削減に役立つ情報、レシピの発信などを行っています。

骨や内臓まで活用「ほんだし®」の原料使い切り

「ほんだし®」の製造工程で副生物を仕分け

――「ほんだし®」の原料使い切りというのはどういったものですか?

「ほんだし®」はかつお節を原料にしていますが、その原料に活用されるのは全体の2割程度でした。頭、骨、内臓といった副生物の多くは、廃棄されていたのです。

そこで1997年に、㈱かつお技術研究所を設立し、以来カツオを丸ごと有効利用するという理念を実現してきました。

現在そこでは、たとえば頭と内臓といった「副生物」は発酵食品に、カツオから出る煮汁は調味料製品の原料に、また中骨の部分は「毎日カルシウム・ほんだし®」のカルシウム成分などにして、従来「廃棄物」と扱われてきた部分までしっかり原料を使い切る取り組みを行っています。

――まさに「使い切って」いるのですね。

同じように、たとえば「クノール®カップスープ」のとうもろこし原料も使い切るようにしています。副生物となる皮と芯は牛の飼料にし、畑に残った葉や茎は有機肥料にしています。

社会や地球も含めた「Well-being」

アミノ酸の原料となるサトウキビ

――食資源を循環させる「バイオサイクル」はどのようなものなのですか。

当社の「味の素®」のうま味のもとになっているグルタミン酸などのアミノ酸はサトウキビなどを原料としています。原料と発酵菌をタンクで混ぜ合わせ発酵させて生産していますが、原料からアミノ酸を抽出した後に残る発酵液は栄養豊富です。

そこで私たちはそういった副生物を貴重な資源として、たとえば、地域の農家などに肥料として還元しています。その肥料で再びサトウキビなどの作物が育ち、その作物がやがて「味の素®」の原料となる。この資源の循環を「バイオサイクル」と呼んでいます。この取り組みは現地の生産者にも喜んでいただいています。

――「バイオサイクル」はどのようにして誕生したのでしょうか。

1980年代、世界的な環境問題への意識の高まりを受けて、まずはフィリピンで、サトウキビなどから出る副生物の農業利用が始まりました。

それがインドネシアやブラジルなどに広まり、2001年にタイで事業化され、味の素グループの世界的なネットワークの中で発展したかたちになります。

――1980年代からサステナビリティの分野で先進的な活動をされていますが、その先進性はどこから来るのでしょうか。

当グループの創業の志は「おいしく食べて健康づくり」です。それが、今のASV(=Ajinomoto Group Creating Shared Value:事業を通じて社会価値と経済価値を共創する取り組みで、味の素グループの経営の基本方針)につながっています。この考えが社内に根づいている影響が大きいと思います。

――志が根付く一方で、先進性を保つために進化し続けていることはありますか。

従来のパーパスは「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」でした。それが今年「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」に進化しました。これが新しいパーパスです。

「アミノサイエンス®」とは、アミノ酸のはたらきにこだわった研究プロセスや実装化プロセスから得られる多様な素材・機能・技術・サービスの総称をいいます。それを活かし、「食と健康」といった「人」にフォーカスしたところだけでなく、「社会」や「地球」も含めたWell-beingにつなげることを目的に据えたのです。

サステナビリティ=我慢ではない

味の素株式会社 川崎事業所

――サステナビリティを担当されている遠藤さんは、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」にどのような思いを投影されていますか?

サステナビリティというと「環境」を思い浮かべる人が多いと思います。ですが、「環境」だけでなく「人権」「栄養」もサステナビリティの構成要素となっており、とても重要だと考えています。

当グループは「妥協なき栄養」を提唱しています。これは、十分な栄養をすべての人に届けるという意思表明です。私は、その考えをもとにした「おいしさに妥協しない」という発想に味の素グループらしさを感じています。

おいしさは「味」だけに関わるものではありません。おいしさはそれこそ「文化」でもありますし、人々のアイデンティティーにつながるものでもあります。秋に季節もののサンマを食べたり、こだわりの味のコーヒーを飲んでほっとしたりと、おいしい「食」にはその人の生活を豊かにする力がある。

それらの要素すべてを総合すれば、それは「Well-being」、つまり「幸せ」につながると思うのです。

――最後に味の素グループの今後の展望を教えてください。

味の素グループが目指すフードシステムで繋がる2つのアウトカム

2030年に向けて「10億人の健康寿命の延伸」「環境負荷50%削減」の2つのアウトカムを掲げ、目標達成に取り組んでいきます。その目標達成に取り組んでいきますが、そこには気にしなければいけないこともあります。

サステナビリティというと、人によっては「我慢」をイメージするかもしれません。ですが、サステナビリティは、みんなが安心して豊かで満たされた生活を送れるようにすることだと私は考えています。

そのために私たちは、これまで先人が、また当グループが培ってきた技術や英知を活かして、味の素グループだからできること、味の素グループでなければできないことで貢献していきたいと考えています。

FNNプライムオンラインの記事はこちらから

カツオの収穫から「ほんだし」ができるまで。

2023年12月の情報をもとに掲載しています。